東方十能力   作:nite

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三百六十六話 本質を見る力

今日は妖怪の山まで来ている。ルーミアは不在で、珍しくユズだけが一緒である。

しばらくの間放置していたが、ユズの種族問題を解決しに来たのだ。正確にはヒントを探しに来た。

 

「奇跡ってのを見てみよう」

「はい…」

 

ユズだけを守矢神社に連れて行ったことはない。神様二柱と早苗ならば、何かしら超常的な力でユズの種族が何かしら分かるかもしれない。

妖怪というのは精神生命体であり、自分自身が何者であるのかをはっきりさせることでその能力を十全に使うことができるようになる。ユズはまだ妖怪という種のスペックを用いたことしかできていないので、ユズの種族の本来の力を使えるようになれば劇的に変化するはずだ。

 

「定晴さん、あまり私のことで時間を割くのも…」

「ユズは気にならないのか?自分自身が」

「ですが…」

 

今日俺が妖怪の山に行くと伝えると、ユズはあまり乗り気ではなかった。ユズからすると、自分の種族というのはそれなりにどうでもいいことらしい。

だが、種族も分からないまま生き続けるというのは自覚できずとも辛いものだ。それに、ユズの世話をちゃんとするように紫からも言われているので、きちんとこういう部分はしっかりと決着をつけたい。

 

「早苗ー来たぞー」

 

守矢神社に到着したので早苗を呼ぶ。前もって来ることは伝えておいたので、すぐに出てくると思うが…

 

「おお、来ましたね定晴さん」

「文?」

 

なぜか守矢神社から出てきたのは文だった。いつもの恰好で、カメラを構えている。

 

「取材か?」

「そうですねぇ、ユズさんが色々すると聞いたので、折角なので取材をと」

 

どうやら、どこからかユズの種族を調べることを知って、こうして守矢神社に取材しに来たらしい。ユズの記事が読まれるとは思わないけれど…

俺はユズをちらりと見る。ちょっとだけ顔色が悪そうだ。取材というワードを聞いてから、少し文を怖がっているみたいだし、ユズには無理そうだな。

 

「ユズは取材が苦手だからお引き取りしてくれ」

「ああいえ、取材とはいえインタビューとかではなくただ写真を撮るだけですので…ユズさんには負担をかけませんので何卒よろしくお願いします」

 

文はそう言うとカメラを構える。どうやら、今日は写真だけですよということをアピールするためにカメラを構えていたらしい。

ユズを見ると、少しだけ安堵した表情になった。写真ならまだいいのだろう。ユズは知らない人に接近されるのが苦手なので、遠くから写真を撮られるだけならばそこまで気にならないのだと思う。

 

「ユズ、大丈夫だな?」

「……はい」

 

若干の間が空いたけど、それはあくまでいつもの言葉詰まりが起きただけで、取材されることに対しては問題なさそうだ。

くれぐれもユズに負担をかけないように文に釘を刺す。

 

「もし文がユズに何かしたら、その翼を斬り落とす」

「あはは、笑えない冗談ですね。笑えないのでその剣しまってください!」

 

俺が輝剣を取り出して笑顔で言うと、文は震えた。

さて、少し時間を取られたが、文の案内で守矢神社の中を進む。本殿の横を通り過ぎ、まるで第二神社かのような神聖な気を放つ建物へと案内された。

扉を開けると、そこには早苗と神奈子と諏訪子の三人、そして床に魔方陣が描かれていた。部屋の中には神棚と大きな鏡があるだけで、それ以外は何も置いていない。

 

「早苗、来たぞ」

「いらっしゃい、定晴さん。ユズさんもいらっしゃい」

「こん、にちは…」

 

早苗はこちらに気づき、挨拶をしてくれた。しかし、神の二柱は何かを念じているようでこちらを見ていない。

魔方陣からは異質な力が溢れており、妖力ではなく神力で構成されていることから、魔方陣を作ったのが神たちであることを察する。

 

「早苗、この魔方陣は?」

「これはいわゆる神域のようなものです。この魔方陣の中は限定的にお二人の神域になってまして、神域の中の存在のすべてを知覚できるという算段です」

 

神の領域、神域。神々がそれぞれ独自に持っているとされ、神域の中では特に十全に権能を扱うことができるのだという。あのミキも神域を持っており、その中だと物質の時間だけでなく存在すらも操ることができるらしい。

神奈子たちも神域では十全に神の力を使えるのだろう。神域に入ったものの正体すらわかってしまうほどに。

 

「ちょっと維持するのが大変で、早めに入ってもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」

「ユズ、大丈夫だな」

「はい…」

 

ユズが魔方陣の領域に近づく。文がカメラを構えて、早苗も何かを祈りだした。俺はユズに何かあったときにすぐに対応できるように身体強化を自分に施し、ユズの反応を待つ。

ユズが魔方陣の中に入った…その瞬間。

 

「ふきゃあ!」

「うぐ」

「ぎゃああ」

 

魔方陣が破裂し、文と神奈子、諏訪子が吹き飛んだ。俺と早苗は何が起きたか分からないままで、取り敢えず俺は文を、早苗は神二柱を起こしに行く。

部屋の中心にいた神たちはなんとかなったが、出入り口に近いところにいた文は外に吹き飛ばされてしまった。俺は吹き飛んだ方向を確認しながら空を飛んで確認すると…気絶している文を見つけた。

 

「早苗、そっちは大丈夫か?」

「はい、ただお二人とも気絶してしまっているようで…」

 

俺が文を連れて帰ってくると、早苗は困った顔をしていた。どうやら神ですらも気絶してしまったようだ。

衝撃波があったわけではない。魔方陣が壊れたなら術者には反動がいくので、神たちが気絶しているのは理解できるが…なぜ文までも吹き飛ばされてしまったのだろうか。

俺は魔方陣があったところに立ったままのユズを見る。俯いたまま、何もなかったかのように立ち尽くしている。

 

「ユズ、大丈夫か?」

「……はい」

 

どうやら立ったまま気絶しているわけでもないようだ。間はあったが、しっかりとした口調で返事があった。

ユズはこちらに歩いてくると同時に、こちらを向いた。

 

「…定晴、さん」

 

ユズの目は、まるで光っているかのように…いや、光を反射しているかのように白くなっていた。まるで奥底まで見透かされるような目であり、心を読むさとりにも感じたことのない恐怖感を覚える。

だが、多分これは魔方陣の影響なのだ。だから、俺は何も怖がる必要もない。ユズは優しい妖怪だ。

 

「ユズ、何が見えてる?」

「……あなたのことが、見えてますよ」

 

ユズは周囲を見渡し、神様二柱と文を一瞥。そして、早苗を見つめる。

早苗もユズの瞳に妙な気持ちを抱いたのか、少し怖がるような表情を見せたが、決して目を逸らすことはなかった。流石、神に仕える風祝である。

ユズは更に視線を動かし、大きな鏡を見つめる。そこにはユズ自身が写っている。ユズは一瞬驚いたような表情をして、目が鏡のように透き通る。大丈夫かと思ったが、その後俺の方に向き直ったときには目の色は戻っていた。

 

「……定晴さん、帰り、ましょう」

「え?」

「なんとなく、分かった、ので」

 

ユズは何かを理解したかのような、少しだけ驚いたような、そんな表情をしていた。

 

「…定晴さん、また後日来てください。お三方は私がきちんと世話しますので」

「だが早苗…」

「こっちは大丈夫です。今はユズさんのことを見てあげてください」

 

まるで母のように、優しい声でそんなことを言う早苗。

再生の力すらも断られてしまい、仕方なく俺はユズと共に山を下りた。その間、ユズは何も言わなかった。

 


 

家に帰ってくると、ユズは大きなため息をついた。いや、止めていた息を吐きだした。

 

「はぁぁ……その、怖がらせてすみません」

「いや、びっくりしただけだから気にするな」

 

ユズはソファに座ると、そのまま横に倒れた。どうやら、ユズも相当に疲れてしまっているようだ。

 

「ルーミアさんを呼んできてくれませんか?」

「分かった」

 

ルーミアは自室にいるだろう。

疲れ切っているユズに代わって、俺がルーミアを呼びに行く。おかえりという言葉と共に部屋から出てきたが、俺の表情を見て、ルーミアも気を引き締めた。

 

「何かあったの?」

「色々とな」

 

リビングに戻ってくると、ユズの目はまたもや先ほどのように鏡のような透き通った色になっていた。ルーミアがそれを見て、身構える。

 

「あ、ごめんなさい。ちょっと見てみたかっただけなんです」

 

すっと目の色が戻る。どうやら、目の色に関してはユズがきちんとコントロールできているようだ。

 

「まずは私の能力を説明しますね」

 

しっかりとした口調で話し始めるユズ。俺たちはそれを同じソファに座りながら聞く。

 

「種族の名前は分からないんですけど、できることはわかりました。私には、真実が見えるみたいです」

「真実?」

「はい。先ほど、文さんを見たとき、私にはカラスが見えました。諏訪子さんを見たとき、得体の知れないものとカエルが見えました。そして、早苗さんを見たとき、神のベールに包まれた姿が見えました」

 

ユズのあの目は、いつもとは違う、本当のものを見ることができるようだ。ぬえのように化けるのが得意な妖怪であっても、ユズのあの目で見れば本物の鵺の姿が見えるのだろう。

 

「ルーミアさんは闇が見えました。でも、なんだか少しだけ明るかったです」

「多分ご主人様の影響ね」

 

今のルーミアに浄化の力が効かない。多分そういった点で、少しだけ明るい闇になっているのだろう。

 

「定晴さんは…なんだかよく分かりませんでした。でも、あなたは人間でしたよ」

「俺はもしかしてユズにも人間かどうか疑われていたのか?」

「少しだけ…」

 

うーむ、心外だ。人間のできることを超えたこともできるけれど、俺はしっかり人間なのだ。式神にも疑われるとか…ちょっと傷つく。

 

「幻想郷風に言うなら、【真実を見る程度の能力】って感じかしら?」

「そうですね。心が読めるわけではなく、ただ騙されないってだけなんですけど…」

 

だが、それは妖怪相手にはとても強い力となる。そもそも、妖怪とは真の姿を見られるのを嫌がる。無理やり暴けば、妖怪にダメージが行ってしまうくらいだ。

それをユズは、術なしで見ることができるのだ。ならば、その力は妖怪特攻ともいえるようなものである。

 

「なら妖怪の種族も分かるな」

「え?」

 

俺がそう言うと、ユズは首をかしげる。

ユズの種族を調べるために、前に鈴奈庵で買った妖怪についての本…の方ではなく、妖怪に対抗するための本。そこに、ある記述がある。

 

「照魔鏡…妖怪などの真実を映す鏡。過去には九尾の狐や魔性のものを映し出すものとして利用された、魔を払う力を持つ鏡」

「それが…?」

「その鏡は、現代においては雲外鏡という名の妖怪となった。ものによって描写が違うが…ユズの状況を見るに、多分これだろう」

 

鏡という性質、そして妖怪の本質を暴くという能力…今までに描写されてきた雲外鏡とは随分と状態が違うが、特徴が当てはまる。

 

「…私、雲外鏡なんだ…」

 

ユズがボソッと呟く。

それは、自らの種族が分かったことに対する安堵と、それでもなお残る不安を色濃く残した呟きだった。

 

「なら、ユズの種族は人に明かさない方がいいわね」

「え?」

「その能力は初見だからこそ刺さるものよ。知られない方がいいわ」

 

ルーミアが戦闘的思考だが、俺もその意見には賛成だ。

戦闘という面だけではなく、妖怪の本質を暴くという能力自体が幻想郷においては凄まじい威力を持ち、もしかしたら悪意の持つ誰かに利用される可能性もある。ユズはもう俺の式神なので何かあったらすぐ分かるが、危険性はないほうがいい。

 

「よし、ご主人様。ユズの種族判明祝いをしましょ」

「だな」

「え?え?」

 

ユズが困惑している間に、俺とルーミアは準備をする。

ユズの種族が分かったことでできるようになったこともある。今後のためにも、色々とやらないとな。




ユズの種族が判明しました。なぜか日常回で
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