今日は一人で守矢神社まで来ていた。ユズが起こしたいざこざについて、謝罪と経過を聞くためだ。
「あ、定晴さん、いらっしゃーい」
「おはよう早苗。元気だったか?」
「先日のこと気にされてます?大丈夫ですよ。私も、お二方も大丈夫です」
早苗には一目で見抜かれてしまった。
早苗はまあ特に衝撃を受けていたわけではないが、諏訪子や神奈子は気絶していたし、文は吹き飛ばされていた。あれはユズの真実を見る能力が暴発した影響だと思うが、無理やり正体を暴かれるようなものなので、怪異的に危ないのではないかと思っていたのだが、早苗はあっけらかんとしていた。
「挨拶します?」
早苗に連れられて、守矢神社の裏へ。そこには、大きな氷の横で寝転がっている諏訪子と、そんな諏訪子を眺めている神奈子がいた。
「ん?ああ、定晴か。いらっしゃい」
「んあー?」
諏訪子が顔だけあげてこちらを見るが、俺を一瞥したあとはまた元の姿勢に戻ってしまった。夏バテだろうか。
大きな氷はひんやりとした空気を出していて、この暑い夏では頼もしい味方となるだろう。この氷は、チルノが生み出して販売しているやつだ。霧の湖で大量に凍らせてから、人里に持ってきて販売しているらしい。
「二人とも、先日は悪かったな」
「んーー?あー…いーよ、気にしなーい」
「あれは妖怪を無理やり暴いた私たちにも罪はある。反動が来ることを想定していなかったのは私たちの非だ」
諏訪子はなにも気にしておらず、神奈子に関しては俺を責めるどころか、自分たちが悪いときた。
正直あのときに何が起こったのかを完全に把握しているわけではないのだけど、能力の暴発なのは間違いない。ユズが能力を暴発させたのは、偏に俺の管理不足ともいえる。
式神のユズの主として、能力をある程度制御することもできたはずだからな。
「そういうわけなので、定晴さんは気にしなくていいですよ」
「そうか…まあ、そう言ってくれると助かる」
守矢神社の面々は、俺に悪いところはなかったと言ってくれている。俺にも悪いところがあったのは自覚しているんので、気遣いの気持ちとして受け取っておいて、今日ここに来た本題を話す。
「そんで、謝罪とお礼を兼ねて何かしようと思うんだけど、何かしてほしいことはあるか?」
俺がそう言った瞬間、早苗の目が光った。また、今までだらけていたはずの諏訪子と神奈子も、素早い動きでこちらを向く。
まるで蛇の群れに睨まれたような気分になるほどの威圧感。どうしたのかと思ったら、最初に早苗が口を開いた。
「料理を!定晴さんの料理が食べたいです!」
「料理?まあ、それは構わないが」
料理ならいつもやっていることだし、そこまで労力の必要なことではない。なので、それだけならいくらでもしてやるのだが…
そう思っていたら、諏訪子が動いた。
「うちの早苗と、ちょっと出かけてくれない?」
「諏訪子様!?」
「あーたしかにねー…私からも頼むよ。早苗をちょっと連れ出してやってくれ」
諏訪子の言葉に神奈子も便乗する。
早苗と一緒に出掛ける…する内容に関しては特に何も指定していなかったとはいえ、諏訪子や神奈子に何かするのではなく、その風祝である早苗にしてあげるとは…神様として素晴らしい考えなのかもしれない。
ただ、その内容が出かけるだけというのはどういうことなのだろうか。別に出かけるだけなら問題ないのだけど…
「諏訪子様、神奈子様、気を使っていただかなくてもお二人がしてほしいことを…」
「ちゃんとしてほしいことだよ。えっとねー…んー。実はそろそろ私たちだけでしないといけない重要なことがあって、早苗が暇になっちゃうんだよ」
「そうそう。私たちだけの秘密の儀式だから、早苗をその間連れ出してくれる人が必要ってわけ」
白々しく、諏訪子に至っては今思いついたであろうことを言う。神様がいるとはいえ、神社において巫女を放置するような神事などそうないだろう。
俺が何かを言う前に、諏訪子が更に言葉をつなげる。
「折角だから外の世界に連れてってあげれない?ほら、早苗もしばらく外の世界に行ってないから」
「ちょ、諏訪子様、私は…」
「うん、それがいい。よし、定晴頼んだよ!」
もうこれで話は終わりだと言うかのように、諏訪子はまた寝転がり、神奈子は奥へと行ってしまった。
二人に何も言うことができなかった早苗は、途方に暮れている。早苗がすぐそこで寝ている諏訪子に話しかけても返事がない。
「…えっと…」
「まあ二人から言われたなら…外の世界に出掛けようか。特に問題はないし」
「お、お願いします…」
紫に頼めば外に行けるだろうし、一応俺の力だけでも二人くらいなら外に行ける。それなりに無茶をすることになるが…最近霊力が増えているので、大結界に道を作るのもできるはずだ。
「いつがいい?」
「えっと…じゃあ取り敢えず今日の昼食を作ってもらっていいですか?デ…お出かけは…」
「今週の金曜日、金曜日に儀式やるから。その時で」
思い出したかのように諏訪子が言って、そしてまた寝た。絶対あれ寝てないだろ。
ますます縮こまるような体勢になって、早苗が小さい声で呟いた。
「それで…お願いします…」
「おう」
じゃあまずは今日の昼食のことを考えるか。ここの冷蔵庫には何があるかね。
守矢神社にて冷やし中華を作ったあと、俺は天狗のところまで来ていた。俺が詫びをしないといけない相手はもう一人いるからだ。
「文ー、定晴だー、いるかー?」
過去、惰眠異変と呼ばれているあの異変のときに椛に教えてもらった文の家までやってきた。
取材のために多少無理やりそこにいたとはいえ、不慮の事故で気絶させてしまったのは事実だ。そのため、俺は文にも謝罪をしに来たのであった。前に来たときは色々と怒られてしまったので、ちゃんと誰なのかも合わせて声をかける。
しかし、誰かが出てくる様子はない。物音もしないし、もしかしたら出かけているのかもしれない。
今思えば、守矢神社の昼食を作ったのもあって、今は昼過ぎだ。文のように熱心な記者は、この時間帯は外に出ているだろう。
「仕方ない、あとにするか…」
俺がそうして離れようとしたとき、近くに別の天狗がいることに気が付いた。もしかしたら文の場所を知っているかもしれない。
「そこの、ちょっといいか?」
「は、はいっ?!」
俺が話しかけると、まるで動顛したかのような返事をする天狗。その拍子に、天狗が手に持っていたものが落ちてしまった。
「おっと、悪い。そこまで驚かれるとは」
「いや、その、私も悪かったわ」
天狗がいそいそと拾い上げたのは…携帯電話?スマホではなく、現代の外の世界では珍しいガラパゴスケータイ、いわゆるガラケーだ。
「それ、ガラケーか?」
「もしかして、あなたこれ知ってるの?」
俺がガラケーについて指摘すると、一気に天狗が距離を詰めてきた。それに驚き俺が一歩後ろに下がると、天狗が慌てて距離を戻した。
「私は姫海棠はたて、あなたは?」
「俺が堀内定晴だ」
「あなたが…ほえ~」
まじまじと俺を見てくるはたて。どうやら俺のことを知っているようだ。
「俺を知っているのか」
「むしろ、天狗の中であなたを知らないのはいないわよ。既に異変絡みで色々と活動してるみたいだし」
ふむ…そう考えるとそれもそうか。惰眠異変の頃は魔理沙に全部任せて動いたのだが、最近は俺が自発的に動くことも多い。新聞などで情報共有をする天狗たちは、他の妖怪たちよりも伝達速度が速いだろうから、異変で活動した人物の名前くらい把握しているということか。
「確かに、外の世界にいたあなたならこれも知ってるか」
「どこで手に入れたんだそれ?」
「これは河童製ね。一応これでも私の取材用カメラよ」
ふとはたての外観を見ると、幻想郷の妖怪にしては随分と派手というか、現代風な格好をしている。そして手に持っているガラケーを合わせてみると…なんだか平成の若者といった見た目をしている。
感じる妖力からしてそれなりに生きていた妖怪っぽいので、妖怪の中では若者というわけでもないだろうけど、幻想郷ではあまり現代的な見た目をしている人がいないので珍しい。
「あー…えっと、それで何か用なんだっけ」
「ああそうだ。文を知らないか?」
俺がそう聞くと、はたては少しだけ不機嫌になった。もしかして、文と仲が悪いのだろうか。
「あいつは今日もどこかで取材してるわよ。もしあれなら伝言しとこうか?」
「む、いや、そこまでしてもらう必要はない。急ぎというわけではないしな」
不機嫌になった割には、文への伝言をするのを自分から提案するくらいなので、とても仲が悪いというわけではないみたいだ。
もしかして、記者のライバルとかそういう感じだろうか。それだとしたら、俺が名前を出したことで不機嫌になったのにも頷ける。
「はたても何か新聞を?」
「あ、気になる?ちょっと待っててー」
そう言うとはたては飛んで行ってしまった。もしかして、持ってきてくれるのだろうか。
近くを通る哨戒天狗に見られながら待つこと数分。はたてが戻ってきた。その手には新聞が握られている。
「これよ!私の新聞、花果子念報!」
発行日は一昨日。最新の新聞を持ってきてくれたようだ。
内容は…ふむ、結構しっかりと書いているな。写真も多く使われているし、レイアウトも悪くない。ただ…
「一昨日発行にしては若干情報が古くないか?」
「うぅ…これでもちょっとは改善されたのよ。最近はきちんと取材しに行ってるんだから…」
さらっと見ただけだが、それでも分かるくらいには情報が古かった。
はたてが何を言っているのかは分からないが、どうやら前はもっと情報が古かったようだ。この花果子念報には大体一週間前くらいの情報が掲載されている。
一部最新の情報が載っているのは…はたてが呟いた、きちんと取材したものだろうか。
「折角だからそれあげるわ」
「いいのか?」
「いいのいいの。今から取材しに行って、それはすぐに既刊になるから」
それってゴミを押し付けたのでは…?
はたては、俺に新聞を渡して満足したようで、またねーと言いながら飛んで行ってしまった。なんだか幻想郷では珍しいタイプの妖怪だな。
「ふむ、まあ文が見つからないならこれでも読んでみるか」
俺は新聞を読みながら山を下りた。
うーむ、やはり新鮮味がない。