東方十能力   作:nite

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三百十一話 巫女と畜生界

紫に言われた通り、畜生界にやってきた。

定晴さんが幻想郷の結界に影響を及ぼしたときに、それに乗じて外の世界から妖怪を送り込んできた犯人がここにいるのだという。

というか、犯人は私も知っている人物であり、前にここに来たときに出会った吉弔八千慧という妖怪だ。あいつが大それたようなことができるとは思えないのだけど…まあ、幻想郷じゃ見た目で判断するのは悪手ね。

 

『霊夢、そのまままっすぐだ』

 

今回は藍のサポートもついている。そのおかげで、前は迷いながら進んだ迷路のような道も迷うことなく進むことができている。

あのときもこうすればよかったのよね。まあ、紫たちは滅多に異変に関与してこないから仕方ないけど。今回は幻想郷が明確に攻撃されてるからってことなのかしら。

 

「あの不動が逃がしたんでしょ?正直言って、私が勝てるとは限らないわよ?」

『それは問題ない。霊夢には戦ってもらうが、その間に私もすることがある。それが成功すれば、霊夢が万が一負けたとしても問題はない』

 

ふーん、それならまだ安心か。

 

『自分が負けたときのことを考えるなんて霊夢らしくないな』

 

…確かにそうね。前までの私なら、どんな妖怪でも倒してやっつけてやるつもりだったけど…

 

「…定晴さんは魔界で特訓してるんでしょ?今のままでも私よりも強いのに、もっと強くなってる。それに不動みたいな、私じゃどうしようもなかったやつもいた」

『…』

「水那の育成も進んでるけど…博麗の巫女じゃどうしようもないこともあるんだなって、そう思っただけよ」

 

水那は定晴さんから貰ったという髪飾りに加えて、私が放置していた倉庫の中の聖具を操れるようになった。陰陽玉はまだ難しいみたいだけど、それもすぐになんとかなるだろう。

それでも、水那じゃ定晴さんや不動とは戦えないだろう。まだまだ未熟すぎる。

かくいう私も、定晴さんとは本気の戦闘はできないだろう。そもそも、弾幕ごっこなら強くても殺し合いじゃまだまだ私は弱いのだ。紫にだって勝てやしない。

 

『本当に珍しいことを言う。自信と結果がお前の持ち味だっただろ?』

「そうね」

 

妖怪退治で、大妖怪相手に戦ったことは何度もある。でも、強者同士の戦いというのは今までほとんど見たことがなかったのだ。

それを見て、私は足りてないってことを実感した。だからって修行したいとはならないけど…今のままじゃどこかで後悔することになる気がする。博麗の勘ね。

 

『霊夢、そこを左だ』

 

…定晴さんは幻想郷の妖怪たちをどう思っているんだろうか。

紫を始めとして、幽香やフランみたいな大妖怪も定晴さんに懐いているから、定晴さんは彼女たちの本質を知らないかもしれない。今の彼女らは恋する乙女になっているので、完全に無害と化しているが、過去にはそれはもう危険指定とされていた。

実際幻想郷縁記にも、彼女たちは特級で危険として記されている。そんな子たちと仲良くできるのは定晴さんの魅力ではあると思うけど…

 

『そろそろ座標だ』

「わかったわ」

 

今から戦うのは、妖怪の本質だ。自分のためなら他人がどうなってもいいという妖怪との闘いだ。

最後の角を曲がると、そこには一体の妖怪が浮いていた。不動と戦ったという割には、随分と整った見た目をしている。

 

「あらあら、博麗の巫女がこんなところまで、お久しぶりで」

「残念ながら無駄口を叩いている暇はないわよ。さっさと構えなさい」

 

私はスペルカードを取り出して、宣言する準備をする。

しかし、吉弔八千慧は動こうとしない。こちらに背を向けたまま、話し続けている。

 

「そんな焦らなくてもいいじゃないですか」

「あなたが幻想郷に外から妖怪を送り込んできた犯人なのは分かってるのよ。紫からの直接の依頼だし、幻想郷に手を出せないくらい徹底的に倒してあげるわ」

 

私は威嚇する意味も込めて、霊力の放出量を増やした。博麗の巫女なので、霊力量には自信があるのだ。

しかし…

 

「ふふ、その霊力量なら、先日戦った男のほうが強かったですよ。それに、博麗の巫女があの男よりも強いとは思えない」

「それはどうかしら。これでも、歴代最強だなんて言われてるのよ?」

 

私には、奥の手として夢想天生がある。それ故に、見た目だけで弱いと判断されるのはさすがに癪に障る。

もう少し霊力を強めてみるが、それでもこちらを向こうとはしない。

 

「現に、今だってサポートしてもらってるじゃない」

「それは仕方なくよ。場所さえ教えてもらえたら一人でもここに来ていたわ」

 

これは事実だ。藍が別にすることがあるからと、式神をここまで運ぶ必要があったが、それがなくても私は一人でここまで来ていた。

来る途中で迷っていたかもしれないけど…今まで真っすぐ異変の元凶のところまで行けた試しなんてないので今更だ。

 

「なら、それはいらないわね」

 

突然こちらを向いた吉弔八千慧。その目を見た瞬間に、私はなぜか怯んでしまった。

そのため、飛んできた弾を回避するのもギリギリで、藍の式神を見る余裕はなかった。あいつが狙ったのは私ではなく藍の式神の方らしく、式神はチリチリになってしまっていた。

 

「ひどいことするわね。藍の式神は高いわよ」

「知りませんね。私には関係ありません」

 

とうとうこちらを向いた吉弔八千慧。その姿を見ると、どうにも怯んでしまう。

もしかして…

 

「何か特殊な能力があるのかしら?」

「幻想郷じゃ能力がない妖怪なんてそうそういないでしょう?」

 

それはそうだ。なんなら、人間の私や早苗だって自己申告で能力持ちとされている。幻想郷で能力がないのは、人里に住んでいる普通の人間たちだ。

人里の外に住んでいる人間は、大抵何かしらの能力を持っている。

 

「さあ、始めましょうか」

「ええ。スペルカードは…」

「そんな遊びはいりません。やるのは、殺し合いですよ」

 

その瞬間、吉弔八千慧の体から多量の妖力が噴出した。

定晴さんが、最近弾幕ごっこができていないってぼやいていたけど…同感ね。

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