東方十能力   作:nite

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三百七十二話 女子会withミスチー

それは東風谷早苗からの報告で始まった。

 

『今度の金曜日、デートしてきます!』

 

誰と、なんて聞かなかった。なんせ、私たちの交友関係の中でデートをする相手なんて一人しかいないのだから。

私が作ったこの回線は、いわばライバル同士で競いあい、時には協力するための連絡網だ。私が判断して入れたメンバーは、それぞれ並々ならぬ想いを抱いているのだ。もしその中からデートをする人物が現れようものなら…やはり、聞きださなければいけないことがある。

 

「いらっしゃーい」

「予約しておいたわよね」

「ええ、お待ちしておりましたー」

 

夜雀の屋台は事前に予約することができる。早苗の言うデートの日まであまり時間がないというこの状況で、すぐに集まれる場所を用意するならここしかなかったのだ。

 

「他のは…すぐに来るわよね。取り敢えずお酒と鰻ちょうだい」

「はーいただいま」

 

私はスキマで移動できるので、寝坊などでそもそも行動自体が遅れない限り遅刻することはあり得ない。藍に言われて五分前行動としてここに来たけど、誰も来てないならもう少しゆっくりしててもよかったんじゃないかしら。

 

「なにやら不服そうね、紫」

「…幽香」

 

もう夜だからか、トレードマークの日傘を持たずに歩いてきたのはフラワーマスター。

幻想郷に定晴が来る前から、彼に恋をしてた人。私もそうだけど、恋歴で言うなら今日集まるメンバーの中でも長い。

幽香はちょっと気が強い面があるけれど、私よりも女の子らしい趣味をしていて、普通に生活していればモテるだろう。花畑を荒らす人々を都度ボコボコにしていたら、今や恐れられる大妖怪になってしまったけど。

 

「あら、冷やしおでん?」

「夏限定なんですよ。食べます?」

「…いえ、鰻でいいわ」

「はーい」

 

冷えたおでんって美味しくなくない?ちゃんとそこらへん考えてるのかしら。

幽香は私の隣に座って、頬杖をついた。

 

「まさか、デートを先越されるだなんて」

「どうやって誘ったのかしらね」

 

早苗は、デートをすることになった、ということ以外を伝えてくれなかった。だからこそ、今日は集まって話すことになったのだ。

ただ出席は絶対というわけでもないので、来てくれるかは分からない。早苗は幻想郷の中では比較的常識よりかつ、何かあったらきちんとする子なので、来てくれるとは思うけれど。

 

「早いわね、二人とも」

「あら、あなたもちゃんと来るのね、式神さん?」

 

気が付いたら、後ろにルーミアが立っていた。

正直言って、ルーミアは羨ましい。あの定晴と毎日、同じ屋根の下で生活していて、可能なら私もそうしたいところだし、それならもういっそ私の屋敷まで定晴を拉致して、藍の世話のもと一緒に生活をしてもいいと

 

「なにこれ」

「あら、あなたは初めて?意外と、紫って定晴のことになるとトリップするのよ」

「はっ」

 

危ない危ない。新婚生活まで進んでいた。

人間と妖怪が恋をして番になるなんて、前例は多くはないけれど…しかし、ないわけではないのだ。新婚だって、なれるはず。

 

「私は今日お酒はいいわ。鰻ちょうだい」

「はいはーい。先に紫さんと幽香さんの分出しますね」

 

ミスティアが日本酒と鰻を卓上に置いた。

皆を待ってもいいけど、お酒を目の前にして我慢できる幻想郷住人は多くはない。

 

「いただきまーす」

 

ん~、美味しい。

ここの料理、雰囲気だとかもあるのかもしれないけど、藍にも劣らない味がある。特に、ここが押し出しているヤツメウナギは本当に美味しいので、まだ食べたことのない人にオススメしたくなるような一品だ。

 

「あら、紫はお酒飲むの?」

「素面で惚気とか聞かされたくないわ」

「…それもそうね、私にも一本」

 

幽香の追加注文。愚痴や惚気なんて、酔ってる状態で話を聞くくらいがちょうどいいのだ。

私も幽香も、酔うまでお酒を飲むなんてそうそうないことで…そもそも、大妖怪というのは体質的に弱いのでなければ、酔いづらい。病気などにもなりにくいので、体が頑丈なのだと思う。

ともかく、酔うのが難しいので、ちょっと強めのお酒を飲む。いっつも酔ってフラフラしている萃香のことを、少しだけ羨ましく思えなくもない。

 

「こんにちはー…」

「あぁ…来たわね。当事者が」

 

とうとう本命が来た。

私の作り上げたスキマ連絡網により、私たちに特大の爆弾を投下した本人、東風谷早苗のお目見えだ。

別に嫉妬しているだとか、恨んでいるというわけではない。ただ、定晴は性格と、あと本人の持病のようなあの体質もあってデートに誘っても断られるのだ。なので、どうやって誘ったのかを知ることこそがここで最も重要な議題となる。

 

「失礼しまーす…」

 

既に私と幽香、それに最近力をつけてきているルーミアという大妖怪が多くいる屋台に入るとあってか、随分と緊張している。だが、その緊張はミスティアの笑顔といらっしゃいという声で幾分か和らいだようだった。

 

「冷えおでん?じゃあ大根くださーい」

「はーい」

 

早苗は冷えおでんを頼んだ。大根に加えて、白滝と卵も。

おでんという料理がお酒とよくあうものであるのは否定しないけれど、それでも夏場とはいえ冷えたものを提供するのはどうなのだろう。そして、それに果敢に挑戦する早苗も。常日頃から、常識に囚われてはいけないと唱えているだけはある。

 

「それじゃあ早速聞かせてもらおうかしら。どうやって定晴をデートに誘ったの?」

「誘った…っていうわけではないんですけど…」

 

そこから、早苗の軽い説明を聞く。

定晴の式神のユズの能力を調査するときに迷惑をかけたから、律儀にその謝罪とお礼をしに行ったときに、神様二柱のおせっかいにより、お出かけをすることになったのだという。

 

「やっぱりお礼とか謝罪とか、そういう建前が必要なのかしら」

「定晴は約束事は守る主義だから、実際そういうのを使えば定晴をお出かけに誘うのもできるはずよ」

 

定晴は外の世界で信頼が重要な仕事をしていたのもあってか、約束事は必ず守る。少なくとも、私情で約束を反故にすることはない。

ただ、定晴は自分で大抵のことはできてしまうので、困るということはない。私のスキマ、定晴ならいつでも使っていいんだけど、呼んでくれないしなぁ…

 

「紫なら」

「え?」

「あなたなら、スキマで誘拐して無理やりお出かけできるでしょ。前に、有無を言わさずに外に連れ出されたこと忘れてないわよ」

 

ルーミアに詰められて思い出す。そういえば一か月ほど前に、お菓子を作ってもらいたくて定晴たちを外の世界に送ったのだった。

確かにそれを使えば定晴をお出かけに連れ出すこともできるだろう。ただ…

 

「それじゃだめよ。連れ出す、じゃなくて誘いたいんだもの。デートってやっぱり双方の合意が必要だと思うのよね」

「じゃあそもそもスキマ拉致をやめなさいよ!やってることがミキと同じよ!」

「うっ、それは…」

 

ミキも私と同じように、ポータルを生み出して転移ができる。確か夏の始めの海水浴は、ミキの拉致から始まっていたはずだ。

あれはまあ、ミキがいなかったら私がやってたしそれはいいのだけど…

 

「ルーミア、紫はこういう性格だから諦めなさい。その場で思いついて実行するタイプだから」

 

幽香とはもう何百年の付き合いになるので、やはり私のことを理解してくれている。

前々から悩んでいることや考えていることは即決しないのだけど、その場で思いついたことはすぐに実行したくなるのだ。その場で実行できなかったことが、今もモヤモヤと私を悩ませている。

 

「ん-…紫さんって幻想郷に定晴さんが来る前から知り合いだったんですよね?それに、たまに会うくらいの」

「そうね。私とミキと定晴は前々からの友人ね」

「だったら、なんでその時にアタックしなかったんですか?こう言ったらなんですけど、ここライバル多いですよ?」

 

早苗の指摘はもっともだ。

私が定晴のことを好きになったのは結構前なのだから、その時にアタックをすればよかった。いや、アタックはしていたのだ。

 

「定晴、私が好きって言っても冗談だって受け取るから…」

「「「あー…」」」

 

他三人も思い当たる節があるかのように、苦笑する。

定晴の体質は私たちもよく分かっていない。いや、現状は理解しているのだけど、ではどうするかと言われると特になにもない。だからこそ、私たちは定晴を惚れさせたいのだ。きっとそれで解決する。

ただ、定晴の体質もそうだけど、定晴自身あまり恋愛的な話は興味がないようだ。ミキに妻がいると聞いたときも、特に深堀せずに「へー」で終わっていたし。

 

「あの…」

「あら?」

 

声をかけられて、後ろを見る。

そこには七色に光る翼がきれいな、吸血鬼の妹、フランドール・スカーレットが立っていた。メイドや門番の姿はなく、一人のようだ。

 

「一人かしら」

「うん…ちょっと、気になって…」

 

この子もスキマ回線に入っている。この子が恋に正面から向き合ったから入れて欲しいと、ルーミアに言われたからだ。

見た目は小さく、人里の子供と同じくらいの大きさしかないけれど、しかしその実五百歳ほど生きている大妖怪だ。最近では精神的に成熟してきて、思いやりだとかを覚えてきているという。

 

「ほら、座ってちょうだい」

「うんっ」

 

ルーミアの隣にフランドールが座る。

一応早苗の話と私たちの見解を伝えると、フランドールは少し悩んだような顔をした。

 

「お礼かぁ…むしろ、私がもっともっとお礼しないといけないもんなぁ…」

 

かつてのフランドールは狂気に蝕まれていた。紅霧異変のあと、それなりに落ち着いたそうだが、それでもまだ狂気は健在だった。

そんな狂気を祓ったのが定晴なのだという。定晴の浄化の力で、フランドールの中にある狂気を消してしまったのだと。だがまあ、不動の異変のあれを見るに、完全に消えたわけではなくて極めて薄くなっただけらしいけど。

 

「フラン、最近は狂気は大丈夫って言ってたわよねー」

 

ルーミアが揶揄うように言う。その顔はまさにいたずらしているかのような表情で、そんなルーミアに対して顔を赤くしていくフランドールは言った。

 

「お兄様のことを考えたら、全部落ち着くもんっ」

 

どうやら恋をしているときは、狂気に蝕まれている暇なんてないみたいだ。

幻想郷の管理者として、定晴によって友好的な妖怪が増えることを嬉しく思う。ただ、それがライバルなのは…ちょっといただけないけど。

 

「折角だからもっと皆の定晴との話を聞きましょ。何かヒントがあるかも」

「いいわね」

「えっ」

「仕方ないわね」

「お兄様との…」

 

私たちの夜は更ける。定晴を落とすための作戦会議だ。

 

 

因みに、冷えおでんは早苗が微妙な顔をしながら食べてた。やっぱりあまり美味しくないんじゃない。




ミスティア「美味しいって言ってくれてる人もいるんですよ」
早苗「私には合わないかなぁ…」
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