「定晴、ちょっと話すことがあるから来てくれる?」
ある日、紫からそう言われて行った先は紫の家。結界の狭間にある不思議な家だ。
藍の出迎えで家の中に入ると、そこには紫。それと、正座させられている吉弔八千慧。どうやら、八千慧の起こした様々なことの結果が出たらしい。
「定晴、取り敢えず概要だけ言うと、幻想郷は彼女も受け入れます」
「まあそれはそうだろうな。それに、紫に拒否する権利はないだろ?」
「別に悪い奴は送り返すけど…」
八千慧は下を向いていて、顔を見ることはできない。どんな表情をしているのか何も分からないが…足がムズムズしているので正座が辛いのは間違いなさそうだ。
「ともかく、動物霊の管理的にも彼女はいないといけないのよ」
「そうか…じゃあ畜生界に送り返す感じか」
「そう思ったんだけど…」
紫が少し悩みながら呟いた。
「実は、先日の異変のせいで幻想郷の中にいっぱい動物霊とか霊魂が飛んでて、それを集める必要があるのよね」
「そんなに?」
「ええ、既に憑依される事件も起きたわ」
どうやら、幻想郷侵攻や幻想郷浸食の異変のせいで幻想郷に動物霊が流入してしまったらしい。それはまるで外来種のように幻想郷内で悪さをしているらしく、このまま放置をするのはまずいとのこと。
だからそれを捕獲し、畜生界に送り返す仕事が必要なのだが…
「その仕事を八千慧に?」
「ええ、彼女の能力はそういうのに向いてるしね」
能力?そういえば八千慧がどんな能力を持っているのか知らないような気がする。
「彼女の能力は【逆らう気力を失くさせる程度の能力】であり、動物霊みたいな意思がそこまで強くない相手なら従属させることができる能力よ」
なんだそれ、とても強いな。もちろん、気力を失くさせるだけなので強い意思があれば別だろうが、霊を操るのにはもってこいと言えるだろう。
それに、意思がそこまで強くない相手…妖精のような子ならば操ることができるだろう。恐ろしい話である。
「霊魂は死神以外の言うことはあまり聞かないから、元々動物霊をまとめてたこの子にやらせようってなったの」
「全部まとめて畜生界に?」
「ええ。まあ、必要な分は彼岸に送ってもらうけど」
なんだか、やってることがゴミ収集だ。霊をゴミだと言うつもりはないが、正直なところムーブは同じである。
俺が来てから一言も話さない八千慧を見るが、ずっと下を向いたままで身動ぎ一つしない。つか正座させられてるけど辛くないのかな。
俺が八千慧を見ていることに気が付いた紫が、一言付け加える。
「…どうやら彼女、あなたに正面から負けて悔しがってるみたいで…」
「違いますっ、別にそういうのはありません」
紫の一言で、八千慧が顔を上げた。
「この子ったら、自分より弱い相手は全部見下すような性格だから、定晴に負けたのが悔しくて…」
「だから悔しくなんかないです。あと、さっきからこの子って呼ぶのやめてください」
「あらあら、強がっちゃって」
紫が八千慧のことを煽っている。
紫がこうやって人を煽るなんて珍しいな。幻想郷が危うく消滅する危機だったから、その異変の首謀者に対しては棘があるのだろう。
「あれ、そういえばもう一人捕まってたのがいたよな」
「ああ、饕餮尤魔ね。あの子は既に仕事に行かせたわ」
饕餮尤魔は、妖怪の山の爆発事件の犯人だと思われる人物であり、俺が無効化を使ってもある程度レジストした人物である。
「仕事?」
「ええ、実は彼女は石油を目当てに妖怪の山の地下深くにいたみたいで…そこを吉弔八千慧と結託して幻想郷を混乱させたわけだけど、実はこの異変がなくても地下で石油掘りしてたせいでちょっと環境が変わってたのよね」
石油だと!?というか、幻想郷に石油があったのか。
日本では石油はまともに採取できないとされている。日本に油田がないのがいい証拠だ。それが、幻想郷の地下でとれるとは…
そもそも、幻想郷の環境って今の日本にはないものばかりであり、もしかして日本の資源枯渇の原因のっ一つに幻想郷の成立が関わっている可能性が…
閑話休題。
「だから、罰として旧血の池地獄の管理をさせることにしたわ。まあ、あっちは私じゃなくて隠岐奈が担当したけどね」
「旧地獄か…」
実際に現在稼働しているわけではない、旧地獄というのが地底に存在する。地霊殿が建っているのも旧灼熱地獄の上だ。
旧地獄は現在地獄として使われていないにも関わらず、未だに動いてはいるので管理が必要なのである。旧灼熱地獄はお空が管理しているしな。
尤魔も同じく旧地獄の管理人として行くことになったのだろう。
「まあ、まったく自由がないわけじゃないし二人とも罰として適正でしょ」
「そうだな。幻想郷崩壊させる寸前だったわけだし、もっと厳しい罰になるかと思ったんだが…」
幻想郷は紫がとても長い時間夢想し、やっと実現させた楽園なのだ。そこが消滅するとなれば、紫は怒髪天となり首謀者をスキマのどこかへ永久追放するのかとも思ったんだが…
「私をなんだと思ってるのよ」
「妖怪」
「ごほん、それは否定しないけど…」
紫だって妖怪らしい一面はあるのだ。あまり見せることはないが、妖怪らしい一面が。水那を幻想郷に連れてくるときに、何も言わずに記憶を弄ろうとしたのは、そういう一面であろう。
「実は刑罰を考えてるときにミキが来て…」
「ミキ?なんで?」
「私を海に連れて行くためよ」
ああ、あのときか。
「で、そのときちょうど八千慧と尤魔の二人がいて、それを見たミキが…」
『次なんかあっても定晴がなんとかするから大丈夫』
「って言ってたから…」
「俺に丸投げじゃねえか!」
あの野郎。次会ったら無効化からの滅多切りしてやる。
「だからこうなったの。貴女も、定晴に感謝しなさいよね」
だから紫は俺を呼んだのか…
「さて、これで処罰の話はおしまい!それで、定晴の無効化の力による結界の問題なんだけど…」
ああ、そういえばその問題もあったな。処罰が決まるまでは幻想郷にいるように紫に言われてたから忘れていたが、俺の力のせいで結界が緩んでいる問題もあったのだ。
なんなら、妖怪が入りこんできたあれがこの異変の始まりでもあったわけだし…
「定晴に強くなってもらうよりも、結界を強くするべきだと考えたから、そっちの方向にシフトするわ」
「というと?」
「結界の中にあなたの力をそのまま組み込むのよ。そうすれば結界は強くなるし、あなたの力も相殺されるから一石二鳥でしょ」
ふむ…無効化の力と無効化の力がぶつかったときにどっちが勝つのかはよく分からないが…
「詳細はあとで伝えるわ」
「分かった」
もしかして、俺があまり強くなってないことを感じたのだろうか。確かに魔界での修行であまり強くなった感覚はないけども…
俺は少しの悔しさを抱きつつ、紫の屋敷を去った。