東方十能力   作:nite

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三百十六話 三途の川の案内人

結界が見える、畜生界の入り口まで戻ってきた。

 

「本気でやれと?」

「ええ。畜生界の未来なんて知ったこっちゃないわ!」

 

畜生界から出るために結界をなんとかする必要があるのは分かるのだが、ここで無効化したときの影響がわからない。

畜生界が崩壊する未来だって可能性でしかないわけで、もしかしたら結界を消した瞬間に俺たちが出る暇もなく畜生界が消滅する可能性だってある。まあ俺が死ぬときは見えるはずなので、多分大丈夫だとは思うのだけど。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

俺は結界に触れる。対象が大きな場合は、触れた方がやりやすい。

さて、そもそもとして霊力が足りるのかというと…うーむ、俺だけの霊力じゃ足りないな。俺の無効化は対象の存在比が大きいほど消費霊力が増えるので、世界を丸ごと覆っている結界だと霊力消費が大きすぎる。

 

「ルーミア、ユズ、妖力を貸してくれ」

「いいわよ」

「了解、です」

 

ユズと大妖怪のルーミアの妖力を合わせて…微妙に足りない。いや、発動はできるのだけど、使った瞬間に気絶する。今は抑制しているので見えないけど、多分死ぬ。

 

「霊夢の霊力も分けてもらえるか?」

「さっきの反動でもうあまり残ってないけど、それでもいいなら」

「構わない」

 

霊夢からも霊力が流れ込んできて…うおっ、霊夢の霊力異質!

まるで俺の浄化の力のような聖なる力が籠っている。これ霊夢が霊力放出するだけでそれなりの妖怪は退治できるのでは…?

 

「これで足りるのかしら?」

「ああ。行くぞっ!」

 

対象:目の前の結界、無効化…発動!

 

「きゃあっ!」

「さっさと出るぞ!」

 

俺が結界を無効化した瞬間、畜生界全体が揺れた。そのせいで霊夢から悲鳴が出たが…意外と悲鳴は女の子らしい声なんだな。

俺たちが畜生界から出ると、すぐに結界が展開された。どうやら継続して力を供給しているタイプの結界らしい。畜生界が揺れたのは、供給先が突然消えたからかな。物で例えると、水を貯めていたタンクが突然消えるような…

 

「びっくりしたじゃない!」

「声はかけただろ」

「私も、びっくり、しました…」

 

とはいえ、畜生界が崩壊するという最悪の展開にはならなかったようだ。霊夢は気にしないと言っていたけど、実行犯は俺なので俺は気にするのだ。

 

「それで、こっからどうするのよ。そもそも、霊夢は畜生界で何か見つけたのかしら?」

「え?何もなかったわ。紫の奴、完全にガセネタを掴まされてるわ。私の勘だと、犯人は幻想郷にいる!」

「霊夢が言うならそうなのかも。定晴、幻想郷に行くわよ」

 

勿論そのつもりだ。畜生界に霊夢が捕まっているという時点で、畜生界は罠以外の何物でもない。今頃幻想郷のほうでのうのうと準備をしていることだろう。

 

「あれ、でもどうやって三途の川を渡るんだ?」

「そこらへんで死神でも捕まえればいいでしょ。幻想郷がおかしくなるのは、彼岸にとっても無関係なことではないわ」

 

そう霊夢が言ったけど、それってつまり拉致ってことでは?

それでいて、小町以外の死神は仕事熱心のため、三途の川まで戻ってきても、死神は一人も見つけることができなかった。

 

「定晴さんの力でなんとかならないのかしら?」

「あぁ…使えるが、多分死の概念が大変なことになるぞ」

 

死をなくすわけではないので、俺の力の制限に引っかかることはない。しかしながら、三途の川を普通の人間が渡れるようになってしまうと、現世にどれだけの影響があるのか予測ができない。

 

「必要なときにばかり使いにくい力ねぇ…」

「俺の能力は強くないって再三言ってるだろ」

 

使い勝手という面では俺の力はとてつもなく悪いのだ。そのことは今までも何度も言ってきているので、今更文句を言われても困る。

 

「あれ、お困りですか?」

 

ふと、俺たちの背後から声がした。

俺たちが振り返ると、そこには少し背の低い女の子。

 

「久侘歌…だっけ」

「そうですよ。こんなところで何をしているんですか?」

 

そういえばこの子も彼岸で働いている。

事情を説明して、向こう側まで案内してくれないか頼んでみると…

 

「いいですよ。私もちょうど帰るところですし」

「ここに住んでいるんじゃないのか?」

「私は妖怪の山住みですよ」

 

どうやら仕事場までそれなりに距離があるところに家があるらしい。閻魔や死神がこっち側に住んでいることを考えると、地獄の入り口で働いているにも関わらず幻想郷から来ている彼女はかなり特殊な例と言えるだろう。

 

「早く案内なさい。幻想郷が大変なのよ」

「はいはーい。ついてきてくださいね」

 

久侘歌の案内で三途の川の上を飛ぶ。

毎度思うけど、三途の川を飛ぶというのは不思議な体験だ。スキマで三途の川をすっ飛ばすのも大概だが、生きているまま死神を無視して三途の川を渡るというのも中々に凄まじい体験である。

少なくとも、幻想郷でなければ体験できないことだ。

 

「私ずっとこっちにいたので分からなかったのですが、幻想郷で何があったんですか?」

「畜生界が幻想郷と融合しそうだとかなんだとか。原理はわからないけれど、犯人はもうわかっているわ」

「…混ざっちゃいけないものは、選別しないといけませんね」

 

どうやら久侘歌からしても、幻想郷の危機はまずいらしい。まあ、そりゃそうか。

 

「犯人とは?」

「吉弔八千慧っていう…畜生界にいる妖怪ね。あなたも出会ったことがあるんじゃないの」

「私はあくまで門番なので…ですが名前は聞いたことがあります。鬼傑組の組長であり、相手に逆らう気力をなくさせる能力を持っています」

 

それって結構重要な情報なのではなかろうか。組長はよく知らないが、能力の詳細を先に知っていられるのは強みの一つとなりうる。

霊夢もそこに気が付いたのか、気迫も感じさせる勢いで久侘歌に詰め寄る。

 

「知ってること、全部教えなさい!」

「え、えぇ…」

 

幻想郷に到着するまでの間、俺たちは久侘歌に情報を色々教えてもらうのだった。

 

「一応企業秘密の部類なんですが…」

「今更そんなこと言ってられないわよ。さあ、あとはぶっ飛ばすだけよ!」

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