三百十三話 大事件
スキマを抜けた先は彼岸。どうしようもなくなった橙も一緒についてきた。
「私は戻るので、定晴さんあとはよろしくおねがいしにゃす」
「任せろ」
少し噛みつつ、橙は飛んで行った。
…あれ、三途の川は一人じゃ飛んでいけないんじゃなかったっけ?動物霊みたいなのが必要であり、そうでないときは死神がいないといけないとかなんとか…俺なら無効化でごり押しすると進めるけど、橙にそれができるとは思えない。
まあ、何かあったときは小町とかが助けてくれるだろう。あの藍が橙を放置するはずもないしな。
「じゃあ、行きましょ」
「頑張ります!」
「おう」
俺は畜生界へと歩みを進めた。
しばらく進むと、見覚えのある門へとたどり着いた。庭渡久侘歌のいる門だ。
霊夢と一緒に来たときは、霊夢が戦っている間俺は地上で動物霊をひたすら斬っていた覚えがある。あの時は俺がメインじゃなかったからな。
「ふむ、いないな…」
「何が?」
「ここには門番代わりの妖怪がいて、そいつが前は通せんぼをしていたんだが…」
周囲を見渡してみても、久侘歌の姿はない。休憩中だろうか。霊夢が先に入っているらしいし、その時にボコボコにされたのかもしれない。
何もないのであれば、わざわざ立ち止まる必要はない。
「目的地はまだまだ先だ」
地獄の門を過ぎて、さらに奥へ。畜生界は地獄のさらに先にあるので、ここで遅れている場合ではない。
たまーに地獄妖精なるちっちゃい妖精が飛んでくる。そんで攻撃してくる。何が目的なのかわからないけれど、模写でコピーしているマスタースパークを使って薙ぎ払う。
「ご主人様、容赦ないわね」
「時間をかけている暇はないからな」
紫と藍の両方が動けなくなるほどの大変さなのだ。妖精一匹一匹に時間を費やす理由はない。
「そもそもマスタースパークって結構な魔力を使う魔法だったと思うんだけど…」
「俺は霊力で補ってるからな。まあ、魔理沙はミニ八卦炉を使ってるから俺よりも燃費はいいだろうけど…」
極太レーザーを撃つだけなので、実際のところほぼロスはない。直線状に攻撃すれば、それだけでマスタースパークとなる。多分ルーミアも妖力でマスタースパークを撃つこともできると思うが…幽香もできると言っていたし、ルーミアも妖力で使えるはずだ。
俺は模写で使えるし、ルーミアも使える可能性がある。魔理沙は十八番として気に入っているらしいけど、果たして俺たちが使えることを知ったらどんな顔をするだろうか。
「定晴さん、悪い顔してます」
「ユズ、気にしちゃだめよ。ろくでもないんだから」
おっと、気を引き締めなければ。
地獄妖精を薙ぎ払いながら進んでいくと、妙な気配がしたあとに周囲の風景が変わった。畜生界に入ったのだ。
畜生界に入ると、地獄妖精の代わりに動物霊が攻撃してくるようになった。強さは妖精たちとそんなに変わらないので、またもやマスタースパークで薙ぎ払っていく。妖精よりも動きが遅いので当てやすい。
「取り敢えず前回と同じ最奥まで…っ!」
脳裏にフラッシュ。
「ルーミア、ユズ、右に攻撃!」
「え!?おりゃあ!」
「ええーい!」
一瞬びっくりしたが、すぐに俺の指示通りに攻撃してくれる二人。
攻撃が当たったところから、屈強そうな動物霊が現れ、そしてそのまま墜ちていった。
「ご主人様、あれは…」
「わからん。だが、あいつを放置したらどうやら死ぬらしい」
突然俺の力が発動し、死ぬ未来が見えた。ただ、いつもと違ってはっきりとした死の未来ではなかったので、もしかしたら確定的な未来ではなかったのかもしれない。
とはいえ、敵を放置しておく理由はないので、墜とすことに意味はあるはずだ。
「動物霊が屈強って、おかしくないですか?」
「それはそうだ。なんせ、動物霊は動物である前に霊だからな。鍛えたところで筋力がついたりするわけじゃない」
だが、霊は霊力などを吸収すると大きくなれる性質もある。なんせ、体すべてがそういった類の力で構成されているからだ。
昔ここで見たタンク動物霊は膨らんでいたけれど、あれを完全に吸収して強くなればああいった屈強な動物霊が生まれるのかもしれない。どのみち、二人の攻撃で倒せる程度の強さでしかないけど。
俺たちは移動しながら、未来について考察をする。
「あれを放置したところで死ぬとは思えないんだけど…」
「ああ。俺もそう思う。死ぬ瞬間がフラッシュだったから、何が原因で死ぬのかはわからないんだ」
「じゃあなんであいつがいるってわかったのよ」
「勘みたいなものだ」
なんとなく、原因の一つがあいつだと分かっただけだ。あいつが俺たちに何をするのかはわからない。
しかし確かめようにも墜としてしまったし、確かめるときは死ぬときだ。俺だけが死ぬならまだいいが、この場所で俺が死ぬということは、二人も死んでしまうことを意味している。
「動物霊が大きくなるには力が必要なんですよね?」
「みたいだな。実際あいつの霊力は多かったし」
「それだけの力をどこから得たんでしょうか…」
前に見たタンク型の動物霊があれに成った可能性もある。それに、強くなるといっても霊が対象なので、誰かが力を流し込めば簡単にあれくらいには成るだろう。
どのみち、犯人はここにいる奴…おそらく吉弔八千慧だろう。
「私、その吉弔八千慧っていう妖怪にそこまでの強さがあるとは思えないんだけど」
「俺もだ。まだほかに協力者がいるのかもしれない」
どのみち、妖怪一人で世界を丸ごと動かすなんて所業、普通はできない。
「でももし不動レベルの術者だったら、一人でも可能かもな」
「あれって結構天性の才能的なやつでしょ?不動レベルのがそんなにいっぱい出てこられると困るんだけど」
不動は能力を使って、幻想郷の結界をすべて消し飛ばすことも可能だ。それが開放する力であり、解放する力だからだ。
幻想郷の住人だから、八千慧にも何かしらの能力があると考えてもいいだろう。ゆえに、八千慧の能力の内容によっては幻想郷に大きな影響を及ぼすことも可能かもしれない。
「まあ、行ってみればわかるさ」
俺たちは奥へと進んだ。