東方十能力   作:nite

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三百四十五話 突撃隣のこいしちゃん

ある日、俺の家に突然来客があった。

 

「お燐?」

「はいぃ…その、こいし様来てません?」

「いや、来てないと思うけど」

 

どうやら、またもや地霊殿から逃げ出したらしい。

とはいえ、俺のところには来ていない。俺にはこいしの能力が効かないので、こいしが来ていたらすぐに気が付くからな。

 

「あれぇ、ここじゃないのかぁ…ってことは紅魔館かな、ありがとねおにーさん!」

 

そう言うとお燐は紅魔館に向けて飛んで行った。こいしの幻想郷の行く先は、大体ここか紅魔館なのは地霊殿のほとんどが把握している。

こいしの何も言わずに地底から出てくるのは、地霊殿の皆も困っているだろうからやめて欲しいのだけど…俺が言っても聞かないから仕方ない。そもそも、俺が幻想郷に来る前からやってたし。

 

「何ー?またこいしったら逃げ出したの?」

 

俺が扉を閉めてリビングに戻ると、お燐との会話を聞いていたルーミアからそんな一言が。

 

「まただよ。ルーミアは何か知らないか?」

「私のところに来るときもアポなしだから分からないわ」

 

こいしが能力を使っている場合、こいしと仲がいいルーミアやフラン、一緒に住んでいるさとりであってもこいしを認識することはできない。

こいしの来訪に気付くことができるのは、こいしの能力が効かない俺や認識の境界を操れる紫くらいなものだ。

 

「紅魔館にいるといいわね」

 


 

「おにーさん!こいし様がいないよ!」

「ええ?」

 

お燐が紅魔館に向かって数十分後、お燐が戻ってきてそんなことを言った。

 

「紅魔館にいなかったのか?」

「門番は見てないって言うし、フランちゃんも今日は会ってないって」

 

美鈴の情報は正直なところあまり信用できないが…こいしが紅魔館に行くときはフランと遊ぶときなので、フランが会っていないと言うのであれば、こいしは紅魔館に行っていないのだろう。

こいしは基本的にこの二か所にしかいかない。前に俺が寺子屋で先生をしたときにこいしが人里に来たが、あれは俺が人里にいたからであり、用がない場合はこいしは人里に行くこともない。

 

「実は地底にいるとか」

「うーん、かくれんぼかねぇ…こいし様が本気で隠れたら見つけられないんですけど」

「それはそうだ」

 

こいしが地霊殿からいなくなったという判断は、呼びかけても全然返事がなかったときだ。

こいしは妖怪らしくいたずら好きではあるのだけど、根がいい子なので呼びかければ返事と共に出てくる。それがない場合に、地霊殿にいないという判断となるのだ。

 

「旧都とか?」

「うーん、だとしたら分からないねぇ…でも、用事で出るときは言ってから出かけるから違うと思うよ」

 

こいしが無言で出かけるときは、地上に来ていると相場が決まっているらしい。普通に出かけるときは一言伝えてから出かけているあたり、やはり根はいい子なのだ。

地上に行くのは止められるのがわかっているから、何も言わずに出ていくのだろう。こいしの能力なら、見つかるまでに時間がかかるのは分かり切っていることだからな。

 

「本当にこいし様知りません?」

「いや、本当に知らん。悪いな」

「うーん…」

 

こいしは過去に攫われたことがある。あれは俺の不注意だったし、地底の異変中だったので現在とは状況は随分違うが、最近幻想郷崩壊を企む奴もいたから少し心配だ。

 

「手伝いは必要か?」

「いやいや、他のペットと一緒に探し回ってるから大丈夫。ありがとねおにーさん」

 

お燐はそれだけ言って飛んで行った。地霊殿にどれだけのペットがいるのか分からないが…こいしを探すのならペットたちの方が向いているかもしれないな。

もしここにこいしが来たら紙の式神でも使って連絡するとしよう。

 


 

夜になるまでこいしは来なかった。本当にどこに行ったのだろうか。

 

「今日は暑いし冷やし中華にするか」

「はーい」

 

ルーミアとユズと共に夜ご飯を作る。夏の夜も暑くなってきたので、今日は冷やし中華だ。

俺がキッチンに立った時、インターホンが鳴った。こんな遅い時間に誰だろう。

 

「はいはーい」

「おー、定晴の出迎えだー!」

 

そこに立っていたのはこいし。お燐が一日中探したであろうこいし。

 

「なぜここに!?」

「私が地上に来るときはいつもここでしょー」

 

いや、それはそうなのだけど、問題はそこではなく…

 

「お燐が一日中探してたぞ」

「そうなの?私が地上に来たのはさっきだよ」

 

おや、お燐の話と違うな。

最初に昼間にお燐が来た時、既にこいしは地底にはいないという結論になっていたはずだ。だというのに、こいしはさっき地上に来たという。一体どういうことなのだろうか。

 

「あ、わかった!実はね、地上に来る間にキスメちゃんと駄弁ってたんだよねー。その影響下も」

 

キスメというと、地底の洞穴の途中に住んでいる鶴瓶落としの妖怪だ。前に俺が地底で生活していたときに、こいしと共に出会った妖怪である。

今も交流は続いてたんだな。

 

「確かに結構長い間駄弁っちゃったかも」

「お燐が真昼間から探しに来てたぞ…」

「えへ」

 

はぁ、まったく。

お燐が今どこにいるのか分からないが、紙の式神を飛ばしておこう。携帯電話とかが存在しない以上、こいしを地霊殿まで送り返したところっでお燐に連絡が行くのに時間がかかるのは変わらない。

お燐の妖力は把握しているので、紙に追跡させてお燐を探す。

 

「ちゃんと謝れよ」

「はーい」

 

そう言って平然と家の中に入ってくるこいし。あまり反省しているようには見えないが、どうせ俺が何度言っても地上に戻ってくるのは変わらないだろうから俺も気にしない。

 

「私も夜ご飯食べていいー?」

「…いいぞ」

 

一応食材は余っているので、明日の昼の予定を繰り上げよう。

 

「こいしも手伝え」

「もちろん、そのつもりだよー」

 

こいしもキッチンに入るとちょっと手狭だな。四人もキッチンに入るような設計にはなっていない。この家は大きいけれど、流石にキッチンはそんなに無駄に広くはない。

 

「ユズ、机の片づけを頼む」

「は、はい…」

 

こいしがいるから少し固いな。まあ致し方あるまい。あとでメンタルケアをしておこう。

ルーミアは料理慣れをしているので、いつも通り食材を切ってもらう。対してこいしは…

 

「こいしって料理したことあるのか?」

「定晴のところ以外じゃないよ」

 

地霊殿じゃ料理しないか。まあ、メイドのようにペットたちがいるから料理をする必要がないの方が正しいのかもしれない。

 

「じゃあ中華麺を茹でるから、沸騰したら教えてくれ」

「うん!」

 

夏なのでまだ空は少し明るい夜だが、こいしはとても元気だ。一日中駄弁っていたから体力が有り余っているのかな。

こいしが中華麺を眺めているので、ルーミアと一緒に食材を切る。冷やし中華は料理の手間が少ないから、四人もいると準備がすぐに終わってしまうな。

 

「沸騰した!」

「はいよ」

 

こいしの報告を聞いて、麺を沸騰した湯の中に入れる。そこまで茹で時間は長くないので、ささっと。

 

「こいし、冷蔵庫の中にタレが入ってるから取り出してくれ」

「これー?」

 

冷やし中華にするのは前もって決まっていたので、朝に冷やし中華のタレを作っておいたのだ。タレを冷やす時間を考慮する場合は早朝に作っておかなければいけない。

勿論、タレ自体は他の料理にも使えることが多いので、日常的に冷蔵庫の中に保存しておくのもいいだろう。

 

「よし茹で上がり」

 

茹で上がった麺を何度か湯がいて、皿に盛りつける。

冷やし中華にはやっぱり少し大きい深みがある皿を使うとそれっぽいよな。麺を盛り付けて、その上に重ねるように細く切った食材を置くと…

 

「冷やし中華始めましたってね」

「別にこの夏初めてじゃないでしょ」

 

ユズが机の準備をしてくれたので、冷やし中華を持っていけばすぐに食べられる。

 

「「「「いただきます」」」!」

 

夏に熱いものを食べるのは、それはそれで美味しいのだけど、やはり冷たいものがうまい。

 

「美味しい!」

「まあそこまで難しい料理でもないからな。地霊殿でも作ったらどうだ?」

「うーん、定晴の手伝いじゃなきゃやらないかなー」

 

こことは違って、地霊殿には世話をしてくれるペットが多いからかな。まあ、やってくれる人がいるのがわかっているのならやる気が起きないのも分からなくはない。

実際フランもここではそれなりに色々するのだけど、紅魔館では咲夜任せらしいからな。従者がいるというのはそういうことなのだ。

美味しく食べていたら、こいしがこちらを見て提案をしてきた。

 

「定晴、今日はここに泊まってっていい?」

「ええ?お燐が迎えに来るぞ」

「いや、追い返すから」

 

追い返すな。かわいそうだろ。一日中こいしのことを探してくれたんだぞ。

 

「お燐に迷惑をかけたらだめだろ」

「いつものことだから大丈夫」

「その『いつもの』をやめろって」

 

日常的にこいしに迷惑をかけられるお燐…不憫だ。

ちゃんとこいしを叱るようにさとりにメッセージを送った方がいいだろうか。姉の言葉なら聞くはず…実際フランもレミリアの言葉ならそれなりに素直に聞くし、効果がないことはないだろう。

 

「今日は泊まるからね!」

 

そう宣言したこいしは、食べ終わった皿をシンクに置いて、ソファに寝転がってしまった。

俺たちが食べ終わる頃には、こいしはゴロゴロと服にしわが付くような感じで寝ていた。

 

「こいし、服が…」

「いいもーん」

 

まったく、フランよりも子供っぽいな。まあ、あっちは見た目は少女でも五百年近く生きてるからな。

こいしがゴロゴロしてるのを眺めていると、インターホンが鳴った。出てみると、そこには肩で息をするお燐が。

 

「おにーさん、ありがとう、本当に…」

「大丈夫か」

「ペット総動員しても見つからなかったから…」

 

本当にこいしのことを心配していたことがよくわかる反応だ。さとりに対して、こいしを探しに行って見つかりませんでしたとは報告できないだろうから、死に物狂いで探していたのだろう。

 

「地底と地上の間の穴でキスメと駄弁っていたらしいぞ」

「あそこかぁ……」

 

脱力して地面にへたりこむお燐。やはり不憫。

そんなお燐に気が付きこいしが出てきた。

 

「お燐ー」

「こいし様、探しましたよ。帰りますよ」

「ううん。今日はここに泊まるから」

「…」

 

こいしの言葉を聞いて目が点になるお燐。一日探してやっと見つけたこいしが、今日は帰らないとか言ったらそりゃ驚くだろう。

だが、お燐の驚きはそれだけではないようだ。

 

「こいし様、旧都の行事をさぼる気ですね!だめですよ、今日帰らないとこいし様、どうせ来ないじゃないですか」

「嫌だー!」

「旧都の行事?」

 

どうやら、こいしはその行事とやらに出たくなくて地上まで逃げてきたらしい。逃げたくなるほど面倒な行事なのだろうか。

 

「実は鬼が主催で旧都の方で地底祭が行われるんですよ。一応地底の主としてさとり様とこいし様にも出席するように言われていて…」

「あんな鬼だらけのとこ行きたくないー!どうせいっぱいお酒飲まされるだけなんだから、私がいなくてもいいよー!私は道端の小石になるだけだからー!」

「そんな場所にさとり様を一人で行かせないでくださいよ。私たちも同伴しますけど、やはりこいし様にも来てもらわないと」

 

なるほど、確かに鬼主催ともなれば酒をいっぱい飲むことになるだろう。

別にこいしは酒が大好きというわけでもないので、地底祭に出席する必要性が感じられないといったところか。正直、俺も同感だな。

 

「あ、そうだ、じゃあ定晴と一緒!それならいいよ」

「え、俺?」

「この際それでもいいので、ちゃんと来てくださいよ」

「はーい!」

「俺の意思は無視か」

 

なぜか突然白羽の矢が立った俺。しかもお燐も納得して帰ろうとしてるし。

 

「お燐、なんで俺が」

「こいし様に免じてお願いできないかな。そうでもないとこいし様、出席してくれなさそうだし」

「…」

「定晴、一緒に行こうね!」

 

どうにも俺には拒否権がないようだ。

 

「じゃあ明日なんで、お願いおにーさん」

「…はいはい」

 

まあ明日は特に何の予定もないので、仕方ない。俺は強引に地底行きが決まったのだった。

 


 

「逃げるために来たの?」

「ううん、元々定晴を誘う気だったよ」

「策士ねあなた。なら私たちは…ついていかない方がいいわよね」

「えっと、それでお願いできるかな。私も、たまには定晴と二人になりたい、かな」

「仕方ないわね。私とユズは家で待機するから、楽しんでらっしゃい」

「ありがとう!彼氏にして戻ってくるね!」

「それはだめよ!」




紫「定晴なら地底は自由よー」
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