東方十能力   作:nite

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三百七話 神の頂、剣の頂

神綺によって、さらに磨かれた球が完成した。

ルーミアも頑張ったのだが、残念ながら神綺ほどの精度にはならなかった。頑張ったのは事実なので、取り敢えず頭を撫でておいた。

 

「これならば、定晴さんでも簡単には斬れないと思うわ。それじゃ頑張って~」

 

そう言って神綺はパンデモニウムの中に戻っていった。

 

「幽々子はもういいのか?」

「ええ。楽しくお話してきたわ~」

 

紫の話によると、幽々子は何千年も昔に生きていた人物らしい。神綺も種族的に寿命なんてなさそうだから、もしかしたらどこかで会っているのかもしれない。

霊夢だって魔界に来たことがあるらしいし、幽々子が来たことがないと決めつけることはできないだろう。

 

「さて、やるか」

 

俺は輝剣を構えて、岩と向き合う。

神綺によって整えられた岩は、見る限りほぼ真球だ。摩擦係数がやたらと低いこの岩と合わさって、斬ることは相当な技量を求められるだろう。

竹刀で固定されていない風船を割るようなものだろうか。あちらは求められている技量のベクトルが違うが、難易度は同じようなものだろう。何年も修行した人がたどり着ける、言わば境地である。

流石にそこまで至るには、俺には時間が足りなさすぎるので、なんとなくでいいから感覚を掴むところまではいきたい。まあ、無理だろうけど。

 

「せいっ!はっ!」

 

妖夢はいまだに、ルーミア加工の岩で苦難している。先ほど見たときよりも、岩に傷をつけることができるようになっているように思えるが、未だに一刀両断には至っていない。

 

「…そういえば、あれを使えばどうなるのだろうか」

 

先日、俺が模写した技。神の領域に至ることで実現された、人間には見ることのできない頂の剣。

身体強化を使っても、腕が壊れるような錯覚があるこの剣は、ある意味俺の目指すべき目標なのかもしれない。

 

「妖夢」

「せいっ!せ…は、はい」

「中断させて悪い。今から、俺が模写した神の剣技を見せる。俺には見えなかったけど、妖夢には何か見えるかもしれない」

「神の…わかりました。心して観察してみようと思います」

 

俺は神綺加工の岩に改めて向き合う。

身体強化を使った後、無効化を使う準備をする。剣技の反動を打ち消すためだ。

依姫が見せてくれた、剣の頂をここに再現する。模写というのは、常に見本を生み出せるということでもあるから、鍛錬にはもってこいな力なのかもしれない。

 

「ふぅ…はっ!」

 

横なぎに、輝剣を振る。反動を無効化しようと思ったが、失敗して腕には激痛が走る。

岩は、きれいに真っ二つになった。断面は、まるで加工したかのように滑らかだ。

 

「がっ…」

 

前に使ったときは、依姫との戦闘中ということもあってか、ハイになっていたのだろう。今の通常状態だと、耐えられるような痛みではない。

俺は膝を地面についた。再生をかけてはいるけど、痛みが激しすぎて立つことはできない。

 

「ごし…定晴、大丈夫!?」

「定晴さん!」

 

ルーミアとユズがすぐに駆け寄ってきた。焦りすぎて、ルーミアは一瞬呼び方を間違えそうになっている。そういうミスがなくなると式神契約の時に聞いたはずなのだけど。

 

「…どうだ、妖夢。何か見えたか」

「……」

 

妖夢は、俺が斬った岩を見ている。

 

「…すみません定晴さん。私には、見えませんでした」

「そうか…」

 

妖夢にも見えなかったか。ミキくらいまで昇華できないとみることができないのかもしれないな…

妖夢は「でも…」と続ける。

 

「頂を見ました。霊力や妖力などを使わない、ただ技量だけの剣技。その頂を」

「そうか」

 

妖夢には、剣士としての何かが見えたのだろう。

 

「なんだか、私もこの岩を斬れるような気がしてきました」

 

妖夢は、自分のルーミア加工の岩に向かい合った。

その雰囲気はまるで水のように穏やかで、しかし、目にはひたすらに鋭い力が宿っている。

俺は休憩として地面に座り込んだ。腕の痛みが引くまでは、剣は振れそうにない。その間は、妖夢の挑戦を見ることにしよう。

 

「定晴さん、大丈夫ですか?」

「慣れてる。大丈夫だユズ」

「びっくりさせないでよ…」

 

ルーミアとユズが不満そうだ。そういえば、この二人の前でも使ったことがなかったな。

 

「こういう技なんだ。俺には、まだ早すぎる」

 

この剣が見えるようになるまでは、この剣技は俺には早すぎるのだろう。

緊急時でもあまり使いたくない技だ。もし腕に何かしらの不調があるときに使えば、もれなく腕は吹き飛ぶだろう。壊死したら、多分再生を使っても動かせなくなるだろう。

 

「すぅ…ふぅ…」

 

妖夢は、一度も剣を振らずに岩に向かい合っている。

脳裏でこの剣技を反芻しているのだろう。ここに至ることはできないが、何かしら糸口があるかもしれない。

 

「せいっ!」

 

妖夢が動いた。

岩の頂点から、地面との接点までまっすぐに振り下ろされた剣は、岩の表面を滑ることなく、地面まで叩き切った。

 

「…斬れた!私にも斬れましたよ定晴さん!」

「流石だな妖夢。一度見て、吸収するのが早い」

 

俺自身の剣術は、どちらかといえば剛の技に近い。速さと早さを武器に戦う妖夢のほうが、この神の剣技は向いているのかもしれない。

俺は、弟子の成長を間近で見て嬉しくなるのだった。

 


 

「八雲紫に言われて調査してたけど、やっと見つけたよ」

 

幻想郷の()()。博麗大結界に影響を出さずに中と外を出入りできる不動は、ここで侵入者の調査をしていた。

結界の歪みや、穴は定晴によるものだということが判明した。しかし、侵入してきた妖怪たちは別だ。あれは確実に定晴のものではない。

紫に言われて調査を始めた不動は、妖怪を招き入れた人物を探していた。幻想郷に妖怪が来ることは拒みはしないが、あれは確実に人間と妖怪の共存に害をなす存在だった。誰かが悪意をもってやっているとしか思えなかったのだ。

 

「さて…君は幻想郷の妖怪で、ついでに言うとその異変は解決したんじゃなかったかい」

「さあてね。まだ、私はやる気だよ」

「そうか。では、異変解決の続きを、僕がやるとしようか」

 

不動は一人の妖怪に向き合った。

亀の甲羅をまとった竜。地上に動物霊を送り込んだ妖怪。

吉弔八千慧は、不敵な笑みを浮かべて不動と向かい合った。

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