三百四十九話 模擬戦開始
紫から課された戦闘強化キャンペーン。
俺は手元のリストを見ながら誰に会いに行くかを考える。
「ゲームみたいに、段々と相手が手ごわくなっていってほしいよな」
「でもこのリストの人たちは皆強敵よ?四の五の言ってられないんじゃない?」
紫から渡されたリストに書かれているのは、軒並み幻想郷の大妖怪たち。霊夢や早苗などの人間の名前もあるが、彼女らはその大妖怪たちと渡り歩いてきた者であり、強者であることには変わらない。
「ならやっぱり近場から行くか」
「近場…っていうと、博麗神社?」
リストの中でも、一番上に書かれている名前が博麗霊夢。俺の家から最も近い建物である博麗神社に住んでいる巫女であり、妖怪退治のプロフェッショナル。対人戦がどれほどかは知らないが、強者であるのは間違いないだろう。
「博麗神社は、そっちは誰が書いてあるんだ?」
「こっちは魔理沙ね。正直どっちもそこまで強さ変わらないと思うんだけど…」
どっちも主人公。その強さに違いはあれど、どちらも様々な異変を解決してきたプロ。
確かにルーミアの言う通り、霊夢と魔理沙の強さに違いはないと思う。とはいえ、ルーミアだけではなくユズも共に戦うことになっているので、魔理沙の機嫌を損ねることにはならないだろう。
「よし、行くか」
近場なので、ささっと準備を終わらせて家を出る。
数分もせずに博麗神社に到着すると、そこには霊夢と魔理沙。それに、萃香と針妙丸もいた。あうんは神社の階段で寝転がっている。暑くないのかね。
「来たわね定晴さん。今日ここに来ることは分かってたわ」
「勘か?」
「確信よ」
どうやら、俺たちは待ち構えられていたらしい。その証拠に、霊夢も魔理沙もやる気に満ちている。
異変解決の時もここまでやる気を出さない霊夢が、珍しく血気盛んな様子だ。どうしたのだろう。
「紫からね、あなたに買ったら高級肉をあげるって言われてるのよ。お肉は食べたいし、少しだけやる気も出ようってもんでしょ」
「なるほど、紫も考えたな」
霊夢がやる気を出すことはほぼない。巫女の仕事に関しては欠かさずにしているものの、それはやる気を伴っているのではなく、責任を果たすように行っているものだ。
霊夢をやる気にさせるのであれば金品で釣るしかない。お金でもいいけれど、幻想郷では滅多に手に入らないものを渡す方が霊夢のやる気も出るのだろう。そこを紫は考慮したわけだ。
「魔理沙もやる気か?」
「おう!私には魔導書くれるって言ったからな。あのスキマ妖怪の持ってる魔導書なんて、きっとパチュリーだって持ってないぜ」
どうやら、紫は霊夢以外にも同じような話を持ち掛けているらしい。もしかしたら、リストに載っている人々のすべてに同じような話をしているのかもしれない。
俺が負ければそれだけ紫の出費が増えることになるので…もしかしたら、紫は俺に大きな期待をしているのかもしれないな。
「萃香と針妙丸は観戦か?」
「うん。私は勇儀と一緒に後々戦うことになるけどねー」
勇儀と戦うのは俺なので、萃香と戦うのがルーミアたちということになる。勇儀は過去に俺が負けた相手なので、油断できないとして、萃香も中々に凄腕だ。今から楽しみに思う。
「さて、ガチな戦いをするならここを離れないとね。私たちはともかく、魔理沙が神社に傷を付けちゃうわ」
「そんな、私がガサツでも言いたいのか?」
「今までの所業を振り返りなさい!」
魔理沙の弾幕は濃いうえに、火力も高いので、よく流れ弾で神社が被弾するのだ。そのたびに霊夢は修復をしたり、そのまま放置したりしているのだけど、やはり何度も魔理沙によって神社が破壊されるのを黙ってみるのは耐えられないらしい。
「いいとこを知ってるのか?」
「裏山にしましょ。あそこはあまり妖怪も住んでないし。一応三妖精はいるけど、気にしないわ」
「気にしろよ」
どうやらサニー・ミルクを始めとした三妖精が裏山の木に住んでいるらしいけど、霊夢はそこも巻き込むつもりらしい。
流石にかわいそうだから、少しだけ離れた森の上空ということにして、俺たちとルーミアたちで離れて飛んでいく。
「霊夢は対人戦とかするのか?」
「弾幕ごっこならするけど…でも、一応悪いことをした人間を懲らしめることもたまにあるから、そういうときのために人間用の道具もあるわ」
「うーむ、怖いな」
妖怪退治を生業をしている人の人間用の道具ってなんだろう。やはり武器か?アミュレット以外にも武器を隠し持っているのだろうか。
今の霊夢は特に武装を仕込んでいるようには見えないけれど、さて、どうなるか…
「ここらへんでいいでしょ」
「まあ…ここならいいか」
博麗神社の近くの森の上空。俺の家と博麗神社と人里のちょうど中間くらいの場所。
「俺も、本気でいいんだな」
「ええ。殺し合いをお願いされてるからね。私としては殺し合いなんてあまりしたくないんだけど、まあありえない状況じゃないから。それの練習だと思うわ」
弾幕ごっこが通用しない相手だって存在する。そういう相手と戦うときのために殺し合いの練習をしようというわけだ。
「よしやろう。準備はいいか?」
「ええ、いつでも」
霊夢から霊力が迸る。お肉がかかっているとなると、霊夢はここまでやる気になるのか。
「行くわよ!」
「さあ来い!」
「私の相手が二人だって言っても、不足はないぜ!魔導書は私のもんだ!」
「全く…ユズ、油断しちゃだめよ」
「は、はい!」
魔理沙は意気揚々と飛んでいて、余裕綽々な様子だ。過去に弾幕ごっこで私に勝ったからと油断しているのだろう。
今の私は封印状態で、そこまで強い攻撃はできないけれど、ユズも一緒にいるのなら心強い。魔界での修練によって、ユズだってしっかりと戦えるようになっているのだ。
これはあくまで模擬戦闘なので、勝ち負けで何かあるというわけではないけれど、やはりここまで余裕そうにしている魔理沙に土を付かせたいというのは思う。ご主人様も戦う手前、無様な姿は見せたくないしね。
「合図はそっちのタイミングで大丈夫だぜ?」
「そう?じゃあ早速…」
私が闇を展開して魔理沙の視界を奪い、その隙にユズに攻撃を…
その瞬間、前方からとても強い魔力を感じた。
「マスタアアアスパアアアアク!」