とある日、人里で買い物をしていたら、突然声をかけられた。
「定晴!少し話がある!」
「そんな大声で話さなくても聞こえてるぞ、魔理沙」
そうでなくても、魔理沙の声は響くくらいには大きいのだ。叫ばれると、それだけで騒音被害となってしまう可能性があるのだ。
「アリスの家を建てたんだろ?」
「ああ。まさか、魔理沙も建てろって言うのか?」
「いや、私の家は香霖に頼むから気にしないでいいぜ」
あいつ、建築もやってるのか?霖之助は幻想郷の何でも屋なのだろうか。
まああの店には、それなりのものがあるから何でもとまではいかずとも、複数兼業とも言えるかもしれない。
「じゃあ俺に話ってなんだ?」
「家の材料を集めてほしいんだぜ」
詳しく聞くと、霖之助では家を建てるだけの材料を集めるのに時間がかかるとのこと。霖之助は別の仕事があるし、俺のように幻空のない霖之助では保管も大変だ。
アリスの家を建てた俺なら、材料を集めるのもすぐだろうと魔理沙が俺に話してきたということだ。
「定晴にはその謎空間があるから運ぶのは楽だろ?」
「ああ、持ち運ぶのはすぐだ」
本来はトラックを使わなければ運ぶことができないような大きさ、重さのものでも身一つで運ぶことができる。幻空にも容量があるので無限とはいかないが、家を建てるだけの建材を全部入れられるというのは実証済み。
俺は運送業者ではないが…しかし、何でも屋としての仕事ではあるので受けようと思う。
「ちゃんと金は貰うからな」
「おう、任せとけ!」
サムズアップで答える魔理沙。
魔理沙の貯蓄に家を建てれるほどの余裕があるとは思えないが…まあ、最悪魔理沙の私物からいくつか差し押さえにでもしようか。
後日、魔理沙の材料を集めるために一人で行動を開始した。式神二人は家にいる。
さて、まず必要なのは木材。アリスの家を作った時は萃香から妖怪の山の木材を貰ったが、まだ余ってるかな。
俺は妖怪の山にやってきた。所々抉れていた妖怪の山も、今では前と同じくらいの見た目となっている。未だに植物は育っていないので、禿山となっているのは変わらないが。
「あら、定晴さん。今日はどうしたの?」
妖怪の山の麓であったのは雛。前に妖怪の山に来た時も、雛の案内で萃香のところまで行った。
俺が妖怪の山に来るとき、基本的にいつもここらへんにいるのだ。ここらへんはあまり人が集まらず、厄が溜まっているとかなんとか…まあ、俺は浄化があるので何も問題はないがな。
「今日も前と同じ要件だ」
「うーん、じゃあ無理かも。もう建材は残ってないのよね」
「そうなのか?」
聞いた話によると、前回余っていた木材は残りすべて復興に使われてしまったらしい。むしろ、木材が足りなくなって、今は近くの森の伐採をしているほどだという。
そのため、木材を作るには俺自身で伐採をしないといけないというわけだ。
「そうか、わかった。じゃあ適当に伐採を…」
「あ、待って!私におすすめの場所があるの」
そう言って、雛は俺を手招きする。伐採におすすめっていうのがよく分からないが、折角なので雛の誘導に従ってみよう。
「今度は誰の家を建てるの?」
俺の隣まで戻ってきた雛が話しかけてくる。
通常、他人に厄が移るので人に近づきたがらない雛も、俺の浄化のおかげでこの距離で会話ができる。
「魔理沙だ。建てるんじゃなくて、建材を集めるだけだがな」
「魔法使いかー…あれ、乱暴だから気を付けてね」
「何かされたのか?」
「私の制止を振り切って私をボコボコにして妖怪の山に侵入、早苗たちを襲って…」
あれか、早苗たちが幻想郷に来た時に諍いがあったやつか。確か前に買った幻想郷の歴史の本に書いてあった気がするな。
雛は天狗たちとは違って、哨戒しているわけでも門番というわけでもない。そのため、侵入者に警告するのはある意味善意ではあるのだけど、それを魔理沙と霊夢は無視して、なんなら雛を攻撃して突破したらしい。不憫すぎる…
「なんというか、魔理沙のいい評判を聞かないな」
「そりゃ攻撃された妖怪の方が多いもの」
そもそも、霊夢とは違って魔理沙には異変解決の仕事はないのだ。本人は異変解決のプロだと自称しているものの、異変に首を突っ込んでいるのは魔理沙のお節介の面が強い。
「霊夢と魔理沙に恨みを持ってる妖怪は多そうだな」
「まあ幻想郷のバランスを考えればちょうどいいんだけどね。さて、ここが目的地よ」
雛に案内されてやってきたのは、妖怪の山から少しだけ離れた森。見た目はただの森であり、どこがおすすめポイントなのかは分からない。
「ここがいいのか?」
「ええ、ここの森はずっと放置されてたから木材が頑丈で…まあ、そのせいで伐採に苦労するけど、貴方なら大丈夫でしょ?」
試しに木に触ってみると、確かにがっしりとしてる印象だ。虫食いもないみたいだし、きっといい建材になるだろう。
「私はここで見てるわね」
近くの岩に座った雛がこっちを見て「頑張れ~」と言っている。厄払いはいいのかな。
「ふう…」
輝剣を召喚して、横に構える。身体強化を発動し、魔術で刀身を伸ばして、依姫が使っていた神の速度で横なぎに一閃…
目の前の五本くらいの木を切り倒す。やはり魔術で伸ばした分で斬ったところは切り口が雑だな。建材にするときは整えるために端を切り落とすから何も問題はないけど。
「すごい!剣ってそんなこともできるのね」
「相当な速度で斬らないといけないけどな」
神の速度を使ったので、俺の腕が悲鳴を上げている。連続して使用することはできないので、雛と駄弁って時間を潰そう。
「椛も同じように伐採すればいいのに…」
「椛?」
確か白狼天狗の子だったはず…雛と交流があるのだろうか。
「哨戒天狗の監視塔よ。あの子も剣を使うの」
「剣が使えるからって、剣で伐採できるとは思えないけどな」
多分妖夢もできないし。ただ横なぎをするだけでは伐採できないのだ。コツも必要だし、そうそうできることではない。
そも、輝剣みたいな不壊な剣でもない限り、一回で刃こぼれをする。
「無理はさせるなよ」
「分かってるわよ」
雛と雑談して、少し腕も回復したので、もっと伐採しよう。
これを繰り返して、俺は必要な木材を手に入れるのだった。
「この後は?」
「河童のところに行く予定だ」
前回使った鉄骨や釘を用意しないといけないからな。あれがあれば、建築がとても楽になるはずだ。霖之助なら使いこなすことができるだろう。
「ついて行ってもいいかしら?」
「いいけど…雛は大丈夫なのか?」
「厄払いなら安心して。貴方の近くにいるだけで厄払いになるから」
雛の周囲を漂う厄が俺に近づいて、浄化によって勝手に消えていく。そのため、俺の近くにいるだけで厄が消えていくらしい。
まあ雛が暇なら別にいいか。雛は一緒に来たがっているし、拒む理由は特にない。初めて出会ったときの俺への印象は悪かったと思うけど、随分と仲良くなったものだ。
「じゃあ行くか」
「やった。行きましょ」
妖怪の山の河童の集落まで移動する。
雛の方が妖怪の山の地形に精通していて、俺が知らない道を通っていく。そのおかげで、いつもよりも儒分ほど早く河童たちのところまで来ることができた。
「にとりー!いるかー?」
河童たちは異変の前と後であまり変わらない。なんせ、この子たちはいつも慌ただしく動いているからだ。
ただし、復興のための開発が多くなったからか、好きなものが作れないと不満を漏らしている河童も多い。いつもは好きなように開発できるので、束縛がある環境に合わないのだろう。
「はいはーい。早い再会だったね」
「ああ。また仕事が来てな」
煤けた服装のまま奥から出てきたのは、河童のにとり。きゅうりをムシャムシャ食べているが、ごはん中だっただろうか。
「あ、これは食べなきゃやってられないから食べてるだけだよ」
「そうか…」
そんな酒を飲むような感覚できゅうりを…まあ、体に悪いものではないからいいか。タバコとか酒とかよりも断然いい。
「今日は何の用かな」
「前と同じく、鉄骨と釘が欲しい」
先日のアリスの家で使った鉄骨と釘は河童製のものだ。あれは建築向けで、とても使いやすい。
俺が要件を伝えると、にとりは少し苦笑を浮かべた。
「うーん、残念だけどどっちも今はなくてね」
「復興に回したのか」
「そうだね。やっぱり、一回破壊されたら、もっと頑丈に作りたくなるものだろう?」
うーむ、前回はすんなり集まった資材がこうも集まらないものか…
「因みに、厄神様は何の用かな」
「私はただ定晴さんについてきただけよ?」
雛は俺を挟むようにして、にとりの方を向いている。俺は浄化できるけど、にとりは浄化できないので、にとりに厄が移動しないようにするためだろう。
基本的に、人が多いところだと別の人に厄が移動しないように、俺の近くにいなければいけない。
「…ならいいや。定晴、時間を貰えれば作れるよ」
「そうなのか」
「うん。あ、でも、ちょっと材料が足りないかも。それを集めてもらえる?その分値段は安くするからさ」
にとり曰く、金属が足りないらしい。今頑張って掘っているものの、幻想郷では時間がかかるらしい。
鉄を生み出す能力があればいいのだけど…今のところ、物質を生成する系の能力を持つ人物に出会ったことはない。
「分かった。どこに行けばいいんだ?」
「採掘は向こうの山でやってるよ。でも、流用できる金属ならなんでもいいよ」
「了解」
なんとなく、RPGをしている気分になるな。おつかいクエストといったところか。
パーティメンバーは雛。どこまで付いて来るつもりなんだろう。
「あっちの山は少し遠いわね…」
「別についてこなくてもいいんだぞ?」
「暇だから大丈夫」
どうやら雛はまだついてくるつもりみたいだ。
俺はパーティメンバーを連れて、にとりに示された山に向かうのだった。
にとり「雛、随分と乙女な顔してたなぁ…初めて厄を気にせず話せる相手だってはしゃいでたもんなぁ…」