東方十能力   作:nite

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三百六十七話 縁起対談

ユズ、そしてルーミアの二人ともを連れて、とある大きな屋敷までやってきた。

人里にある建物の中でも一際大きく、また建物の前に守衛がいるような厳重な屋敷。その屋敷には表札がかかっている。名を、稗田。

ここは稗田阿求が住んでいる屋敷だ。幻想郷に住む妖怪たちの色々を書いている幻想郷縁起を記し、何代にも渡ってそれを受け継いできた特殊な家系。そんな屋敷に、今日は呼ばれたのだ。

先日、ユズの種族が判明した数日後、人里で阿求と出会った。その時に、雲外鏡の話をすると、種族について教えるから代わりにユズと対談させてくれという旨の話をしたのである。インタビューに近いものなのでユズは少し躊躇っていたが、種族のことが分かるということなのでこの話を受けたのであった。

 

「定晴さん、来ましたね。お二人も、来ていただきありがとうございます」

「ルーミアも、だったもんな」

「ルーミアさんが随分とお変わりしたので…」

 

ルーミアは俺の式神になってから、随分と変わった。それに、俺に告白をしたとも、また少し変わったように思える。

そのため、幻想郷縁起をもう一度編纂するためにこちらも対談を依頼されたのだ。ルーミアは嫌がっていたが、俺が許可をしておいた。ルーミアには睨まれた。ルーミアのこと、俺も知りたいし。

 

「こちらへどうぞ」

 

阿求に案内されて屋敷に入る。

俺と阿求はあまり関わりがないが、全く話したことがないというわけではない。俺はそれなりに人里に来るので、その時に見かけることはあるし、宴会の時に阿求が来ることもある。

それに、俺が過去に惰眠異変を解決したこともあってか、阿求に直接話を聞かれたことがあるのだ。ただ、俺自身のことはあまり話すことがないので、あの時一緒に行動していた魔理沙に丸投げした。

 

「お座りください」

 

幻想郷ではそうそう見ることのない上質なソファに俺たち三人が座る。給仕の人がお茶を持ってくると、対面に座った阿求が口を開いた。

 

「さて、まずはどちらから話しましょうか」

「そうだな…ユズと対談するにも、雲外鏡のことを知らないといけないだろうから、そっちからお願いできるか」

「分かりました」

 

家にある本ではあまり詳しく書かれていなかった雲外鏡についての情報。それと、幻想郷ならばいるかもしれない同族の情報。俺たちはそれについて聞きに来ているのだ。

阿求が語ったのは、本に書かれていた内容とそう大して変わらないもの。そして…

 

「現在私が確認している限りは、幻想郷に雲外鏡はいません」

「そうなのか…」

「ええ。そもそも、特殊な道具が変化したのが雲外鏡ですので…もしかしたら博麗神社などであれば鏡を有しているかもしれませんが、今のところ私が雲外鏡を見たことはありませんね」

 

同族がいるというのは相当な安心材料になるのだが…残念ながら幻想郷にはいないようだ。既に書物が存在しているので、外の世界にはいるのだろうけど、少なくとも幻想郷でユズの仲間に会うことはなさそうである。

 

「さて、ではユズさんとの対談を行いたいと思います。ユズさんは緊張するとのことですので、お二人も同席していただいて構いません」

「よ、よろしく、お願いしま、す…」

 

文にあれだけ怖がっていたユズだ。対談なんて言われても、ユズは緊張してしまうだろう。そのため、前もって俺たちが同席するということを阿求に伝えておいたのだ。

 

「さて…まずあなたの立場ですけど、定晴さんの式神でいいですね」

「は、はい…」

「種族は雲外鏡。能力は、聞いた話だと【真実を見る程度の能力】ということですね」

 

阿求がサラサラとメモ用紙に書き記していく。あとでこのメモ用紙を見ながら幻想郷縁起を編纂するのであろう。

阿求の質問は更に矢継ぎ早に続く。

 

「人間を食べたことは?」

「ありません!」

 

そこだけは強く主張するユズ。その様子に少しだけ面を食らったような顔をしながら、阿求は質問を続ける。

 

「妖力量に関しては…」

「大妖怪とまではいかないが、そこらへんの妖怪よりかは多いって感じだな」

「ありがとうございます」

 

ふとメモを見ると、そこには友好度や脅威度といったことが書かれていた。どうやら、ユズは脅威度が中程度の友好的な妖怪として書かれるみたいだ。

多分脅威度というのは、俺の式神でなくなった場合のことを言っているのだろう。中程度ならば、霊夢なら倒せるくらいといった感じか?

 

「能力の詳細を知りたいですね…見せることってできます?」

「えっと…」

 

ユズの目が白くなる。前は鏡のように光っていたが、数日の練習のおかげである程度制御できるようになったのだ。いつもは日本人らしい黒目だが、能力を使うと外国人のように目の色が変わるのである。

 

「私が、何かに見えますか?」

「…いくつもの、縁、それと、磨耗してる…魂?」

「敢えて自己紹介をしていなかったのですけど…概ね正解です。自己申告とはいえ、きちんと見えるようですね」

 

慧音から話を聞いたことがあるので俺は知っているのだけど、阿求は何度も転生を繰り返し幻想郷縁起を記す家系らしい。つまり、先代も、初代も、実質的には阿求なのである。とはいえ、記憶は大部分を失ってしまうので、あまり転生者っぽい感じはないらしいけど。

ただ、阿求が少し大人びているのは転生の影響だろう。一度見たものを忘れないという能力のおかげでもあるかもしれない。

 

「ありがとうございます。えっと、幻想郷に来た経緯は…」

 

俺が代わりに不動との色々を話す。

そういえば不動は解放する能力を持っていたな。ユズの能力と似て非なる能力だが、果たして偶然だろうか。

 

「なるほど記憶喪失…ですが、特に思い出そうということもないみたいですね」

「私は、今、幸せ、です」

「ならいいんです」

 

微笑み、メモ用紙を片づける阿求。どうやら、対談は終わりらしい。

 

「ありがとうございました。雲外鏡に関する知見も深まりました。次はルーミアさんとの対談なんですけど…」

 

ユズの対談中一言も話さなかったルーミアに、阿求が目を向ける。

ルーミアは俺の式神になってから、妖力も能力も生活も変わった。封印状態が緩んでいる影響で妖力が増え、闇をより自在に操ることができるようになり、俺の家に住むようになった。

なので、昔の幻想郷縁起に書かれているであろう内容はほとんど参考にならないものとなってしまったのだ。阿求としても、その違いをそのままにしておくのは許されないことなのだろう。

 

「…定晴さんとユズさんは席を外してもらえますか?」

「ん?まあ構わないが…」

「あなたがいない方が正直に話してくれるかもしれませんし」

 

ユズとは違って、ルーミアは知らない人に対してもはっきりものを言うことができる妖怪だ。俺たちが付き添ってあげる必要はないので、特に問題はないが…

ルーミアは阿求の視線に、少したじろいだ。まるでさとりのような、心を読むかのような瞳は若干の居づらさを感じる。

 

「じゃあ、俺たちは先に人里の方でゆっくりしてるよ。ルーミアも終わったら来てくれ」

「ん」

 

式神の繋がりのおかげで、ある程度なら居場所を認識することができる。

俺とユズはルーミアを残して屋敷を出たのだった。団子屋で時間を潰せばルーミアもすぐに終わってくるだろう。

 


 

ルーミアさんの気配は、昔話したときに比べて格段に変化していた。

大妖怪らしいオーラを纏いつつも、あの時よりも穏やかな雰囲気を感じる。なんだか藍さんみたい。

 

「先に言っておきますが、喋り方は普通でいいですよ」

 

噂で聞いたことだけど、最近のルーミアさんは普通の喋り方をしているらしい。昔は子供らしい言い回しや口調をしていたと思うのだけど、今はきちんと喋ることができるようになったらしい。

 

「そう、じゃあ普通に喋るわよ」

 

ルーミアさんの見た目で、地底の橋姫さんのようなざっくばらんとした言葉で出てきて、少しだけびっくりする。なるほど、大人びたを通り越してもう大人な雰囲気をしている。

あの頃のルーミアさんは何だったんだろうか。演技?それとも式神化における精神成長?妖怪というのは時に人間の私には思いもよらない変化をするので、どんなことでもあり得る。

 

「さて、能力でできることが増えたとのことですが、能力が変化したわけではないのですね?」

「変わってないわ。闇を操っているだけよ」

 

前のルーミアさんは自分の周囲に闇を展開するという使い方しかできず、その闇やルーミアさん自身の視界も遮ってしまい、時折木などにぶつかっている姿が見られるという、正直に言うとちょっと滑稽な妖怪だった。

しかし、最近は闇を完全に操り攻撃に使ったり防御に使ったりといった戦い方ができるようになったようである。先日人里で会った咲夜さんがそう言っていた。

 

「日光の下だと弱体化すると聞いたんですが、大丈夫なんですか?」

「今は特に問題ないわ。多分、定晴の式神になったのも影響してるんでしょうけど」

 

元々のルーミアさんは日光に当たると弱体化するという妖怪だった。だからこそ、自分の周囲に闇を展開して昼間も行動していたはずだけど…最近それを見なくなったのは、そもそもしなくてよくなったのも理由らしい。

 

「妖力量が増えたみたいですが…」

「そうね。増えたって言っていいかしら」

 

何倍もの威圧感を放つようになったルーミアさん。

少しだけ見せて欲しいとお願いすると、ルーミアさんはリボンに少しだけ触れる。その瞬間、ルーミアさんから大妖怪の威圧のようなものを感じるとともに、妖力というのを何の力も持たない身ながら感じることができた。

またリボンに触るとその圧迫感は消え失せ、いつも通りになった。どうやらあのリボンが一つのセーフティになっているみたいですね。

 

「そのリボンは誰が?」

「定晴よ。式神としての繋がりもこのリボンで」

 

前にルーミアさんが付けていたものに比べると、可愛らしさというか綺麗さが目立つ見た目のリボン。前のリボンはお札らしいやつだったのだけど、今のは普通のリボンのようだ。

私はあまり式神の技術に関して詳しくないから分からないけれど、式神の媒体があのリボンということなのだろうか。だとしたら、定晴さんがいなくなった時のルーミアさんにはセーフティとなるリボンがないということになり…

危険度を上げるのか悩む。ただ、ユズさんと同じで会話が成り立つ妖怪なわけだし、昔と違って人間を襲っているようにも見えないので…危険度は据え置きにしておくと決めた。

 

「最近は人里にも来てますよね」

「買い物の付き添いとか、そういうのでね」

 

現在ルーミアさんは定晴さんの家に住んでいるらしい。一度だけ定晴さんの家を見に行ったことがあるけれど、あの大きさならルーミアさんとユズさんの二人が追加で済んでも問題なさそうだった。

家に住んでいるということは、衣食住を共にするということだ。きっと食事の準備なども一緒にやっているのだろう。なんだか前に読んだ恋愛小説のようで…小鈴のせいで変な知識が増えている。

 

「友好的ってことでいいんですかね」

「襲うつもりはないわよ」

 

そもそも、定晴さんの式神となる前からたまに人里に来てラーメンなどを食べていたらしい。つまり人間を襲っていたのは相当前のことで…えぇ、縁起に書いたのそんなに昔じゃないはずなんだけどなぁ…

 

「さてと…ルーミアさんの、日頃の生活について聞いても?」

「え?」

「式神としての生活とかあるわけじゃないですか。藍さんが紫さんに給仕するようなことをルーミアさんもやっているのかなと…」

 

正直、聞きたいのはここだ。別に私情は混ざってない。

ただ、恋愛小説の中でそういった関係のことを書いているものがあって、ああいうのが実際に起きているのかと確認したかっただけなのだ。小鈴にオススメされた小説を、もっと学術的な方向で利用しようと思っただけ。

 

「それ、重要?」

「ええ、まあ、はい」

 

じろりと見られるが、ルーミアさんは家での話をしてくれた。

最初は義務的な感じで日常を話していてくれたのだけど、私が色々と質問しているうちに、段々と定晴さんのことやユズさんのことも増えてきて…少なくとも、ルーミアさんは定晴さんに恋しているみたいだというのは分かった。

開始から三十分ほど、ルーミアさんは話終わりの質疑応答の時間をくれた。

 

「それで、何か質問はあるの?」

「もう十分です…」

 

途中からこちらも恥ずかしくなってくるようなものが増えてきて、少しだけ火照った頬を意識しないようにしながら対談を終わる。

ルーミアさん、定晴さんのこと大好きじゃないですか。

 


 

少し長引いているなと思いつつお茶を飲んで待っていると、ルーミアと少し頬が赤くなっている阿求が来た。

 

「阿求、大丈夫か?」

「え?大丈夫です、ちょっと白熱しちゃっただけなので…」

 

頬が赤くなるほど白熱するとは…対談ってそんなに激しいものなのか。

ユズの質問の少なさは、阿求が気を使ったものなのかもしれない。本当は皆ルーミアくらいの長さで対談をしているのかもしれないな。

 

「折角だから阿求も食べていくか」

「失礼します」

 

俺は阿求とルーミアの分を追加で注文する。

どんな幻想郷縁起になるのだろうか。編纂が終わったら俺も読んでみたいものだ。




阿求の個人メモ

ユズ・真実を見る程度の能力
危険度:中
友好度:高

雲外鏡の妖怪。外の世界から入ってきたときに記憶を失ってしまい、外の世界での記憶は一切ない。能力は人にも妖怪にも使用することができ、妖怪への抑止力的な使い方もできるだろう。


ルーミア・闇を操る程度の能力
危険度:中
友好度:中

種族不明の闇妖怪。闇を操る能力が向上し、闇の塊がフヨフヨ浮いている場面を見ることはなくなった。最近は人間的な生活をしており、料理や洗濯などもできるような家庭的な一面を持つ


裏メモ

ルーミアさんは定晴さんに恋してるみたい。それに、ユズさんも定晴さんのことをとても信頼してるみたいで、なんだか三角関係みたいでちょっとワクワクしちゃう
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