東方十能力   作:nite

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三百四十七話 スポットライトをあなたに

こいしが能力を使って人混みの中をかき分けていく。こいしの身長は低いので、すぐに見えなくなってしまった。

その間に、俺はとある建物の下に移動する。俺は俺で、こいしのサポートをするために準備をする必要があるからだ。

幻空の中に入れている魔術の本を取り出して開く。この本はパチュリーから譲り受けた初心者向けの魔術本であり、パチュリーのような高等魔術師にとってはオモチャのようなものしか書いていないので貰ったのだ。だが、俺からすれば応用すれば戦闘にも使えると思っている。

ま、今日はオモチャ的な使い方しかしないけどな。

 

『ルーミア、ユズ、ちょっと今からめちゃめちゃ力使うから全力で頼む』

『ちょっと!地底で何があったのよ!』

『わ、わかりました。全力、ですね』

 

式神たちの妖力を全力で受けた状態で、魔術を完成させる。

 

「こいしーいいぞー」

 

魔術を最終確認をし、発動準備をしたところでこいしに合図をする。

この喧噪の中では呼びかけも消えていくが、こいしはちゃんと反応してくれる。俺の隣の建物の上にダンッとこいしが乗ったのを確認した瞬間に準備していた魔術を解放する。

 

「なんだなんだ」

「花火かー?」

 

周囲の妖怪たちがザワザワし始める。ご名答だ。

俺が使ったのは花火の魔術であり、ただ綺麗なだけの魔術だ。この花火には質量がないので、室内で使っても火事にならないという利点があるものの、それだけである。一応相手の目に向けて使えば目くらましくらいにはなる。

 

こいしが立っているところを中心にして広がるように花火を使ったので、人々の視線は花火の中心にいるこいしに自然と集まるようになっている。

既にこの時点で人々を静めるという目的は達成されている。しかし…

 

「おお!次は喧嘩かぁ!」

「「うおおお!」」

 

これだ。こいつらがいるのだ。

こいつらの思考回路は酒と喧嘩で出来ているのかというくらいに思考が単調だ。注目を集めることがあればなんでも喧嘩に繋げるのである。勇儀が苦い顔をするのも無理はない。

こういう奴らは鬼の大部分を占めているので、こいつらを黙らせるのは少し難しい。とはいえ、今日は時間がないので一人一人ぶっ飛ばすのも不可能だ。なので、全員まとめて戦意喪失させるのが良い。

 

『魔女、狂気、バックアップ』

『はいはい』

『はいよ』

『ねーねー私はー?』

『お前もなんかできるのか?』

『応援!』

 

…魔女と狂気のバックアップで大規模に術を展開する。一人で実行することは可能なんだが、こいしに鬼たちが殴り掛かる前に終わらせないといけないので、今日は思考を分散して一気に処理を終わらせる。

昔紫に使った輝剣の同時召喚を行う。それと同時に魔術を展開して輝剣に重ねることで疑似的にエンチャントを行う。更に浄化空間をこいしと鬼たちの間に展開することで鬼が近づいてきても問題ないようにする。

そして、この展開したものたちに威圧感を持たせる。

召喚したものたちを実際に使うと被害が大変なことになるので、これらを抑止力に使おうというのが作戦である。抑止力に関してはこいしの作戦ではなく俺の作戦だ。

俺の魔力と霊力と妖力を全部使って召喚した剣一つ一つをめちゃめちゃ巨大にしていく。一本で建物がつぶれるくらいに大きく、鬼なんかが殴ってもどうしようもないみたいに大きくしていく。

 

「う、おお!?」

 

実際にこいしに殴りかかろうと近づいた鬼たちは一気に巨大化した剣に後退りをする。そもそも大きくなっている影響で強制的に後退させられるのである。

霊力がほぼほぼ尽きてしまっているので気絶しそうなのだけど、最後の力を振り絞って、こいしに魔術を使う。これも、先ほどの本に書いてあった魔法で、何もないところからスポットライトを生み出す、ただそれだけの魔法。

 

「ちゅうもおおおおおおく!」

 

こいしの大声が旧都に響き渡る。既にほとんどの目がこいしの方に集まっていたのだが、剣の威圧感によって視線が剣に向いていた妖怪たちの視線すらもこいしに集める。

視線が集まった瞬間にこいしは建物を飛び降りて、その後ろからさとりと勇儀が出てくる。俺が魔術を行使する間に移動したのである。

それを確認して、俺はぶっ倒れた。剣には相当な霊力を使っているので、俺がいなくてもしばらくは存在し続ける。つまり、俺が気絶してしまっても大丈…

 


 

「んん…」

「ひゃぁ!」

 

頭の後ろに柔らかい感触を感じて目を覚ます。

霊力はまだまだ少ないが…一応動けるくらいには回復したか。回復量からして、俺が気絶してから一時間くらいは経過しているのかな。

ふと、起きた瞬間に変な声が聞こえたと思い出す。声がした方に目を向けてみると、地面に倒れこんでいるこいしの姿。

 

「何やっているんだ、こいし」

「違うよ!別に寝ている間にとかそういうんじゃないから!」

「??」

 

やけに慌てているこいしは置いておいて、周囲を確認する。

どうやら、俺は気絶したあとに地霊殿まで運ばれたらしい。この部屋には窓がないので外の様子は分からないが、あの後うまくいったのだろうか。

 

「こいし、大丈夫だったか?」

「へ?あ、うん、大丈夫だったよ!定晴、ありがとね」

「さとりたちもちゃんと話せたか?」

「うん。一応やらないといけないことはできたみたいだよ。私は途中でこっちに戻ってきたけどね」

 

よかった。勇儀とさとりがどれくらい話すのかは不明だったので、剣がそこまで存在を保つことができるのか不安だったのだけど、一応最後まで効力は発揮したようである。

一度話し始めてしまえばこっちのもんなので、勇儀がうまい具合に話したのだろう。

 

「こいしが運んでくれたのか?」

「私じゃ定晴を支えられないよ。運んでくれたのはお燐。ほら、あの手押し車で」

「あれって死体運ぶやつだろ…」

 

お燐は橙のようなただの化け猫ではなく、火車という種族だ。死体を持ち去ってしまう妖怪であり、その時に使うのが荷車であって…うーむ、お燐は今までもあの荷車で死体を運んだのだろうか。

 

「お燐は生きている人間には興味ないよ?」

「そういう問題じゃない…」

 

そこらへんの感性は多分妖怪には分からないだろう。

俺だって別に死体自体に忌避感があるわけではない。死体というのは仕事の中で何度も見てきたしな。だが、やはり死体と同じ荷車で運ばれたのだと思うとなんとも微妙で複雑な気分になってしまうというか…

 

「というか、こいしはなんで戻ってきたんだ?まだイベントは続いてるだろ?」

「え?だって私が出した条件は定晴と一緒にいることだもん。定晴がいないのであればお燐との約束を守る必要はない!」

 

不憫なお燐再び。

なんというか、地霊殿で最も酷使されているペットとしてお燐にしばらく休暇を与えた方がよいのではなかろうか。いつか家出される可能性がある。

流石に古明地姉妹とお燐の間には強い絆があるので家出は言いすぎだと思うが、家出でなくても体調を崩してしまう可能性はある。過労は危険だからな。

 

「お燐を労わってあげろよ」

「うん!あとで撫でまわすよ!」

 

それでいいのか?いや、猫だしいいのかな。

 

「よいしょっと」

「定晴、もう立って大丈夫?」

 

不安そうにこいしが俺の顔色を見るが、問題はない。

 

「戦闘しなければ大丈夫だ」

「そっか。ありがとね、定晴」

 

満面の笑みでそんなことを言われれば俺としても頑張った甲斐がある。霊力は歩ける程度、魔力はほぼ空、妖力はルーミアたちから送られてきている分があるのでまだ大丈夫かな。

 

『二人とも、ありがとう、気絶してた』

『でしょうね。まったく、心配させないでよ』

『お疲れさまでした』

 

式神が増えた影響で日々消費する霊力が増えたそれ以上にできることも増えた気がするな。

俺が部屋を出ようとすると、こいしが服を引っ張ってきた。

 

「定晴、えっと、その、もう少し休まない?」

「ん?イベントに戻らなくていいのか?」

「いいの!」

 

こいしに引っ張られるようにしてベッドに戻された俺は、こいしに促されるままにベッドに寝かされた。

 

「私も疲れたから、入るね」

「え、いや俺は別に」

「失礼しまーす」

 

半ば強引にベッドにもぐりこんできたこいし。

俺の胸元あたりに顔を埋めてモゾモゾしている。本当にこのまま寝る気か?

 

「ほら、おやすみなさい!」

「…おやすみ、こいし」

 


 

なんだか変な気持ちになるよー!

これが…発情…?私に理性が無かったら襲ってるかもしれない。

定晴の匂いとか体温とか直に感じちゃってフワフワする。定晴はやっぱり疲れてたのかすぐに眠っちゃったけど、私は眠れそうにないよ。

でも定晴が寝てるからこそできないことも…

 

「…定晴」

 

ちゃんと寝てることを確認してのち、定晴の顔に近づく。さっきは定晴が起きちゃってできなかったけど、今の私はいつもの私よりも大胆だ。ルーミアちゃんたちがどんどん先に行っちゃうから、私だって同じところまで行きたい。

すっごいドキドキして自制心が働こうとするけど、それ以上の欲望が私を支配する。

 

「…ちゅっ」

 

これも寝込みを襲うって言うのだろうか。でも、私がしても起きないし。

 

「大好き、定晴」

 

私は布団に潜って、定晴の隣で丸まった。

やっぱり全然眠れなかった。




天使こいし「今がチャンスです!」
悪魔こいし「やっちゃえ!」
こいし「どっちも止めてくれないよ…」
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