東方十能力   作:nite

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三百六十八話 身体検査

不老不死となってから、自分のことを振り返ることも少なくなった。なんせ、今後もずっと生きていくのだから振り返る意味なんてそんなにない。穢れの研究もしてきたけれど、今後もずっと地上に住む予定なのでそのほとんどの研究プロジェクトは凍結してしまった。

穢れというのは、月の民が最も嫌うもの。地上には多く存在し、それから逃れるために月まで逃げるという暴挙を行った。

しかし、まあ慣れてしまえばそんなものは気にならなくなる。地上の方が薬の材料になるものは多いし、採取も楽だ。

 

「永琳、ごはんできたって」

「先に食べてて。これが終わったら行くわ」

 

姫様に呼ばれて、キリがいいところまで進める。薬物実験は、中途半端なところで終わらせると外的要因によって結果が変わってしまうことがある。そのため、しっかりと実験は終わらせてしまわないといけないのだ。

月には外的要因をすべて遮断する部屋が用意されていたので、そういう意味では月での生活も悪くなかったのだけど…姫様が地上にいて不老不死をしているのだ。私も、ここにいたいと思うのは何もおかしなことではない。

 

「お待たせ」

「師匠、どうでした?」

「まだまだってところね。もう少し成分を考える必要がありそう」

 

ちょっとだけ広い部屋に行くと、姫様とウドンゲ、てゐが食べ始めていた。てゐはここで食べるときと、外で他のイナバウサギたちと食べる時がある。

いたずら好きの困った性格をしているてゐだが、仲間思いなのだ。ウサギたちのためなら少しくらいの無茶はしちゃうくらいにはウサギたちのことを愛している。

 

「そういえば先ほど通信があって、豊姫さまが明日こっちに来るそうです」

「そう。依姫は?」

「依姫さまは少々忙しいみたいで…明日来るのは豊姫さまだけです」

 

月の使者としての役割をこなしつつ、時々私情で地上に来る二人。八意様と慕ってくれているのはいいのだけど、いい加減私から離れて欲しいものだわ。

数年前に起きた月を巻き込んだ異変の折に再会したわけだけど、大体千年ぶりだっていうのに私は忘れられていなかった。今は昔、竹取の翁という者あった…竹取の物語と言われたあの頃に私はあの姉妹に月の使者としての仕事を譲ったのだ。

つまり今の私はほとんど隠居しているようなもの。だというのに、あの異変のあとから不定期に地上に降りてくるようになったのは…まあ、幻想郷が賑やかになったのだからまったくもって悪いわけではないのだけど。

ウドンゲの食べた料理を食べ終えた頃に、永遠亭の入口から声が聞こえた。

 

「失礼するよー」

 

あの声は妹紅だ。どうやら誰かを案内してきたらしい。

食事の後片付けをしているウドンゲに代わって玄関まで行くと、そこには妹紅と一人の男性がいた。

 

「ユズの検査について、一応事前に連絡しておいたんだが…」

「聞いてるわ、あがってちょうだい」

 

やってきたのは定晴。かつて私に剣を向けて脅しをしてきたけれど…彼はそれについて随分と引きずってたみたいだけど、こっちはあまり気にしていなかった。

そんな彼と一緒についてきたのは、彼の式神であるユズ。今まで何の種族なのか一切分からなかったのだけど、つい先日種族が判明したらしい。だから、改めて身体検査をしたいとのこと。

ここまでの案内を終えた妹紅はこのあと姫様と殺し合いをして時間を潰すらしい。帰りも定晴を案内しないといけないかららしいけど…その時間つぶしが殺し合いなのは如何なものなのか。姫様も嫌がっていないどころか乗り気だし、どちらもどれだけ死んでもいい体をしてるから今更何か言うつもりはないけど。

診療室に向かっている途中に私は定晴に問いかける。

 

「それで、種族は雲外鏡だって聞いたけど」

「ああ、それで合ってる。幻想郷にはいないらしいな」

 

まだ見つかってないだけとかありそうだけど…それはそれとして。

かつて私が種族を調べるために渡した検査キットには、確かに雲外鏡の項目はなかった。私も雲外鏡の血液データなどを持っていなかったので、キットに入れることができなかったのだ。

今回、ユズの身体検査をするついでに、雲外鏡の妖怪のデータも採取するつもり。定晴には言っていないけど、別に悪いことじゃないからいいでしょ。

 

「さて、連れてきてもらって悪いけど、ユズの服とか脱いでもらうから出て行ってもらっていいかしら」

 

診療室について、開口一番に定晴に言ったのはその言葉。式神といえど、女性の裸を男性が見るなんてのは、私が許しません。

私がそう言うと、定晴は予想していたかのように、懐から一枚の紙を取り出した。

 

「召喚」

「ん」

 

ちらりと光って、出てきたのはルーミアだった。どうやら、式神召喚の方法で呼び出したらしい。

 

「最初から連れてくればよかったのに」

「こっちで呼び出したら、終わったら元の場所に帰せるからな」

 

へえ、式神召喚ってそういう感じなのね。私はあまり陰陽術とかに詳しくないから、式神の仕組みをイマイチ理解していないけれど…式神、実験にも役に立ちそうだしちょっと練習してみようかしら。

ともかく、定晴が退出してルーミアが残った。片づけが終わったらしいウドンゲを呼び、診療を開始。

 

「定晴から聞いた話だと目がちょっと特殊らしいけど…取り敢えず、基本的なところから見ていきましょ」

 

心音や妖力検査、それと血液。身長体重も測定して記録していく。記録係はウドンゲだ。

前回の診療結果も残っているので、それを取り出して変わった点がないかを見ながら進める。すべて測定したあとに見比べてもいいのだけど、問題があるときにすぐに見つけた方がいい。

基本的なところは、身長が少し伸び体重が少し増えたこと以外は問題なかった。そのことを伝えるとユズは少し悲しそうな顔をしていたけれど、前のときは栄養失調気味だったし、今の方が健康なので安心してほしいと伝える。

 

「じゃあ目を見ていくわね」

 

視力検査から始まって、眼球や網膜を見る。今のところ特に異常は見つからない。

 

「ユズは能力を使うと目の色が変わるの」

「そうなの?じゃあちょっと能力を使ってもらえる?」

 

【真実を見る程度の能力】とやらを見せてもらう。

能力が発動したのは見て分かった。はっきりと目の色が変わったのだ。きっと私の真実が見えているのでしょうけど、生態に関して隠していることもないので、気にせずに検査をする。

能力維持はまだそこまで続けられないみたいだけど、ユズには頑張ってもらって能力発動中に視力検査。

 

「これは?」

「えっと…」

「こっち」

「う…」

 

どうやら、能力発動中は通常の視界はほぼなくなるらしい。その代わりに、見ているものの真実も見えるということだろう。

現実主義な私にしては珍しく、なんだか魔眼みたいねと思う。幻想郷には、こんな風に目の色が変わって何か起こるみたいなのはほとんどいなかったはず…

 

「師匠」

「あ、そういえばあなたがいたわね」

「え、何がですか?」

 

すぐ傍に目の色が変わって相手を狂気に陥れる子がいたことを思い出す。

 

「何かしら」

「ユズさん、疲れてますよ」

 

見れば、ユズの目の色は元の色に戻っていて、少し疲れが見えた。どうやら能力を酷使させすぎたらしい。

能力として使うにはもっと長い時間見れるようにならないと幻想郷では意味がないだろうけど…先日開花したばかりらしいし、そこらへんは定晴たちがなんとかするでしょう。

 

「まあ、検査はこれくらいかしらね。取り敢えずデータとして残してるけど…特に異常はなかったわ。定晴にもそう伝えといてちょうだい。私は情報をまとめるから、ウドンゲは二人を案内してあげて」

「はい、わかりました」

 

ウドンゲが外に出ていくのを見つつ、私は手元の診療結果を見る。

健康状態にも身体状態にも以上なし。種族が分かったからといって、妖力が変質したり強力になったりしているわけでもないようだ。

 

「だとしたら…」

 

能力以外はただの妖怪ということだろうか。そんなことがあり得る?

だって、雲外鏡は妖怪が主体じゃなく鏡が主体の妖怪なのよ。真実を見るなんてのはカメラみたいなものでしょう。鏡としての本質は、一体…

私は永遠亭にあったような気がする妖怪全集を探すために、本棚に向かうのだった。

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