東方十能力   作:nite

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十章 穏やかな日常
三百六十四話 まだ夏


なんだか濃い数日を送ったが、実のところ期間としては二週間程度でしかない。つまり、まだまだ夏である。

連戦という緊張感がなくなった今、俺たちは…

 

「うぇー…」

「あうー…」

「…はぁ」

 

リビングで倒れていた。冷房を付けているので涼しいが、それだけで元気は湧いてこない。

特に式神の二人の疲労が甚だしい。ほとんどの勝負で負けてしまったのもあってか、やる気が全くでないようだ。

 

「ああ、もう昼か。何食べる?」

「なんでもいいわー」

「…同じくです」

 

俺は立ち上がるが、二人は動く気配がない。いつもは真面目なユズですらこの様なので、多分しばらくは働かないだろう。

とはいえ、俺もやる気があるわけではないので、適当に素麺を茹でる。麺つゆを作って、終わり。

 

「ほら、素麺作ったから、ちゃんと食べろ」

「はーい」

「いただきます…」

 

やっと体を起こして、椅子まで移動して素麺を食べ始めた。冷たい素麺が体の疲れを和らげてくれ…ることはないけれど、まだいいだろう。

 

「二人とも、そんなにショックだったのか?」

「まあ、そうね」

「そこまで戦えないとは思っていましたけど…」

 

ユズは元々そこまで自分に自信がなかったので、勝てるとは思っていなかったようだ。そのため、負けたのもまあ致し方ないと割り切っている。

引きずっているのはルーミア。

 

「私、これでも霊夢をボロボロにしたこともあるのよ?なのに、あそこまで負けるなんて…」

「封印状態だと全然出力が違うからな…」

 

霊夢をボロボロにしたのは、封印が何もなくなった状態のルーミアだ。今のルーミアとはできることが全然違う。

紫との約束により、ルーミアは今回すべての試合を封印状態で行った。つまり、ほとんど普通の妖怪と変わらない。

 

「特に悔しいのが咲夜よ!何よあれ!ズルじゃない!」

 

色々な相手をしてきたけれど、最も試合時間が短かったのは対咲夜戦らしい。時間を止められて、滅多刺しにされて、終わったとのこと。

きっと咲夜は時間が止まっている間にナイフを用意して投げて、それなりに頑張ったと思うけれど…客観的に時間停止を観測できない俺たちは、一瞬で勝負がついたように思えるのだ。

 

「大妖怪より人間にすぐ負かされたのが悔しいのよ!」

「あはは…」

 

ユズが苦笑い。ルーミアがここまで怒るのも珍しい。

咲夜の能力は、大妖怪にもできないような芸当だ。今のところ、あれができるのはミキしか知らない。そんなミキも神なので、やはり、普通の人間が持つにしては強力な能力である。

 

「ご主人様ならどうするの?」

「そうだなぁ…」

 

ミキと戦うときもそうだけど、基本的に時間停止に対抗する方法はない。無効化は発動されたものにしか使えないので、時間停止を無効化することはできない。

そんな中どうするかと言うと…常に存在する【能力】という概念自体を無効化するほかない。能力というその人物の本質を一瞬でも無効化すれば、能力が上手に使えなくなるのだ。酔い、みたいなのが発生するので、その隙に攻撃することになるだろう。

 

「じゃあご主人様も、対抗策はないってこと?」

「まあそうなるなぁ…」

 

そもそも時間操作を認知できないならば、対抗策なんて意味がない。俺たちが認識する前に止まった時の中で死ぬだけである。

【止まった時間の中で動くこと】を無効化すれば実質的に対抗できるかね。でもその場合こちらが動けなくなるので結局刺されるわけだが…

 

「もし戦うときがあれば、臨機応変だな」

「行き当たりばったりじゃない」

 

俺の戦闘はどれも行き当たりばったりである。正直今更だ。

 

素麺を食べ終わると、ルーミアはまた床に倒れた。スカートなんだから、あまり無防備に転がらないで欲しい。正直どうとも思わないけれど、それはそれとして困る。

 

「はい、片づけ終わりです」

「ありがとなユズ」

 

ユズは素麺を食べたことで元気になったのか、食事の片づけを手伝ってくれた。俺も一度動けばやる気が出てきたので、やはり最初に動くというのは大切なのだと再認識する。

ルーミアがやる気を出すにはどうすればいいのだろう。妖怪って基本的に時間の流れがゆっくりなので、放置していると結構長い間こうなるのだ。

 

「ユズ、どうすればいいと思う?」

「うーん…でも、しばらく怠惰でもいいんじゃないですか?」

 

ルーミアは変な声を出しながら床に転がっている。とてつもなく暇そうであり、退屈そうである。

妖怪というのは精神生命体である。もし、生きていることを精神的に辛いて感じてしまうと、それだけで自己崩壊をしてしまう可能性だってある。

ルーミアは別に死にたいと思っているわけではないけれど、気だるげな今の状態が続くのは、妖怪の精神衛生上よろしくない。

 

「ちょっと妖怪的に危なくないか?」

「でしたら…定晴さんがルーミアさんを…」

 

ユズから作戦を聞く。

ルーミアの好意を利用するのでまっこと申し訳ないのだけど…まあ、ルーミアがやる気になるならいいか。

 

「ルーミア」

「んー?」

 

俺は転がっているルーミアの横に屈む。そして優しくルーミアを撫でた。

 

「ふぇあ!?」

「ルーミア、頑張れー」

 

優しく撫でながら、優しく声をかける。ユズからは言葉は何でもいいと言われた。本当にこれでいいのだろうか。

 

「あっ…あっ…うわあああ!」

 

ルーミアが跳ね起きた。その顔はトマトのように真っ赤になっており、耳まで全部真っ赤である。

そんで、殴られた。

 

「ご主人様とユズのばか!」

 

ルーミアは走って自室に入っていった。部屋からどたんばたん音が聞こえる。

封印状態、少女姿のルーミアとはいえ、妖怪のビンタだったのでとても痛い。再生で傷を癒していると、ユズが近づいてきた。

 

「大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫」

 

一応本気ではなかったようで、痣とかにはならなさそうだ。ルーミアが本気でビンタした場合、身体強化していない俺の体は吹き飛ばされるはずだから。

屈強な人間の男性くらいの腕力に抑えてくれたようである。痛い。

 

「えっと、ちょっと様子見てきますか…?」

「やめといたほうがいい。ユズも吹き飛ばされたくなければな」

 

自室まで走るくらいの元気は出たみたいなので良しとしよう。それに比べれば、俺の体の痛みくらい…我慢してみせよう。

因みに、夕食の時間でもまだ顔は赤かったし口は聞いてくれなかった。ルーミアが元気になったのはいいことだけど、機嫌を直してくれたのは二日後のことだった。




自室のルーミア「こんなんで嬉しくなる自分がきらーい!!」
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