先日海水浴に行った俺たちだが、その後さらに夏の気温は上がり続け、外に出るのも億劫に思うほどの高温となってしまった。
どうしても行動に支障が出てしまうので、夏は何でも屋の敵となる。そのため、夏に対して少しばかり苦手意識も存在する。
「エアコンがある家っていいわねぇ」
「外に出たくないですぅ」
そして現在、家には二人のスライムが誕生している。エアコンによる空調管理の恩恵を知り、外に出ることがなくなった妖怪二人だ。
「俺は買い物に行くからな」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃいませー」
ソファで寝転がって動かない二人。大丈夫かね、これ。
とはいえ、その気持ちも十分わかる。財布を持ち、玄関の扉を開いた瞬間俺を襲う圧倒的な熱波。これでは、家から一歩外に出るだけでも億劫というものだ。
余分に幻空に飲み物を入れているが、なくなってしまうかもしれないな。
「コンクリートジャングルじゃないだけマシか…」
都会の夏は暑いからな。そういう意味では、木々に囲まれているここはまだ涼しいのかもしれない。
本格的に魔術を覚えようかな。魔女のおかげで適正は上がってるし、きっと氷の魔術の中には冷却の魔術もあるだろう。それを使えば外に出ても楽のままのはずだ。
もしくは河童にいいのを作ってもらうか。霊力で動く手持ち扇風機とか、河童たちなら作ってくれそうだ。正直あれは真夏だと効果を実感しにくいが、ないよりはマシだろう。
空を飛んでさっさと人里へ移動…しようとしたら、後ろから声がかかった。
「お困りのようね、定晴!」
振り向くとそこには俺が求めていた氷を身に纏う妖精、チルノ。こちらを見て、堂々とした表情と共に仁王立ちをしている。
「どうしたんだ、チルノ」
「助けに来たのよ」
仁王立ちをやめて、こちらに歩いていくるチルノ。仁王立ち、必要だったか?
「あたしの周囲は冷気があるから涼しいのよ」
「そうなのか」
「だから、あたしが買い物に同行してあげようってわけ」
どや顔でそんなことを言うチルノ。
たしかに、チルノがこちらに近づいたら少し周囲の温度が下がった気がする。流石冷気の妖精だ。移動型エアコンとでも言おうか。
「何が望みだ?わざわざここまで来て」
チルノが活動拠点にしている霧の湖は、近いとはいえわざわざ飛んでくるには遠い距離にある。
デザートでも欲しいのかと思っていたら、チルノはモジモジ。
「別に、一緒にいれれば、その…」
「なんだ?」
「一緒に出掛けましょって話!途中でデザート買って!」
なるほど、それが狙いか。確かに俺が作るやつよりも、人里にある茶屋の菓子の方が美味しいもんな。まあ、夏が過ごしやすくなる対価ならちょうどいいか。
「分かった、行こう」
「っ!えへへ、行こう!」
チルノを連れて人里へ。チルノが近くにいるので、炎天下を飛んでいても暑くはない。
「チルノは暑くないのか?というか、溶けないのか?」
「暑くないわ。あと、あたしは氷じゃないわよ」
「夏は過ごしやすそうでいいな」
チルノの羽根?翼?よく分からないが、背中の氷の結晶は暑いこの中でも溶けずに形を保っている。どうやら、普通の氷が浮いてるだけではないらしい。
「でも、夏は皆があたしに密着しようとするから、あまり夏は好きじゃない…」
「人肌は無理なのか」
「暑いのは大丈夫だけど、熱いのは苦手…」
チルノがげんなりしてそんなことを言う。いつも元気なチルノがここまで辟易するってことは、毎年のことで嫌気がさしているのだろう。
「にしてもチルノ、なんで家の前にいたんだ?」
「へっ!?え、えっと…たまたまよ。偶然あたしを見つけられた幸運に感謝しなさい!」
「声をかけたのはそっちだけどな」
珍しくチルノが一人でいた。近くに他の妖精の気配もなかったし、大妖精もいなかったようなので、チルノが一人でいたのだろう。
俺の家の周囲には何もないので、チルノがここらへんを歩いている理由は分からないが…まあ妖精なんて神出鬼没だからあまり考えない方がいいか。
雑談をしていたら、すぐに人里についた。俺の家から人里はとても近いのでね。
「定晴、何買うの?」
「食材と、あと生活用品諸々だ」
夏になって食材は痛みやすくなったから、あまりまとめ買いができなくなったし、夏に向けた生活用品の準備を怠っていたので買わないといけない。
エアコンがあるとはいえ、それだけで幻想郷の夏を乗り換えられるわけではないのだ。
「あたしが荷物運びをしてあげる」
「いや、幻空があるから荷物運びはいらないぞ」
「そ、そう…」
生物以外なら幻空に入れることができるからな。わざわざ重い荷物を運ぶ理由はないのだ。
それにしても、チルノはどうも最近こうして自分から積極的に手伝いをしようとすることが多い。大妖精に言われてるからそうしてるのかと思えば、大妖精がいなくても積極的に動いてくれる。
チルノに勝負を挑まれることもなくなったし、チルノはただのいい子になったのだろうか。
「チルノ、デザートは何がいいんだ?」
「え?」
「途中で買うって話だろ」
「ああそっか…えっと…」
デザートを買うという話を忘れていたらしい。自分から言ったのに…調子のいいやつだ。もし俺が何も言わなければ、ただ働きになっていたかもしれないな。
「じゃあ、そこの茶屋の餡蜜団子でいいわ」
「分かった。先に買っちゃうか」
チルノを連れて茶屋へ。
あまり家で和菓子を作ることがないうえ、和菓子の場合は俺が作るよりも人里で作ったものを食べた方が満足度が高いので、この茶屋にもよく来る。
「餡蜜団子を一つ」
「はいよ~」
手慣れた動作で餡蜜団子が作られていく。すぐに、甘い餡蜜のかかった団子串がチルノの手に渡った。
「定晴は食べないの?」
「今から買い物するからな」
さてと、最初は夏用のアイテムを色々…と思ったら、チルノに服を引っ張られた。
「定晴、あーん」
「チルノ?」
「あーん!」
団子をこちらに突き出して…もしかして、一口くれるのか?あのチルノが?
よく見ると、チルノの顔が赤くなっていて、こちらを見ていない。
「早く食べなさいよ!」
「ああ、悪い」
俺は突き出された団子の先端の一つを食べた。夏のために冷やされた餡蜜はとても甘く、食べていて心地の良い味わいだ。
「まったく…」
「だってチルノが俺に団子をくれると思わなかったから…」
「あたしだって配慮くらいできるのよ」
団子をくれるのは配慮だったのか。何に対する配慮なのかは不明だが、ともかくチルノの優しさによって俺は団子を一つ食べることになったらしい。
団子を味わった俺は前を向いて立ち上がる。
「んじゃ買い物だ」
「え、ええ…」
妙に歯切れの悪いチルノが気になって、もう一度振り返ると、そこには団子串を凝視しているチルノ。
「チルノ?」
「な、なんでもないわ!」
チルノはパクリと串刺しを食べきって、ゴミ箱に捨ててしまった。もうちょっと味わえばいいものを…まあ、子供の食べ方なんて大抵こんなもんか。
「さ、行きましょ!」
俺はチルノと共に、必要なものの買い物を始めるのだった。
定晴が家を出る少し前の話
チルノ「定晴に話しかけたいけど…でも呼び出すのも…ちょうどよく出てきてくれないかな…」
チルノ「あたいがいれば涼しいことを伝えれば一緒にいられるかも…?でも外に出かけてくれないと…」
チルノ「あ!定晴が出てきた!チャンスね!」
定晴帰宅後の話
ルーミア「…途中で誰かと会った?」
定晴「チルノが家を出てすぐのところにいたから、お菓子を代金で同行してもらった」
ル「まあ暑いからね…チルノ、最近怪しいのよね…」
定「どうした?」
ル「なんでもないわ」