東方十能力   作:nite

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三百四十六話 地底祭

「ユズを知らない人ばかりのところに連れて行くわけにはいかないし、私たちは家で待ってるわね」

「いってらっしゃい、です」

 

二人に見送られてこいしと共に地底に出発した。向かっている間、こいしはずっと上機嫌だ。

 

「上機嫌だな」

「面倒な祭りも定晴と一緒なら楽しみー」

「そうかい」

 

地底に行くのは久しぶりだから、俺としても楽しみではある。強制的に連れていかれること以外は問題ではないのだ。

博麗神社の方からこいしと共に地底に降りる。なんだかいつもよりも明るいか?

 

「お祭りだから、いつもよりも光源が多いんだよ」

「なるほど…」

 

よく見ると、臨時的に付けたような杭とランプが存在している。妖怪ならばもう少しやりようがあったと思うのだけど、適当としか思えないような作りしかない。

それにしても…

 

「地上から来るやつっているのか?」

「うーん、鬼とか?」

 

わざわざ道をいつもよりも明るくする必要性って何だろうか。

そもそも、地底と地上の行き来も、昔よりも自由とはいえ、依然として誰でも来れるような場所ではないのは確かだ。

地底の祭りとはいえ、新しく客が来るわけでもなく、元々地底の民だった妖怪たちが地底に戻ってくる程度なのだから、道を明るくする必要はないのである。というか、妖怪なら暗いところには強いので、猶更明るさは必要ない。

 

「何用の明かりなんだろうな」

「雰囲気だよ。きっと」

 

そんなことを駄弁りながらしばらく下降すると、一番下までたどり着いた。やはりここも、いつもよりも明るくなっており、地面がはっきりと見えるようになっている。

 

「会場は旧都の方だから移動しよ。お姉ちゃんももう行ってると思うよ」

「うーん、さとりが不憫だ」

 

こいしの誘導で旧都まで行く。さとりの周囲にどれだけ人がいるのかは分からないが、ペットたちが一緒でもないのであれば一人っきりで向かったことは想像に容易く…やはりこいしを昨日のうちに家に帰しておくべきだっただろうか。

こいしと共に旧都につくと、いつも酒飲みたちで賑わっている旧都だが、さらに今日は人が多い。

 

「こいし、はぐれるなよ」

「うん!」

 

こいしがどこかに行かないようにこいしと手を繋ぐ。俺に能力は効かないが、周囲の鬼がこいしに気付かずにこいしにぶつかってくる可能性もあるからな。

 

「さとりはどこらへんにいるんだ?」

「多分中央の方だと思う。お燐が言ってたもん」

「そういうところは覚えてるんだな…」

 

人混みをかき分けながら会場の中央らしき場所へと向かう。

祭りだからといつもよりも酒を飲んでいる人が多い。そのせいで、騒いでいる人も多くて、いつもそこまで治安はよくないものの、今日は極端に治安が悪い。

地底で祭りが行われるという話を聞いた時からなんとなく予想していたが、やはりただ騒ぎたくてやっているだけな気がする。

 

「あそこだよっ」

 

なんとか進み続けた先に、少しだけ他よりも高い、仮説ステージのようなところがあった。

そこに既に疲れ切った様子のさとりと、困った顔をした勇儀が立っていた。

 

「二人とも、久しぶり」

「ん?おお、定晴が来るってのは本当だったのか、久しぶりだな!」

「お、お久しぶり、です…はぁ…」

 

さとりの表情は真っ青であり、とても苦しそうだ。

 

「お姉ちゃん、大丈夫…?」

「来たのね、こいし…定晴さん、こいしを連れてきてくれてありがとうございます」

「それは構わないが…」

 

そういえば、さとりの能力は任意発動型のものではないことを思い出す。周囲に人がいたら、それだけで心の声を聴いてしまうのである。

つまり、こんな人の中にいたら…

 

「定晴さん、その通りです…疲れてしまうんですよ」

「一応ステージの上には他の奴らが登らないようにしてるから距離は取れてるんだけど…どうすりゃいいかねぇ」

 

どうやらさとりにはここにいてもらう必要があるらしい。理由は不明だが、まあ多分代表としていなければいけないとかそういう感じだろう。

 

「その通りです…」

 

おっと、さとりとのやり取りは考え事してると読めれるから気を付けないといけないんだったな。

うーん、俺の能力でさとりの能力を一時的に無効化できるだろうか。さとりの能力は持続的なものだから、能力の使用は一度で済む。作用を切れば元通りになるので、そこまで問題はない。

 

「どうだ?」

「ふふ、心の中で全部提案をしてしまうあたり、定晴さんは私とのやり取りが上手ですね」

「むー!お姉ちゃんと秘密のお話はだめー!」

 

俺とさとりが効率的な会話をしていると、こいしが割り込んできた。なんとも微笑ましい反応だ。

 

「定晴さん、お願いできますか?」

「分かった」

 

さとりの能力の原理は、サードアイと呼ばれるこの開いた目だ。つまり、この目をどうにかしてしまえばさとりの能力は封印されるはずだ。

対象…サードアイ、無効化発動。

 

「ひゃうっ!」

「どうしたの、お姉ちゃん!」

「大丈夫よ、ちょっとびっくりしただけだから」

 

む?サードアイへの干渉は持続的なものだから能力の発動は一回のはずなんだが…持続中に少し霊力を消費するんだな。これは新発見かもしれない。

俺だけの回復量であれば減り続けるものだが、ルーミアやユズの妖力を変換すれば消費をなしにすることができる。

 

『ルーミア、ユズ、ちょっと妖力をしばらく送ってくれ』

『了解』

『わかりました』

 

これで大丈夫はずだ。あとで二人にはスイーツでも作ってあげよう。

 

「大丈夫、お姉ちゃん?」

「ええ、落ち着いたわ。ありがとう定晴さん」

「さとりが落ち着けたならよかった」

 

さとりが落ち着けたので、改めて周囲を見渡す。

旧都を構成している妖怪たちの割合では、圧倒的に鬼が多いのだけど、それ以外の妖怪がいないわけではない。地底に逃げてきたという過去があるため、地上では見たことのない妖怪たちがやたらと多い。

なんなら、外の世界にも残っていない妖怪が多いので、俺でも知らない妖怪というのがちらほらいる。あとで妖怪大全でも確認しておくか。

 

「とはいえ、どの妖怪もただ騒ぎたいだけか」

「そうなんだよ。ま、鬼が主催の時点で分かり切っていたことだろう?」

「それはそうなんだが…」

 

騒がない妖怪はそもそもここに来ないので、このイベントは騒ぎたい妖怪たちによる祭りと化している。地底の宴会のようなものなので、秩序なんてほぼないようなものだ。

さとりが心の声に気持ち悪くなってしまうのも無理はない。酔っている妖怪たちの心の中なんて混沌で朦朧、ぐちゃぐちゃなものだろうからな。

 

「定晴さん、その同情する目はやめてください。空しくなります…」

「悪いな」

 

宴会だというのであれば、俺たちも酒を飲んでしまえば一緒に酔ってしまえるのだけど、今俺たちが酒に酔うとまともな判断ができる人がいなくなるということなので、酒に酔うわけにはいかない。

なんせ、あの勇儀があまり酒を飲んでいないのだ。この会場の混沌度合いが伝わるというものだろう。

 

「一応予定もあるんだけどなぁ…」

「何か催しがあるのか?」

「催しっていうか、さとりや私が代表として話さないといけないことがあるんだ。まあ先生の話みたいなものだから、誰も聞きたがらないのも無理はないけどね」

 

勇儀のぼやきは喧噪の中に消える。

ここにいる妖怪たちはただ騒ぎたいだけだ。校長の話みたいなのを聞きたいと思っているやつはほぼゼロだろう。

 

「一度だけでいいから静まらせたいんだけど、どうすればいいかな」

「ふむ…勇儀が声をかけてもダメなのか?代表みたいなもんだろ?」

「それで解決したら苦労しないよ。私が大きな音を出しても喧嘩っ早いやつらが来るだけさ」

 

そう言って親指を背後に向けた勇儀の後ろにあったのは、気絶した鬼の山。あれが、喧嘩っ早い鬼たちということか。

気性が荒いのも相まって、静まらせようとしてもむしろ騒がれるみたいだ。確実に静かにさせる方法がないのだろう。

 

「全方向に浄化をかけて黙らせるのは?」

「流石にかわいそうだろ。一応こいつらも悪気があってやってるわけじゃないんだし」

 

だめか。絶対に静かになると思うんだけどな。

大きな音を出しても何をしても意味のないのであれば、こいつらを静かにさせる方法なんてないんじゃないか?

俺と勇儀、そしてさとりが頭を悩ませていると、ふとこいしが俺の服を引っ張った。

 

「どうしたこいし」

「思いついたよ、皆を静かにさせる方法!」

 

目をキラキラさせてそう言うこいし。よほど作戦に自信があるのだろう。

 

「聞かせてくれ」

「えっとね…」

 

こいしから作戦を聞く。

うーむ、確かにそれなら静かになりそうだが…

 

「だから、定晴が手伝ってね」

「…わかった」

 

確かにこの演出ができるのは俺だけか。

俺とこいしは、この祭りを一旦仕切り治すために、行動を開始した。

 

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