東方十能力   作:nite

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三百六十五話 チルノを削ると何ができるのか

今日は人里で買い物。一応俺の家には霊力で動く冷蔵庫があるものの、やはり夏ということもあってか傷みやすいので、こうして何度も人里に足を運ぶ必要があるのだ。

場所はあるのだし、家の裏に家庭菜園でも作った方がいいだろうか。

 

「生もの…どうしようか…」

 

特に傷みやすいのは肉などの生もの。買うときに氷をつけてくれるものの、やはり食べなきゃいけない期間が短すぎる。消費期限というわけではないけど、しばらくすると十分以上に加熱しないと食べれなくなるのだ。

どうにか食料を冷やしたまま家に持ち帰りたいのだけど…俺の魔術、氷はそこまで上手じゃないからなぁ…買うタイミングというのが難しい。

 

「おお、定晴じゃないか」

「ん?慧音か」

 

俺と同じく買い物中であろう慧音を発見。袋の端から、きゅうりや大根が見えている。

 

「寺子屋は休みか?」

「この時期は夏休みだ。昔はこの時期も勉学していたんだが…いつの間にやら外の世界から夏休みなるものが持ち込まれてたよ」

 

日本に夏休みという文化ができたのは明治時代からとされている。欧米が元々行っていた取り組みを、日本でもやろうとしたのが最初らしい。

寺子屋というのは江戸時代のものなので、確かに夏休みという文化はない。そもそも毎日農作業をしている子供たちが仕事終わりに通うのが寺子屋だったので、夏だろうが冬だろうが休みという概念はないのである。

 

「子供の世話をしなくていいのは楽なんじゃないのか?」

「寺子屋がなくても歴史の編纂があるからな。仕事がなくなるわけじゃない」

 

慧音は寺子屋の仕事とは別に、幻想郷の歴史編纂の仕事をしている。どちらが本業なのかは分からないけど…多分見返りがあるのは寺子屋の方だと思う。

歴史編纂がどんな作業なのかは俺もいまいちよく理解していないのだけど、結構疲れるらしい。白澤という妖怪である点を入れても、作業自体は大変になるのだろう。

 

「それにしても、悩んだ顔をしてどうしたんだ?」

「バレてたか…いやな、暑いせいで食材が傷みやすいだろ?なんか対策ないかなって」

 

外の世界でも、買い物したあと家までの間で食材が傷むことがある。移動中の暑さ対策は、外の世界でも課題となっているのである。

外の世界の科学力がない幻想郷で、いかに不可思議な方法で解決できるのか…

 

「それは私たちもそう思う。諦めてくれ」

「えぇ…」

 

対策できませんでした。

魔術などを使って対策することもできるのだけど、河童とかがそういう機械を作ってないかと思ったのだけど…

 

「河童は確かにそういう機械を作った」

「それはだめなのか?」

「一帯を冬と同じ状況にすればいい、なんてコンセプトで作られたものがいいはずがないだろ」

 

なぜ冷やすのをバッグの中だけに留めることができなかったのか。

ついでに、この冬を作り出すためにとてつもない熱波を後で放出するらしいので、なおさらだめだった。多分今頃倉庫の中に眠っているか、解体されていることだろう。

 

「もし魔術を使うのが嫌なのであれば…魔術を使わなくても冷えてしまえばいい」

「どういうことだ?」

 

慧音が無言で指をさした。そこにはアイスを食べているチルノの姿が。大妖精とリグルと一緒に歩いている。

 

「チルノならば、近くにいるだけで冷蔵庫のようになるぞ」

「ふむ…」

 

確か、チルノは年中冷気を放出している。チルノ自体が大きな氷みたいなものだ。

例え夏の間でも、チルノに荷物を運んでもらえば暑さという外的要因をシャットアウトすることができるだろう。

 

「アイスを追加で渡してあげれば仕事の一つくらいやってくれるだろう」

 

チルノは妖精の中でも力があるほうだけど、それでも妖精であり子供だ。お菓子とかアイスとか、もしくはお小遣いでも渡せば仕事はしてくれる。

今日の買い物に付き合ってもらえるのなら…楽だな。

 

「ちょっと試しにやってみる」

 

慧音に別れを告げてチルノに近づく。チルノよりも早く大妖精が俺に気が付き、チルノの肩をたたく。

チルノはこっちを向くと、音が出る勢いで顔を逸らされた。

 

「おっと、もしかして邪魔したか」

「いえいえ、気にしないでください。ほら、チルノちゃん、ちゃんと顔見て話さなきゃ」

 

大妖精の声かけでこっちを向くチルノ。しかし、視線は俺ではなくアイスを見ている。

 

「もうチルノちゃんったら…ともかく、どうしたんですか?」

「いやな、チルノを少し借りようと思ってな」

「ふえあっ!?」

 

まるで電流が走ったかのように大きくびくっとするチルノ。その衝撃でアイスは地面に落ちてしまった。落ちたアイスを見て正気になったのか、チルノの視線はこちらを向いた。

 

「ああ、えっと、えぇと…び、びっくりするじゃない!あたしを借りようなんて十年早いわ!」

 

顔を真っ赤にして怒るチルノ。まさか声をかけただけでアイスを落とすとは思わなかったけど、落とす原因を作ったのは俺っぽいので謝るしかない。

 

「悪い悪い。バイト代としてアイスをもっとあげるから」

「えぅ…えっと…」

「ちょっと待ってくださいね定晴さん。チルノちゃん、こっち。リグルちゃんは定晴さんと話しといて!」

 

チルノを引っ張っていく大妖精。そして取り残された俺とリグル。

思えばリグルと話したことなんて数えるほどしかないな。

 

「最近のチルノはあんな感じなのか?」

「あはは、あなたの前だけですよ」

 


 

「チルノちゃん、前に定晴さんの家に行ったときは大丈夫だったじゃん」

「あれは前もって準備したからだもん!急に話しかけられても…何話せばいいかわかんない!」

「もうっ、そんなんじゃいつまでも子供のままだよ」

「うぅ…でも、なんて言えばいいのか…」

 

恋するチルノちゃんになってから、定晴さんの前でだけ情緒不安定になっちゃったチルノちゃん。見てる分にはかわいいのだけど、もう少し踏み込まないといつまでも子供扱いだ。

今回のは予想していなかったけど、いいチャンスだ。定晴さんから求められているなら、今のチルノちゃんには断る選択肢はない。見た感じ、チルノちゃんも断るつもりは全くなく、なんと言って承諾すればいいのか悩んでいるみたいだし…

 

「定晴さんから頼まれてるんだから、ちゃんとチルノちゃんが返事すること、いいね!」

「待って大ちゃん!まだ心の準備が…」

「いつも準備してからじゃだめなんだから!」

 

チルノちゃんを連れて定晴さんの元に戻る。定晴さんとリグルちゃんは苦笑いをしていたけど、何を話していたんだろう。

 


 

「お待たせしました」

 

リグルから、チルノのやらかし列伝を聞いていたところ大妖精とチルノが戻ってきた。

 

「アイスをくれるってことでいいんですか?」

「え、ああ。落とした分と、追加の分を」

「だって。どう、チルノちゃん?」

 

顔を俯かせているチルノは、しばらくごにょごにょ呟いたあと、こちらを見た。

 

「あたしが仕事をしてやろうじゃないの!感謝しなさいよ!」

 

顔を真っ赤にしながらそう宣言するチルノ。まだ怒りが収まっていないのだろうか。

その隣では大妖精がため息をついているのだけど、二人だけで一体何を話していたのだろうか。

 

「そういえば仕事内容を聞いてませんでしたね」

「見ての通り買い物中なんだけど、それに付き添ってほしくて。ほら、暑いからさ」

 

実際、この距離でもチルノからの冷気を感じることができる。例えるなら…街を歩いているときに、開いた店の扉から冷気が感じるような。

それに、食材云々を抜きしても暑いのでチルノがいてくれると過ごしやすい。

 

「なら確かにチルノちゃんが最適ですね。じゃあアイスを買ってもらいましょう」

 

チルノとは思えないくらい小さい歩きでこちらに来たチルノ。いつもなら大股であるくらいなのに。

 

「もしかしてアイスよりも普通のお小遣いの方がよかったか?」

「そんなことない!」

 

俺の質問に、食い気味に返答するチルノ。報酬に不満があったわけではないようだ。

そのチルノの様子を見て、大妖精は踵を返す。

 

「私たちは行くからね、チルノちゃん仕事頑張ってー」

「え、大ちゃん!」

「またねー」

 

めちゃめちゃ白々しく歩いていく大妖精。その大妖精の様子を見て苦笑いをするリグル。

もしかしてチルノと大妖精はさっきの時間で喧嘩でもしたのだろうか。そう思ってしまうくらい大妖精が冷たい。

 

「ふむ、二人にも買ってやろうと思ったんだがな。まあいいか。チルノ、行くぞ」

「う、うん」

 

近くの店で二段のアイスクリームを買う。二つ買おうとしたら、これでいいとチルノに言われた。

アイスを食べているチルノを連れて買い物をする。常に冷気を感じることができてとても快適である。

 

「チルノは暑いとか感じるのか?」

「えっと、うん。だからあたしはアイスを食べるの」

 

自身が氷だからもしかしたら夏の暑さも平気なのではと思ったけど、別にそういうことはないらしい。ただ、別に暑いからと言ってチルノが溶けるとかそういうことはないらしい。

 

「チルノの背中の羽って氷なんだよな?」

「…氷だけど、あたしの一部だよ。取れないし、痛覚もあるもん」

 

チルノの羽は部分によってはチルノとは繋がっておらず浮いている。しかし、その羽が崩れることはなく、常に一定の距離で浮いている。見えない神経でも通っているのだろうか。

俺がちょくちょく話を振っていたおかげか、チルノがアイスを食べ終わるくらいにはチルノはいつもの調子に戻っていた。

 

「あたしのおすすめはこっちの店よ。あたしにお菓子をくれるの」

「じゃあそっちに行こうか」

 

チルノの案内で、いつもと違うルートを通る。たまに人里にある抜け道なんかも教えてくれて、俺が知らない人里の一面をチルノはいっぱい知っていることを実感する。

一通り買い物を終えたところで、人里の出口に戻ってきた。

 

「チルノ、ありがとな。助かったよ」

「…ちょっと待って」

 

俺が帰ろうとしたら、チルノに呼び止められた。俺が振り返ると、チルノがこっちに近寄ってきた。

 

「ちゃんと冷蔵庫に入れるまであたしがいてあげるから」

「いいのか?」

「暑いでしょ」

 

まるで絞り出すかのような声でそう言うチルノ。随分と無理しているように見えるけど、俺が頼んだことではなくチルノが自分から言うことなので、拒絶する理由もない。

 

「じゃあ行こうか」

 

こうしてチルノと一緒に帰った。やっぱりチルノと一緒にいると快適さが違うな。

また頼もうかね。




ルーミア「それで、家までついてきたのね」
チルノ「悪い?」
ル「いえ?随分と乙女の顔をしていると思って」
チ「うるさいっ!」
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