東方十能力   作:nite

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三百四十三話 コンクリートジャングル

「定晴ー!甘いもの作ってー!」

 

家を出たところに待ち構えていた紫にそう言われたのが、約三十分前。

紫のスキマ式拉致によって体を持ってかれた俺は、現在外の世界に来ていた。財布の中身はいつの間にか現金になっていて…これ警察に言ったら拉致罪になりませんかね。

 

「で、どうするの?」

「言われた通り買い物をするしかないだろ」

 

強制的に連れてこられたルーミアとユズも近くにいる。ルーミアはリボンを緩めにして、大人の姿となっている。

ユズは元々高校生くらいの身長なので、別に問題ない。小学生くらいの身長だと、現代社会は動きづらいので、それさえ満たしてくれるなら気にしない方向。

 

「ここが、外…」

「ユズは外にいた妖怪だと思うんだが、何か思い出せないか?」

 

不動によって幻想郷に連れてこられた妖怪なので、ユズは元々こっちの世界に住んでいたはずなのだ。化けなくても人間のような見た目なので、社会の中で過ごしていたとしてもおかしくないのだけど…

 

「すみません、思い出せません」

「そうか…」

「ただ、こういう街では、住んで…なかった気がします。とても新鮮なので…」

 

感覚の話だから分からないけど、ユズの主観では都会住みではなかったようだ。田舎の森の中の方が過ごしやすい妖怪も多いし、そっちのタイプかな。

ユズは人間を食わなくても生きていけるみたいだし、人が多いところに住む理由もなかったのかもしれない。

 

「ま、今日は紫の願いを叶えるとしよう。後で対価として、ユズの外の世界の観光をさせてもらえばいい」

「そんな、私のために、紫さんの対価を使うのは、だめですよ」

「まあまあ、今のところそれ以外に頼むものもないから」

 

外の世界ということもあって、周囲の人間に怖がっているのか、ユズは言葉詰まりが多い。はぐれないようにしないと、ユズがパニックになってしまうかもしれないな。

 

「ルーミア、ユズと離れないようにな」

「はーい」

 

一応ユズの位置は式神の主として感知できるが、はぐれないようにするのが一番だ。都会が一番怖いからな。

実力行使による撃退ができない分、幻想郷よりも怖いかもしれない。ユズが怖がらないように動くことが必要だ。

 

「じゃあスーパーに行くぞ」

「ん…そういえば定晴、何を作るの?」

「今日は、ティラミスかな」

 

ティラミスの材料って幻想郷じゃ中々手に入らない。紫がたまに開いている外の世界のものを扱っているお店以外じゃ、ほとんどの材料が手に入らない。

ティラミスの見た目や風味を決めるココアパウダーと、ティラミスの基礎となるマスカルポーネチーズを手に入れるのが難しいのである。代用品で作ったこともあるが、やはり本家のティラミスを作るのであれば、この二つは欠かせない。

 

「ユズ、あまり離れないで」

「は、はい!」

 

ルーミアがユズの手をしっかり握って誘導してくれる。人混みの中ではぐれたら見つけるのが大変だからな。

人混みを抜けて、なんとかはぐれずにスーパーにたどり着く。

 

「ここも人多いわね」

「今日は平日だし、まだ昼間だからこれでも少ない方だ」

 

夕方になれば買い物をする主婦たちによって人々の垣根ができるだろう。

今のうちに買い物をしてしまわねば、俺たちは人間の海で漂流することとなる。

 

「ルーミアとユズは二人で行動して、このメモの内容を買ってくれ」

 

俺は二人に一枚のメモを渡す。このスーパーで全部揃えられるはずだ。

 

「それはいいけど、定晴は?」

「俺は別のところで必要なものを揃える」

 

このスーパーで一通りの材料を集めることはできるだろうが、この店には器具がない。

というのも、どうやら紫は俺がスイーツを完成させるまで幻想郷に帰してくれない雰囲気なのだ。

場所は昔俺が使っていた隠し倉庫があるのでいいのだけど、そこには料理器具はないからな。魔術を使えば火や水の用意はできるが、器具がないことにはどうしようもない。

そのため、料理道具を買うことにしたのだ。それくらい用意しておけよ紫。

 

「じゃあ足りないものがあったら連絡すればいいのね?…繋がるわよね?」

「こっちでもちゃんと繋がるぞ」

 

式神通信のことだ。式神通信は俺たちの力に比例するからな。間に塞いでくるものがない限り、式神通信は十全に使うことができる。

 

「じゃあ頼んだ」

「頼まれた」

 

スーパーを二人に任せて、俺は器具を買いに行った。

 


 

「はぐれないようにね」

「は、はい…」

 

ルーミアさんに手を引っ張られて、スーパーと呼ばれるものを歩き回る。

定晴さんの頼みだから確実にこなしたいけど…私はここに来るのは初めてだから、なんとかついていかないと。

 

「マスカルポーネチーズって何??普通のチーズとの違いは何なのよ…」

 

ルーミアさんがぼやきながら店内を歩く。確かに、私も知らない名前の食材だ。

定晴さんはこのメモを作るときに調べているように見えなかったから、きっと何も見ずにこの材料を書き出したんでしょうけど…ティラミスの材料を何も見ずに書けるのって、結構凄いような気がしますね。

 

「ココアパウダー…コーヒーもいるのね…それに、生クリームは自作するのか…」

 

ルーミアさんが商品を見つけて、ぽいぽい籠に入れていく。

ルーミアさんも私と同じく外の世界にはそこまで慣れていないはずなんだけど、その動作はまるで長年ずっと外の世界に住んでいたみたい。

 

「スポンジケーキなんてどこにあるのかしら」

「あ、あっち、だと思います…」

「お菓子か、なるほどね」

 

凄いなぁ、ルーミアさん。迷いなくどんどん買っていく。

定晴さんはルーミアさんのことをとても信頼しているみたいだけど、この姿を見れば納得です。式神としての役割を十分にこなしていますし、戦闘もできるので、なんでも任せることができるというのが印象です。

ただ家事だけは私の方が得意みたいですけど。ルーミアさん、定晴さんが一緒じゃなければあまり家事はしたがらないですし。そういうところは、ルーミアさんの気持ちがわかりやすい部分でもあります。

 

「うん、こんなもんかな。レジに行きましょ」

 

ルーミアさんは定晴さんから貰った袋から外の世界のお金を取り出して、ぱぱっと買い物を終わらせてしまった。

外の世界のお金にも精通してるなんて…そういえば、ルーミアさんは読書が好きのようでしたので、もしかしたらそこで覚えたのかもしれません。

私も定晴さんのお役に立てるように、もっと本を読むべきでしょうか…

 

「行くわよ」

 

ルーミアさんはしばらく式神通信をしたかと思うと、私の手を引いて進みだしました。

外の世界の人混みはすごい。人里で催し物があったとしても、ここまで人は集まらない。しかも、今日はこれでも少ない方だと言うから驚きです。

外の世界のを見るのは、私の記憶だと初めてなので周囲を眺めていたら、何人かにぶつかってしまいました。

 

「あ、ま、ルー…待って!」

 

ルーミアさんの手を繋いでいる感覚がしなくなったと同時に、私は人混みに流れされてしまいました。

私は、この知らない土地でルーミアさんとはぐれてしまったんです。

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