「やあ定晴」
「なんだ、ミキ」
人里に買い物に行こうと外に出たら、なんかいた。既にもう帰りたい。
「いやね、君も大変な思いをしたと聞いてね?俺なりに労いをば…」
「帰る」
よし、今日は家でゆっくりしよう。鈴奈庵で買った本があったはずだから今日はそれを読んでゆっくりと一日を過ごすことにしよう。
「ちょいちょい。待ちたまえ」
俺の前方にテレポートしてくるミキ。瞬間移動持ちの特権が活かされていて非常に腹立たしい。
どうせ今日ゆっくり過ごしたところで明日も来るだろうから、話だけは聞いておこう。
「なんだ?」
「そう怒らんでくれよ。今日の俺はただのガイドさん…バスの運転手といったところ。俺はただ決められた道を行くだけの先導者…」
「要件を早く言えよ」
なんか気持ち悪い顔で変なことを言うミキを殴りたい衝動を抑えつつ、先を促す。暑いんだからさっさとしてくれ。
「ほら今暑いって思ったでしょ!思ったね?思っただろ!」
「だから何だよ」
「労いだと言っておろう。この暑さに酩酊するのもまたいいが、この俺が、お前を海に連れてってやろうと思ったわけだ。霧の湖では感じられない海の冷たさを感じに行こうぜ?」
暑さに酩酊って、それただの熱中症では?つか酩酊って言わんだろ。
どうやらミキは俺を外の世界の海に連れてってくれるようだ。幻想郷には海がないので、確かに労いとしては十分なものかもしれないが…
「急になんだよ。怖いな」
「強いて言うならテコ入れ?ほら、折角の夏なのに水着イベントがないなんて寂しいだろって読者が言ってるぜ?」
「読者ってなんだよ」
謎のことを話すミキにツッコミを入れる。
「まあもちろん文章だけで水着が楽しめるわけではないが…きっと需要は満たせるだろ。というわけで、適当に拉致って海に連れて行ってやろう」
「は?拉致?」
「いつまで呆けてるんだ」
「え、あれ!?」
いつの間にか海にいた。しかも、着替えすらも終わっている。
「了承なしかよ!」
「拒否権があるわけないだろ。そんじゃ、あとは楽しんでくれ」
そう言った瞬間、ミキは虚空に消えて行った。時空魔法で転移したようだ。
つか、一人で海を楽しむのは流石の俺も難易度が高いというか、そもそも俺は海で遊ぶのとかほとんどしたことないというか…
「ご主人様、どうしたの?」
「うおお!?ルーミア!?」
「何よ」
いつの間にかルーミアが後ろに立っていた。しかも、海だからか水着に着替えている。
「ルーミア、水着なんて持ってたのか?」
「急にミキに着せられたのよ。あの服装変える魔法何なの?」
どうやら、俺やルーミアの衣服が勝手に変わっているのは、ミキが魔法で衣服を変えているかららしい。俺もこんな水着を持っていた記憶がないし、多分ミキが持っていた水着だろう。
なんであいつ、女性用の水着も持ってるんだ?
「わっ、えっと、ここは…」
「あら、ユズ」
いつの間にかユズが水着に着替えた状態で転移させられていた。
なんであいつ、そんなにいっぱい水着を持ってるんだ?妻のためだとしても…いや、水着は持たんだろ。
「ユズ、その手の紙は何だ?」
「はい?」
よく見ると、ユズの手には小さいメモ用紙があった。十中八九ミキが転移と同時にユズに持たせたものだろう。
ユズからメモを貰い、内容を読み上げる。
「『あと何人か連れてくるから遊んでて☆』ってなんだよ!」
「言葉通りの意味じゃない?」
「まだ拉致するのかよ…」
どうやら、まだ幻想郷住人を拉致する予定らしい。
海は幻想郷の住人からするととても珍しいものだから、誰でも喜んでくれそうなものだが…それはそれとして、突然拉致する方式はどうにかならないのだろうか。てか拉致やめろ。
「…ご主人様、私の水着どう思う?」
「え?」
ルーミアが急にいじいじしながらそんなことを言ってきた。
「もしかしてルーミアが選んだ水着なのか?」
「見て決めたやつじゃないけど、一応少しだけ希望は聞いてくれたみたいよ」
ルーミアの水着は、能力の闇と似たような黒っぽいセパレートタイプの水着。ルーミアが希望したのは水着タイプと色らしい。
そもそも、いつものルーミアの服はあまり露出がないタイプの服なので、こうして水着を着ているというだけでとても新鮮な気分となる。
「似合ってるぞ。新鮮な感じで」
「ありがと」
対するユズは白い水着。ユズは白髪であり、肌も色白なのでとても真っ白だ。
いつも着ている服が俺の作った色の多めの服なので、こうして真っ白なユズを見るのも新鮮な気持ちになる。
「ユズもかわいいぞ」
「あ、ありがとうございます…」
さて、周囲を見渡してみると、やはりここは海。幻想郷に海がない以上、ここは外の世界ということになるが…人の姿は見えない。
ミキのことだから、きっとプライベートビーチも持ってるだろう。もしかしたら、どっかの無人島かもしれない。
「二人って泳げるのか?」
「私は泳げるわよ。霧の湖で泳ぐから」
「私は…泳げません…」
ユズは泳ぐ機会などなかっただろうし、致し方ないだろう。
霧の湖はチルノたちのたまり場になっているし、もしかしたらチルノ組は皆泳げるのかもしれない。
そういえば、羽根が濡れたら飛べなくなる生物も多いが…まあ、妖精の羽根は別物みたいだしいいのかな。
「ならまずはユズに泳ぎ方を教えるか」
「浮き輪とかないのかしら」
「ミキー!浮き輪寄越せー!」
目の前に浮き輪出現。そこらの宅配サービスの何十倍も速い配達である。
ついでにいくつか必要そうなものを頼んでから、二人と一緒に海に入る。うむ、冷たい。
「ご主人様は海に来てたりしたの?」
「依頼で海に来ることはあったけど、遊びに来ることは滅多になかったな」
海難救助の他にも、探し物だとかで海に来ることもあった。そういう時は基本的に十全な装備を着ているので、遊びの気分になることはない。
「さて、ユズ、浮き輪を両手で持て」
「こうですか?」
「そっからバタ足だ」
取り敢えずユズが一人でも泳げるように練習するとこから始める。
ユズは内気というか、あまり活発ではないけれど、運動神経が悪いわけではなく、妖怪らしい能力はあるのできっとすぐに泳げるようになるだろう。
まあ世の中には運動ができても、泳ぎだけは全くできないという人も存在するのも事実だが。
しばらくユズの指導をしていたら、近くで見ていたルーミアが砂浜を見て気が付いた。
「あら?砂浜に誰か立ってるわね。私がユズ見とくから、ご主人様はそっちケアしてきなさい」
「分かった。ユズは頼んだぞ」
「溺れても闇で助けられるから大丈夫よ」
砂浜に戻ってきたら、そこに立っていたのは霊夢と魔理沙と早苗。
霊夢と魔理沙は物珍しそうに、早苗はワクワクした顔で海を見ている。
「三人とも、ミキに拉致られたのか?」
「一応確認は取られたわよ。まあ拉致紛いだったのは否定しないけどね」
そう言うのは霊夢。否応なしだったのは俺だけか…
「海ですよ海!幻想郷にいては来れなかった海です!」
「別に泳ぐだけなら霧の湖でもいいでしょ。まあ、美味しい魚がいるらしいから、そこは期待ね」
「どうせ霊夢はあまり泳がないし放置でいいだろ。私は泳いでくるぜ!」
三人とも、既に水着に着替えている。この砂浜には更衣室がないので、先に着替えさせておいた方がいいのだろう。
霊夢は赤、魔理沙は黄色、早苗は緑のビキニタイプの水着だ。それぞれのイメージカラーな水着だが、ルーミアのことを考えると、この水着も三人が希望したタイプなのだろう。
「私は砂浜でゆっくりしとくわー。休暇なのは変わらないし」
「霊夢はいっつも休暇だろ」
二人が海に向かって歩いて行った。
先ほど浮き輪を頼んだときに、パラソルとかビーチチェアも出してもらっているので、霊夢はそこで休むのだろう。
「あの、定晴さん」
「ん?どうした?」
対する早苗は、少し体を縮こませながら遠慮がちに訊いてくる。
「水着、どうですか?その、体型にはそれなりに自信があるんですけど…」
「確かにすらりとした体型だな。水着も似合ってるぞ」
「えへへ、ありがとうございます。この水着、自分のなんです」
そうか、早苗は元々外の世界にいたのだから、自分用の水着を持っていてもおかしくない。このビキニは早苗のものだったか…
いつもよりも肌の露出面積が広いから目のやり場に困るが…いつもの服装も脇とか見えてるし、あまり肌を見せることには抵抗はないのかな。
「魔理沙さーん!私も泳ぎまーす!」
上機嫌な早苗が海へと走って行った。ビキニを持ってるくらいだし、海が好きなのかもしれないな。
俺は砂浜で休んでいる霊夢に近づく。
「霊夢、水那はどうしたんだ?」
「ちょうど出かけてていなかったのよ。まあ片方は幻想郷にいた方がいいだろうし、ちょうどいいって感じで」
なんということか。水那、仕事中なのか…
水那は最近成長するためにいっぱい仕事も頑張ってるみたいだし…水那にこそ休暇が必要なんじゃなかろうか。
「いいのよ、そこらへんなミキがなんとかするでしょ」
「まあそうだが…」
のんきな霊夢を後目に海に戻ろうとしたら、砂浜に新しい気配を感じた。
俺はまたも拉致られたであろうその人をケアするために移動した。