東方十能力   作:nite

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三百七十話 共存関係とは

深夜というのは、どこであっても危険な時間帯である。街灯があれど、照らされるのは昼間に比べると格段に少なく視認性は悪い。物を落としたとしても気が付きにくい。街灯がない道では真っすぐ進むことすらおぼつかないだろう。

外の世界でもこうなのだから、幻想郷では最悪の時間帯だ。ここには、夜の時間を主として活動する妖怪がいるのだ。幻想郷には街灯なんてないので、人里の外はどこでも真っ暗である。そんな道を人間が歩こうものなら、次の日には骨となった誰かだったものが見つかることだろう。

つまり、深夜の時間帯までに人里にたどり着かないというのは、普通の人間にとってはとっても危険なことなのだ。

 

「ふむ、見つかってないのは二人か」

「頼む、手伝ってくれ」

 

急ぎの様子で家にやってきたミスティアに呼ばれ、夜遅くにやってきた人里。そこには大きな火を焚いている大人たちの姿があった。

そんな中、慧音に頭を下げられる。その願いを誰が無碍にできようか。

 

「北の森だな?」

「ああそうだ。父娘の親子で、山菜を採りに行ったあと戻ってきていない」

 

人里で行方不明。人里の門番が姿を見ていないというので、帰ってきていないのは間違いないらしい。

人間が探しに行っても、木乃伊取りが木乃伊になることになりかねないので、動けるのは半妖の慧音を含めた人里に住む数少ない妖怪だけ。人探しには人数が必要だと、俺も呼ばれたらしい。

 

「よし、行くか」

「ありがとう。私は入口の方から探すから、定晴は奥の方を頼めるか」

 

人里の北の森は…というか、人里近くの森は人里から離れるほどに危険度が上がる、人の手が加えられていないのだから、当然である。

もし俺が捜索する範囲で見つかったとして…生きている可能性は低い。霊夢などによって定期的に間引かれているとはいえ、人間を狙う妖怪というのは近くの森に棲んでいるのだ。

 

「ルーミア、ユズ、散開しよう。見つけたら通信で呼んでくれ」

「分かった」

「が、頑張ります」

 

声を出しながら森の上空を低空飛行で飛ぶ。

もしまだ生きていたとしても、妖怪に見つからないように息をひそめている可能性が高い。こちらから声をかけて探さなければ人を見つけることはできないのだ。

勿論、声を出しているので、妖怪たちから俺の場所はまるわかり。定期的に飛んでくる妖怪たちを輝剣で叩き落としていく。落とせば落とすほど安全になっていくのでちょうどいい。

 

「さて、ここから向こう側だな」

 

森の端っこまでついた。もしここよりも向こう側に行っていたとしたら…そもそも見つけることができないだろう。人里の北の森、その更に向こう側はもっと妖怪が増えるのだ。

ここに来る途中では見つけることができなかったので、蛇行するように森の中を飛びながら移動する。先ほどは木の上を低空飛行していたが、今は葉の下を飛んでいる。

霊力を探るのは得意なので、周囲に対して厳重警戒で飛んでいるのだが、今のところ反応はない。人間であれば誰であっても霊力があるはずなので、感知されていないということはいないということだ。

 

「邪魔だ」

「キャウン」

 

空を飛ぶことのできない妖怪も襲ってくるようになったから、先ほどに比べてやたらと襲撃が多い。

増えたところで問題は何もないとはいえ、やはり何度も何度も斬っていると面倒になってくる。火の魔術で周囲の森を焼き払ってしまおうかなんてことを考えていると、ユズから連絡が来た。

 

『娘さんの方を見つけました』

『ナイスだ。父親は?』

『いないみたいです…』

 

子供を置いて逃げた?いや、何かしらあってはぐれたと考えるべきだろう。なんせ、父親の方も人里には帰ってきていないのだから。

ユズが一人だと、子供の対応ができないということでルーミアが向かい、俺は引き続き捜索を続ける。

この森は広いとはいえ、子供がいた場所からそう離れてはいないだろう。いつ頃にはぐれたのか分からないが、人が一人で行動するにはこの森は厳しすぎる。

 

「む、定晴か」

「慧音?合流しちゃったな」

 

しばらく飛んでいると、慧音と遭遇した。

慧音は人里の方から奥に向かって進むと言っていたので、大体ここらへんが森の中心ということだろうか。残念ながら、このラインでは見つけることが叶わなかった。

 

「ユズが子供の方を保護したって」

「らしいな。だがまだ一人…」

「ユズが見つけたのはあっちだから、その方面で探したほうが見つかるかな」

 

俺は慧音と情報交換をしつつ、ユズが子供を見つけた方向へ向かう。

ルーミアは子供を誘導して人里に戻り、ユズは捜索を再開。俺と慧音も分かれて付近を捜索する。

ルーミアが人里に戻ったとき、まだ誰も戻ってきていないと教えてもらった。つまり、行き違いなどもなくまだこの森の中に一人遭難者がいるということだ。

この時間帯は視認性が悪く、妖怪から襲われたとしても、襲われる直前まで気づかない可能性がある。いわゆる、声を上げる暇もないという状況になりかねないのだ。もし声も出せない状況になっていたとすると、探索するのは難しい。

 

「…ちょっと方法を変えるか」

 

どこに行っても声が聞こえないので、少し考え方を変えることにした。

妖怪は音や光に反応してそちらに移動するが、それは人間もそうだ。森の中で、どこに行けばいいのか分からない状況で光や音がすれば、そちらが気になるものである。そこから逃げようとするか近づこうとするかは、その人の思考パターンによるが…大きな音や強い光を出せば、ヒントがあるかもしれない。

 

「…閃光よ!」

 

俺は、森の上空に魔術で強い光を放つ。俺は光属性には適正があるらしいからな。

俺が放った光は、周囲のみならず森全体を、まるで昼間のように照らし、視認性をとても高めてくれる。もし光を直接見てしまった場合は、失明するかもしれないほどの強さだけれども、この光なら遭難者も気づいてくれるだろう。

光を維持していると、妖怪たちがこちらに近づいているのを感じる。妖怪というのは、そもそも強い光というのに弱い傾向があるので、強い光があったら逃げると思ったが…どうやら近づいてくる妖怪の方が多いみたいだ。

 

「来いよ、光の下で戦おうぜ?」

 

輝剣を構えて、戦闘を始める。

ここらへんにいる妖怪は獣の姿をしている妖怪の方が圧倒的に多い。人型といってもゴブリンのような妖怪が多く、ルーミアのようなしっかりとした人の姿をしている妖怪はいないので、容赦なく斬れる。

この手の姿をしている妖怪は理性や知能というものが著しく低いので、話し合いなんてものはないのである。弾幕ごっこのルールすらも通用せず、ただひたすらに殺すだけ。

 

「…終わりか」

 

周囲に倒れ伏す妖怪の数が三十を超えるかというほど、とうとう妖怪の波が途切れた。

少なくとも、これで光に吸い寄せられるような妖怪はいなくなったはずだ。この森の安全度も高まっているはずなので、今後の役にも立つ。

 

『定晴さん、慧音さんが見つけたみたいです』

『分かった』

 

俺はユズの報告を聞いて、人里へと戻る。

人里に戻ると、通夜のような雰囲気の人々が、焚火の近くに集まっていた。声を出す者はおらず、聞こえるのは小さな女の子の泣き声だけ。

 

「戻ったぞ」

「定晴。ありがとう、助かった。結果は…見ての通りだ」

 

焚火の近くには、顔に布をかけられた一人の男が寝かせられていた。左腕はなく、服は血で染まっている。その体に抱き着くように、一人の女の子が泣いている。

間に合わなかったのだろう。血の乾き具合からすると、多分俺たちが探し始めたころには既に…

 

「子供から聞いたよ。子を逃がすために、持っていた匂いのする葉を身体に塗って、森の中に走っていったと」

 

どうやら、こいつは親として子を逃がす選択をしたようだ。帰り道も分からず、妖怪に囲まれていた状況で、子だけでも逃げることができるように、退路を作り出したのだ。

 

「定晴も…なかなかの血の量だな。途中の光は定晴が?」

「そうだ。あの光の下で、妖怪を屠った」

 

もしかしたら、あの中に男を襲った妖怪もいたかもしれない。すべて血の中に消えたので、真偽を定める方法もないが。

俺はルーミアとユズを呼ぶ。

ルーミアはいつも通りの表情をしていたが、ユズはとても泣きそうな顔をしていた。そんなユズを、ルーミアが慰めている。

俺たちは慧音から、報酬としての金銭を少しだけ受け取って帰路に就いた。その途中、ユズが呟いた。

 

「人って…脆いですね…」

「人なんてそんなものよ。私たちが襲えば、基本何もできずに死ぬの」

 

過去に人を襲っていたルーミアが言う。

幻想郷は人と妖怪が共存しているが、それはあくまで共に存在しているというだけで、協力関係にあるわけではない。勿論、天狗や河童、慧音のような人間に協力的というか親しい妖怪もいるが、獣のような妖怪もまたいるのだ。

 

「人が死ぬとこ…初めて見ました」

 

ユズの呟きに、俺とルーミアは何も言わない。代わりに、ユズの頭を優しく撫でたのだった。

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