東方十能力   作:nite

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三百十二話 飲み込み

さて、魔界に来てから随分と時間が経ってしまった。

ずっとここにいるわけにはいかないし、そろそろどうにかしたいと思っているのだけど…未だに無効化の力をものにできているとは思えない。このままでは紫に迷惑をかけてしまう。

俺とは違って式神の二人はちゃんと成長している。式神の繋がりから、どれくらい強くなったのかがはっきりわかるので、俺とは違うということを実感できてしまう。

 

「定晴さん、気にしないでください」

「さすがにそういうわけにはいかないな。俺だって、魔界にずっといるつもりはない」

 

それに、俺がここに長居すると、幻想郷と同じように世界自体に影響を与えてしまう可能性があるのだ。どれだけ長くても、一か月で地上に戻りたいと思っている。

それを実現するためには、やはり俺が無効化の力をものにできなければならない。他の能力はこの際後回しでよくて、無効化を最優先で育成しなければならない。

俺がユズが作った妖力弾をひたすら無効化し続ける特訓をしているとき、離れたところで訓練していたルーミアが話しかけてきた。

 

「…ご主人様」

「どうしたルーミア」

「連絡が来てるわ」

 

ルーミアが取り出したのは一枚の紙。折り目がついていることと、紙から感じる妖力から、もとは藍の式神だったことがわかる。

俺は手紙を受け取って、中身を読んだ。ユズも近づいてきたので、二人にも聞こえるように声に出して読み上げる。

 

「霊夢が帰ってこない…?」

「え?」

 

藍からの連絡には主にそれだけが書かれていた。詳細はルーミアが知っているとも書いているけど…

 

「ルーミア、何か知ってるのか?」

「詳しいことって言われても、霊夢がまた畜生界に行ったことくらいしか知らないわよ」

 

ふむ、それだけでも俺よりも知っていることになるが…

ルーミアと藍の話を合わせると、つまり、霊夢が畜生界に行って帰ってこないと。でもなんで霊夢は畜生界に行ったのだろうか。動物霊の異変は解決されたはずなんだが…

 

「霊夢が畜生界に行った理由は知ってるのか?」

「…巫女の仕事よ」

「となると、妖怪退治か…待て、じゃあやっぱり地上で何かあったのか?」

 

まあ異変じゃなくても、霊夢が妖怪退治をすることには何も問題はないけど…しかし、場所は畜生界だ。

人里の近くや妖怪の山ならまだわかる。大妖怪がほかの人間や妖怪に迷惑になることもあるからだ。だが、畜生界は言ってしまえば魔界と同じ異世界であり、幻想郷に直接影響があるわけではない。

もし畜生界に要件があるなら…それは、異変が起きたときか、もしくはそれと同等の事件が起きたときである。

 

「異変じゃないけど…少し厄介なことよ」

「…」

「もし畜生界に行くなら…紫を呼べばいいみたいね」

 

異変ではなくとも、霊夢が帰ってこないとなれば中々の重大事件である。そもそも、紫のスキマを使えば見つけられそうなものなのに、なぜそれをしないのか…

どのみち、紫を呼ばなければ詳細は分かりそうにない。

 

「紫ー!」

 

俺が呼びかけると、目の前に空間の裂け目が現れる。紫の十八番であるスキマだ。しかし、出てきたのは紫でも、さらには藍でもない。藍の式神であり、猫又の妖怪である橙だった。

 

「橙?」

「はい!紫様も藍様も忙しいので、私が代わりに来ました!」

 

二人が動けないほど忙しい…?それってもはや異変が起きているのと同じなのでは?

 

「そんなに大変なのか」

「えっと……一言で言うなら、まじヤバイです」

 

どこでそんな若者言葉を覚えたのか。

 

「どれくらいヤバイんだ?」

「幻想郷存続がヤバイくらいヤバイです」

 

それって異変とかいうレベルではなくないか?しかもこの状況で霊夢が不在…となると、本当に大事件になっている可能性がある。

 

「簡単に言うと、畜生が幻想郷を飲み込もうとしてます!」

「畜生界が?そんなことが可能なのか?」

「原理はよくわかってなくて…でも、幻想郷に影響を及ぼし始めているのは確かです!」

 

紫と藍はとてつもなく頭がいい。回転も大妖怪らしく気持ち悪いほどに早い。確か星系に関する計算を一瞬でするとかなんとか…

そんな二人でもわからないのに、幻想郷を飲みこむ力を持っているなんて、どこのどいつだ?

 

「あ、犯人は分かってますよ」

「そうなのか?」

「はい!吉弔八千慧という妖怪らしいです!」

 

吉弔八千慧…たしか、俺と霊夢が一緒に畜生界に行ったときに出会った妖怪だ。宴会のときにいないというのを聞いたが…本当にまだ諦めていなかったのか。

彼女に畜生界を丸々動かすほどの力があるとは思えなかったが…いや、そういえばあそこには動物霊を使ったタンクのようなものがあったな。ルーミアに破壊してもらったが、もしかしたらあれが沢山用意してあったのかもしれない。

 

「それで、できれば定晴さんには行ってもらいたいって思ってるんですけど…」

 

まだ俺の能力は向上していない。無効化なんて何も変化してはいない。

しかし、ここで俺が何もしていないままに幻想郷が崩壊しているのを黙って見過ごすわけにはいかない。

 

「分かった行こう」

「了解です!じゃあこのスキマを通ってください!」

 

橙が、自分が通ってきたスキマを指さす。この先はかくりよじゃないのか?

 

「なんか私が喋ってる間に変更されちゃったみたいです」

「ん?それって橙は帰れなくないか」

「…飛んで帰ります」

 

しょんぼりした橙。うーむ、橙のことを気に掛けることもできないほどヤバイのか、それともうっかりか。

どのみち、もうここまで来たら引くという選択肢はない。

 

「ルーミア、ユズ、勝手に決めたが…」

「気にしないで」

「はい…私も、頑張り、ます!」

 

ユズを家に帰している時間はないな…となると、ユズも参加だ。

どうなるかわからないけど、魔界でユズは成長している。問題はないだろう。

 

「よし、行くぞ」

 

俺たちはスキマを通って畜生界へと渡った。

 

 

あ、神綺に何も言ってないわ。




次回より新章です
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