三百三十一話 水那の願い
「定晴さん、相談があるんです…」
「どうしたんだ。改まって」
異変後の休暇中に、水那が家を訪ねてきた。
ルーミアとユズは、しばらく家を空けてた影響で食材がないので買い物に行っている。
俺も一緒に行こうと思ったのだが、そのタイミングで水那から式神による連絡が来たので家に残ったのだ。水那はいつの間にか紙の式神を使えるようになっていたのは驚きである。
「定晴さん、私に修行をつけてください!」
「修行?」
「はい。私、もっと強くならないと…お姉ちゃんに顔向けできません!」
覚悟をしている顔つきだ。それこそ、修羅の道でも行くような表情。
外の世界でも思ったが、水那は年齢に対して覚悟が決まりすぎている。過酷な環境で育ったとはいえ、もう少し緩く生きたほうがいいと思うんだが…
「なんで急に?」
「私、全然役に立ってないじゃないですか…私は修行を頑張ってるのに、霊夢さんに才能で負けるのも嫌です」
まあそれは確かに。努力しているのに天才に負けるのが嫌だという気持ちは分かるが…
「それに、私をここに連れてきたのは定晴さんなんですから、こういった事後処理をするべきだと思うんです」
「…分かった。やろうか」
なぜか水那に脅された。
俺の家の周りは木で囲まれている。人里にも博麗神社にも近いが、森の中だからな…
そのせいで修行ができる場所がない。弾幕ごっこをするときは空を飛べばいいのだが、やはり広い空間も欲しいだろう。
「水那って剣を使ったことはあるか?」
「祭儀のための剣はあるみたいですが、普通に使ったことはないですね。外の世界でナイフは使ってましたよ」
「銃刀法違反じゃね、それ?」
「警察にバレなきゃいいんです」
ともかく、剣は使ったことがないか。じゃあ俺一人で…あ、そうか。
「じゃあ今の水那の力を見るから、切り株を何してもいいから掘り出してくれ」
「切り株ですか?」
「整地に必要でね」
俺は輝剣を取り出して、正面に構える。俺の目の前にあるのは、一本の木だ。
ここらへんの木々は少し太いので普通に斬っても無理そうだな…身体強化をしておこう。
「ふっ!」
木の幹を横に切断。貫通することはなかったが、木を切り倒すには十分に切断できている。
目の前の木はそのまま横に倒れて、切り株が残る。
「なるほど、空間を作るんですね」
「場所が必要だからな」
続けざまに何本か切り倒す。木こりの人に申し訳なくなる伐採方法だ。
そして、残った切り株は水那に除去してもらう。俺の記憶だと、霊夢の技に切り株をどうにかするものはなかったと思うだが、果たしてどうするか。
「では失礼して…」
俺が眺めていると、水那が御札を切り株の周りに貼り出した。その数合計で三枚。切り株を囲うように貼られている。
このように御札で囲まれた空間というのは結界として定義されるのだが…
「炎術!」
水那がそう言うと、結界の中が炎で満たされ、それが消えたあとには切り株は燃え尽きていた。
灰しか残っていないあたり、相当な火力が出ていると思われる。
「巫女ってそういうこともできるのか…」
「霊夢さんはしないですけどね。倉庫から古い巻物を引っ張り出して勉強しました」
おっと、もしや術の多様性で言えば霊夢よりも多いのか?
もしそうなら、霊夢とは違う方面で活躍できるだろう。
「残りもやっちゃいますね」
水那は残りの切り株にも御札を貼って、すべて燃やし尽くしてしまった。その火力、俺もほしい。
「はぁ…はぃ…どうですか…?」
「切り株がなくなったという点はいいが…大丈夫か?」
「少しすれば…回復しますので…はぁ…」
すべての切り株を燃やしたあとの水那は、見るからに疲労困憊といったところだった。
「うーむ、水那は純粋に霊力が足りないのかもな」
「それは自覚してるんですけど…霊力って、そんな簡単に増えないじゃないですか」
霊力も、妖力も、神力だって長い時間をかけて増えていくものだ。
使えば使うだけ器は大きくなるのだけど、それでも微々たるものなのだ。生まれ持って霊力が高いとかでなければ、一生をかけても人間は妖怪ほどの力の器は手に入らない。なんせ、妖怪の方が長生きだからな。
そのため、人間は妖怪にじり貧となるのだ。そのために過酷な修行を積んで霊力を増やすのである。
「博麗の巫女の特訓とかってなかったのか?霊力の増やし方なら華扇とかが知ってそうなものだが…」
「華扇さんの修行、よく分からなかったんですよね。体の中で気を作るとか動かすとか…ちょっと私には分からない感覚で…」
「あー…幻想郷の住人だとなんとなくわかるものだったりするんだが、外の世界出身だもんな」
幻想郷の人々は妖怪と隣り合った生活をしているので、気だとか霊力だとかの外の世界では認知されていないものでも、なんとなく理解できたりするのだ。
しかし、外の世界で育ってきた水那にはよく分からないらしい。幻想郷で生活してもう二年近い年数が経っているものの、水那は未だに幻想郷の空気に慣れていないようだ。
「定晴さんは分かるんですか?」
「俺はなんとなくわかるな。魂の気配と同じようなものだ」
魂の感覚は、幻想郷の住人でも分からないという人が多いだろう。それくらい、稀有なものだからだ。
「うーん…やはり特訓ですかねぇ…」
「じゃあ俺が霊力の鍛錬をしてやるよ。技とかはそのあとだな」
「…はい、お願いします」
妖夢の剣術指南とは別に、水那の霊力修行もすることになった。まあ、俺は基本的に暇だからいいんだけどな。