地上にご主人様と一緒に遊びに来たこいしは、顔を真っ赤にしながら私にご主人様の寝込みを襲った報告をしてきた。
襲ったと聞いて私は一瞬狼狽したものだけど、どうやらただキスをして好きだと伝えただけらしい。むしろ、ご主人様が起きている間にそれができないのだからまだまだだ。
私はちゃんとご主人様にキスをしたことがあると伝えたら、元々赤かった顔をもっと赤くして「頑張る…」と言っていた。妖怪としてこいしもそれなりに長いこと生きているはずだけど、こういうことはまだまだ初心ね。
「いらっしゃい定晴、今後についてのお話よ」
「はいよ」
そんなこいしが地底に帰り、今日は紫にご主人様が呼ばれた。そこに私とユズもついていく感じだ。
どうやら、未だに無効化の能力に関して修行が足りていないご主人様のために、紫が考えていることがあるらしい。魔界での修行ではないのかな。
「あなたたちにも関わることだからちゃんと聞いてね」
「勿論」
藍がお茶を持ってきて、紫の話が始まる。
「取り敢えず、異変の諸々の感謝をするわ。修行中だったにも関わらず出てきてくれて助かったわ」
「それは構わん。呼ばれたしな」
あの時のご主人様の修行は行き詰っていた。そういう意味では、ご主人様にとって良い気分転換にもなったかもしれない。実際、魔界にいたときよりも今の方が調子がいい気がする。
「それで、結局修行の成果はどうなの?無効化は使いこなせるようになった?」
「修行によって何が変わったかは分からないが…正直、何も変わっていないように思えるんだ」
ご主人様も私たちと同じように長い間修行した。しかし、私たちと違って目に見えるほどの成果を出すことができなかったのも事実だ。
ご主人様にとって焦りの原因になっているのだと思う。そもそも、無効化の力が幻想郷に影響を与えるからという理由で修行をしていたのに、無効化の力を上達させることができなかったのだ。
「つまり、まだ修行が足りないのね」
「ああ…ただ、魔界で同じように修行をしても成長できるか…」
「そう言うと思って!私、話をつけてきたのよ!」
突然テンションが上がる紫。
藍に命令をして、一枚の紙が運ばれてきた。そこには、色々な人の名前が書かれている。
「これは?」
「これは、幻想郷に住む強者たちのリストよ」
そこには、霊夢や紫の名前をはじめとして、風見幽香や八意永琳、摩多羅隠岐奈とった名前が並んでいる。どうやら、強者の中で種族は関係なく書かれているようだ。
「なんだ、強者巡りをしろって?」
「その通りよ。このリストに書かれている人と戦えば、きっと強くなれるわ。その中で能力の制御もうまくなるでしょ」
制御がうまくなるというか、うまくならざるを得ないという方が正しい気がする。弾幕ごっこならまだしも、殺し合いともなれば、ご主人様も本気を出さねばならないだろう。
そうなれば、きっとご主人様の能力もフルに使わされることになる。能力を成長させるにはうってつけではあるんだけど…少し心配ではある。
「そして、式神の二人なんだけど…」
「私たちにも何かあるの?」
「定晴のサポートはいくらでも頼むわ。それ以外に、あなたたちも強くなってもらおうと思って」
そう言った紫が藍に持ってこさせたのはもう一枚のリスト。
そこには、射命丸文や紅美鈴などの、ご主人様の相手ほどではないがそれでも強者と呼ばれる人々の名前が書かれていた。どうやら、ご主人様が戦っている間にも私たちが戦えるように、同じ場所にいる人をピックアップしているようだ。
「ルーミアは封印状態で、ユズと一緒にこのリストの皆と戦ってもらうわ」
「二対一ってわけ?」
「ええ。でも、してもらうのは殺し合いよ。貴女は封印状態じゃ厳しいんじゃないかしら」
確かに、殺し合いで封印状態は厳しいかもしれない。
ご主人様のおかげで、私が任意のタイミングで封印を解けるようになっているので、最近は殺し合いになりそうなときは封印状態を解いて戦っているのだ。封印状態での殺し合いは久しくしていない。
「一応私の方からこのリストの皆に一言声はかけてあるから。定晴と戦える…久々の殺し合いができると皆やる気よ」
今の幻想郷では、原則として殺し合いは禁じられている。博麗の巫女による、スペルカードルールの抑止があるからだ。
そのため、現在大妖怪と呼ばれている人々も、長い間殺し合いをしていない。人間との殺し合いなんて、それこそ何百年ぶりなんて妖怪もざらにいるだろう。
「既に戦いの準備をしている人もいるみたいだから、定晴は覚悟をしておきなさい。勿論、ルーミアたちもね」
どうやらしばらくは体を酷使することになりそうだ。ご主人様が頑張りすぎないように気を付けないと…
「別に勝つまでやれとか言うつもりはないからね。定晴が戦闘の中で何か見つけられるかなって思ってこのリストを作ってるから。頑張りすぎないこと!!」
私が懸念していたことを、先に紫がご主人様に伝えてくれた。ご主人様は当然だと言うばかりに頷いているけど、私たちはご主人様がこういうときに頑張りすぎちゃうことを知ってるんだから。
紫から目くばせで、もしものときはよろしくと伝えられた。私も目くばせで了承の意を返す。
「いつから始めてもいいけど、あまり待たせすぎると向こうが痺れを切らして乗り込んでくるわよ」
「了解だ」
ご主人様がやる気を出している。その表情キュンッてするからやめて。
私とユズも戦う相手がいることだし、作戦でも立てましょうかね。