東方十能力   作:nite

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三百五十七話 花鳥風月弾幕嘯風弄月

幽香と森の上で対峙する。こうしてしっかりと幽香と対峙するのは、本当に久しぶりだ。

 

「さてとスペルカードは…っと、要らないんだったわね」

「ああそうだ。殺し合いだからな」

 

普通の弾幕勝負ではスペルカードを何枚使うかを決めて、その枚数内で戦いを行う。スペルカードのそのどれもが美しい見た目をしている弾幕であり、当たれば痛いが死ぬことはない。

そんな幻想郷のルールを破って、俺たちは殺し合いをしているのである。多分、人里の人間とかに見られたら顔色を悪くして逃げ出すことだろう。

 

「……前に、私が正気じゃないときは戦いたくないって言ったでしょ」

「ああ言ってたな」

 

不動が起こした異変のときだ。あの時、幽香は人間への憎悪を膨らませながら俺たちを遠ざけるように話しかけてきた。

あの異変も既に懐かしいものとなっているが…あの時の幽香が見せた苦痛の表情は忘れられないものでもある。

 

「それがどうしたんだ?」

「なんでもないわ。ただ、嬉しいだけよ」

 

幽香は日傘をこちらに向けた。戦いの合図だ。

 

「じゃあ早速…死になさい!」

 

チャージタイム、僅か数秒。魔理沙のマスタースパークの更に一回り太いレーザービームが日傘の先から飛び出してきた。

だが、その攻撃は俺も予想ができていたことだ。結界を斜めに展開することでレーザーの方向を逸らしつつ、風で回避。そのままの流れで輝剣を持って幽香に近づく。

 

「あら、ちょっと急いてるんじゃない?」

 

俺が輝剣で斬りかかると、幽香は日傘で完全にガードをしてきた。

ちょっと待て、なぜ日傘で受け止めれる。幽香の日傘は見た感じ普通の材質みたいだし、別に特別製というわけでもなさそうなのに、俺の剣は傘の部分で完全に止められた。傷をつけることをできたような感覚すらない。

 

「なんだその傘!」

「幻想郷じゃ普通のことよ」

「常識とかいう話でもないと思うんだがな!」

 

早苗などは、幻想郷では常識に囚われてはいけないと何度も言っているのだけど…どう考えても、物理現象的におかしいと思うのだが。弾幕を使わずに、ただの物理だというのにこれである。

俺は素早く幽香から離れて、火の魔術を使う。幽香はそれを日傘で防いで…そして、日傘には無傷。

 

「その日傘、特別製だろ」

「いいえ?外の世界で買ったやつよ」

 

外の世界の傘ということは、河童の技術とかそういうわけじゃなさそうだ。

幽香はどうやらたまに幻想郷の外に出て花を観賞することもあるらしい。それに、俺たちが最初に会ったときのように幽香が外で滞在することもあるようなので、意外と外の世界にも詳しい幽香である。

 

「ほら、考え事はあなたの悪い癖よ」

 

気が付くと、幽香を中心として弾幕が展開されていた。幻想的で、とても美しい弾幕であると同時に、その一発一発は当たっただけで四肢が吹き飛ぶような威力をしていることが見て取れる。

弾幕ごっこならば避けていればいいだけなので、四肢が吹き飛んでもそこまでのデメリットはないが、殺し合いであれば選択肢が狭まることを意味しており、被弾するだけでこの戦いの敗北を意味する。

 

「それに…」

 

幽香が日傘をこちらを向ける。それと同時に、先ほどの極太レーザーが俺を襲う。

近づけばあの弾幕の餌食となってしまうだろうし、遠くにいてもひたすらレーザーを撃たれるだけだ。こういう二者択一の状況に追い込み、勝ちを得ようとする動きは、歴戦の猛者といったところか。

ただ大妖怪であるというわけではなく、殺し合いの相手としても適切だからこそリストアップされたのだろう。外の世界では、ここまでの力量を持つ妖怪というのはほとんどいないからな。

 

「さて、どうする?」

「さあてね」

 

俺は輝剣を握り直し、幻空から家宝の剣を取り出す。久しぶりの二刀流スタイルだ。

 

「あら、定晴ってそういうこともできるの?」

「幽香は初見か?ならちょうどいいな」

 

幻想郷じゃ弾幕ごっこが主流なせいか、二刀流で戦うことも少なくなっていた。妖夢への剣術指南のときくらいしか俺はこのスタイルにならない。

こういった奇抜な戦い方というのは、初めて見るからこそ刺さるものがあるのだ。殺し合いという場で、対応力が物を言うことになる。

 

「行くぞ!」

「来なさい!」

 

幽香が傘を構える。俺が何かしても、その傘であれば防ぐことができるという自信だろう。俺の魔術も輝剣も防いだその日傘であれば、確かにほとんどの攻撃は防ぎきることができると俺も思う。

いや、まじで何でできてんだその傘。

俺は二振りの剣を構えて、幽香に突撃……しない。

 

「なんてな」

 

幽香の下に魔方陣を展開、そしてそこから火の魔術。

更に幽香の頭上にも魔方陣を展開して、そこからは雷の魔術。挟み撃ちをするように魔方陣を展開して、立体的な戦いを可能にする。

 

「そういう搦手は好きじゃないわ」

 

幽香は魔方陣を一瞥し、それぞれにレーザーを発射。魔方陣は粉々に砕けて、魔術は失敗に終わる。

 

「前戦ったときはもっと真っすぐだったじゃない。魔術なんて使わず、剣でかかってきなさいよ」

 

俺と幽香が出会ったころは、まだ外の世界にいた影響で魔術は不得手であった。そのため、結界と剣技だけでほとんどの妖怪とも戦っていたのだ。

確かに、それを考えれば俺の魔術は搦手としか言えないかもしれない。

 

「まあなんだ、少しはその搦手に付き合ってくれ」

 

俺は二振りで弾幕を斬りながら、幽香の周囲に魔方陣を配置する。

それらはすぐに幽香によって粉々になりながら、その場に魔力の残滓だけを残して消えていく。どうやら、この魔術は幽香にあたることはなさそうだ。

幽香のレーザーは魔方陣を破壊することに傾倒しているので、遠くで浮遊していてもレーザーに撃たれることはなく、先ほどの二者択一の状況は脱している。

 

「もっと、あなたらしい戦いを!」

 

幽香は少しイライラしているのか、いつもよりも興奮している様子だ。なんだか申し訳ないけれど、こういった戦いでは冷静でいられなくなったほうが不利である。

 

「残念だが、俺はこういう戦いのほうが好きなんだ」

 

戦い始めて数十分といったとき、ほぼ全方位の魔方陣が破壊された影響で俺の魔力はすっからかんだ。

 

「なによ、まったく」

「俺もロマンは欲しいってことさ」

 

幽香が破壊した魔方陣。それらが展開されていた場所には魔力の残滓がある。魔力の塊でなくていい。少しだけでいい。

ただ、在るだけでいい。

 

「大妖怪相手だとすぐに効かないからな!」

 

俺の魔力は、俺の力と反応する。

俺は浄化を魔力の残滓に向けて放つ。すると、その周囲にある魔力が反応し、さらにその力を伝達させる。

準備に時間がかかるうえに、魔力量がないとできない技だが…幻想郷に来て魔力が増えたおかげだな。あと、魔術について教えてくれたパチュリーにも感謝である。

 

「特に技名は決めてないが…全方位浄化、なんて」

 

幽香の周囲に浄化の力が立ち込める。

幽香の傘は、一体どういう仕組みか分からないがなんでも防ぐ。ならば、傘でカバーできない範囲で攻撃すれば、それはすぐに解決だ。

 

「浄化!」

 


 

初勝利を、式神の二人は分かち合っていた。

課題となっていたメディスンの毒だが、予想通り様々な種類の毒を用意していたらしい。そんな毒たちに対して、ルーミアはなんと即席の防毒マスクを闇で作り出したという。

封印状態だとそこまでのことはできないと思っていたのだけど…

 

「あんなのに負けるなんて~」

 

ボロボロになったメディスンが少し涙目になりながら座り込んでいる。どうやら、見た目は相当に不格好だったらしい。

とはいえ、防毒マスクの効果は凄まじく、ルーミアたちは辛くも勝利することができたらしい。これで二人にも自信がつけばいいな。

 

「私はもっとバチバチに定晴と殺りあいたかったのに……」

 

幽香は幽香で、俺の戦い方が不満だったようで、戦い終わってからずっと文句を言っている。

 

「殺し合いだからなんでもありだろ」

「変わっちゃったのね、定晴…」

 

俺は別に何も変わっていないが…まあ、幽香が俺の一面性しか見ていなかったと思えばいいだろう。

 

「またいつか戦いなさい。その時は制限もつけさせてもらうから」

「幽香相手に縛りか…」

「覚悟しておきなさい!」

 

どうやら、今回の企画とはまた別の機会に幽香と戦うことになりそうだ。

ふむ、あの傘の対策をもっと考えておかないとな。

 

「それにしても、なんなんだよあの傘」

「私の日傘コレクションのうちの一つよ。もっといい傘もあるから、また見せてあげるわ」

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