東方十能力   作:nite

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三百七十三話 東京デート

早苗と出かけることになることを、なぜか紫が知っていた。

紫は妙に快くスキマを開けてくれて、俺たちは外の世界へとあっさり来たのだった。

 

「懐かしい…」

 

暑い日差しの中にある涼しい風に吹かれ、緑の髪を揺らした早苗は呟いた。

俺は一か月前にも来たが、早苗はしばらく来ていない。懐かしいと思うのも仕方のないことだろう。

俺は外の世界でよく見るジーンズとシャツ。早苗はかわいらしいワンピースを着ている。早苗が巫女服以外の服を着ているのを見たことがなかったのでとても新鮮だ。

 

「今日は、ありがとうございます」

「気にすることじゃない」

 

俺に向かってペコリと頭を下げる早苗。

あの神様二人の意思はよく分からないが、頼まれてきたのだ。それに、早苗と二人で出かけるというのも新鮮なので、迷惑だなんて思っていない。

 

「東京は来たことがないので、案内よろしくお願いします」

「俺だってもう二年も経ってるんだ。知らないところも多いぞ」

「では、それを楽しみながら行きましょう!」

 

早苗よりも後に幻想入りしたとはいえ、それでも二年のブランクがあるのだ。俺が幻想郷で過ごしている間に建物が変わっていても何も不思議ではない。

そこに関連して、思い出したことを早苗に尋ねる。

 

「そういえばあの頃にあった守矢神社ってどうなったんだ?」

「今は跡地だけありますね。もしかしたら工事されて駐車場にでもなってるかもしれません」

 

あの頃からもう何年も経っている。あの時存在していた神社が、本殿そのまま幻想郷に移動したのであれば…なるほど、確かに何も残っていないだろう。

守矢神社は信仰が薄くなったから幻想郷に移動したと聞いたが…だとしても、神社が消えてしまい不思議に思う人はいなかったのだろうか。幻想郷に入ったら忘れられるとはいえ、空き地が突然生まれたら変に思う人も多いだろうけど。

 

「さあ、じゃあショッピングです!」

「分かった」

 

早苗に声をかけられ、思考を中断する。今思えば、俺の家と俺の存在だって突然消滅しているはずなのだ。守矢神社を心配するよりも、自分のことを考えた方がいいだろう。

 

早苗の希望はショッピングだった。幻想郷に持ち込んでも大丈夫な範囲で、お土産を買いたいとのこと。

 

「一応、お二人のお願いですし」

「まあな」

 

このお出かけは、神様たちに希望されたことが、そもそもの原因だ。早苗的にも、それで何もお返ししないのは許せないのだろう。

 

「何を買うんだ?」

「そうですねぇ…電子機器は紫さんに弾かれちゃうので、やっぱり服とかですかね」

 

河童のテクノロジーがあるとはいえ、外の世界の機械工学技術は幻想郷に持ち込んではいけない。無縁塚に流れてくるような、ひと昔前の技術がギリギリ許されているのだ。

因みに、今の無縁塚に流れてくるのはポケベルとかそのレベルだ。しかも通信環境がないので使えない。

それに対して、服はいくらでも持ち込んでいい。合成繊維は幻想郷じゃ作れないから問題ないらしい。でも、妖怪の山の地下に石油があるって聞いたから、もしかしたら河童なら合成繊維も再現できるかもしれない。

 

「幻想郷で違う服着るのか?」

「実はあまり…これも、昔の服でして……似合います?」

「ああ、似合うぞ」

 

幻想郷で早苗が巫女服以外を着ているのを見たことがない。諏訪子や神奈子も違う服を着ているとこを見たことがないし、同じ服ばかり着ていると思われる。

一応季節に応じてマイナーチェンジはしているみたいだが、やはり大きく変化はしない。服を買っても着るかどうか…

 

「まあ、やっぱり新しい服着たいじゃないですか」

「それもそうか」

「というわけで行きましょう!」

 

人混みの中を進む。

今は八月の中旬ということもあってか、夏休みらしき学生の姿も多い。お盆が近いのも相まって人の量はとても多く感じる。帰省する人も多いと思っていたのだが、やはり都会は母数が多いこともあって人が減る気配がない。

そんな多くの人々の姿を見て、思う。

 

「東京だと、早苗の髪色も溶け込むな」

「あはは、小さい頃はよく揶揄われたんですけど、もう気にしなくなりました。それに、あっちは不思議な髪色が多いですからね」

 

俺は黒髪なので、地毛が日本人にはない色をしている人の気持ちは分からない。

ただ、幻想郷では魔理沙や咲夜を始め、日本人にはあまりいない髪色をしている人物は多い。それでも、早苗のように鮮やかな緑色をしている人はいないけれど、慣れたのだろう。

東京では奇抜な髪色をしている人も多いので、早苗の髪色も目立たない。虹色のアフロとか、幻想郷でも見たことないぞ。

 

「早苗、こっちだ」

「え?」

 

人混みを抜ける最中、早苗を連れて少し道を逸れる。大通りに比べると人が少なく、とても歩きやすい。

 

「この道を真っすぐ行ったら早いぞ」

「おお、流石定晴さんですね」

 

一応ここらへんの地理は把握しているつもりだ。特に、人目につかない場所についてはほとんどを網羅している。やはり、何でも屋の仕事をするうえで、目立たない場所や見つからない場所というのは必須だったのである。

早苗と雑談しながら歩くと、先ほどの大通りに出た。目の前には大きなアパレルショップが聳え立っている。

 

「わぁ…あっちにも、これくらい大きなお店があってもいいと思うんですよねぇ」

「それはそうだが、需要的にも供給的にも難しいだろうなぁ」

 

河童が可能性として再現できるかと考えながら、早苗と共に入店。

一般的に、男というのは女性用エリアに入ることを躊躇い、もし入るとするのであれば非常に縮こまりながら「仕方なく入っている」感を出しつつ過ごすところだ。

ただまあ、俺は正直この雰囲気に慣れているので今更腰が引けることはない。それ以上に、早苗の服を気にしている。

早苗が服を選んでいるのを見ていると、ふと早苗がこちらを向いた。

 

「定晴さんはアパレルの経験が?」

「あるが女性エリアになることはないから、あまり期待するなよ」

「大丈夫です。定晴さんを信じてますから」

 

そういうわけで、俺は早苗の服を選ぶことになった。

幻想郷ではあまり着る機会がないかもしれないが、早苗が満足するような服装に仕上げたい。やるならば、妥協なく最後までだ。

お金に関しては、俺の貯蓄にプラスして、なぜか紫がお小遣い的なのをくれたので問題ない。心置きなく、服を選ぶとしよう。

俺が服を選んでいる間に、早苗も近くに服を見ている。その中で、ちょっと気になるものがあったようだ。

 

「定晴さん、これどう思います?」

 

早苗が見せてきたのは、服の丈が異様に短く、着たら確実にへそが出るような服。若者が着ているイメージがあるが、俺はあまり魅力的には感じない。

早苗が着ているところをイメージし…やはり、合わない。

 

「ギャップ的なのは出ると思うけど、早苗のイメージとは合わないな」

「まあ知ってましたけど。でも私の巫女服って結構露出多いですよね」

「だとしても、その服は出すぎなんじゃないか?」

 

霊夢の巫女服もそうなのだが、早苗の巫女服は脇が出ている。それに、暑い時期だと下に何も着ていないのか、激しく動くとへそが見える。

そんな露出の多い服を、早苗も霊夢も着ている。巫女ってもっと露出少なめの清楚なものを着用しているイメージだったし、実際そうであるはずなのだが、なぜか幻想郷の巫女たちは露出が多い。

 

「前はどういうのを着てたんだ?」

「このワンピースとか、ブレザーとか…一応身だしなみには気を付けていたので、色々着てましたね。ズボンは神奈子様に笑われたので着なかったんですけど」

 

早苗はそもそもの見た目が非常にいい。相当奇抜な服装でもなければ、どんな服でも大抵着こなすことができるだろう。

だからこそ、俺がするのはそれ以上だ。早苗の魅力を使うのではなく、早苗の魅力を引き立たせるような服を選ぶことが重要。

そうして、俺は一式そろえて、早苗に渡した。

 

「大きさが分からなかったから、もし試着のときに合わなかったら言ってくれ」

「はーい」

 

一応アパレル店員の経験から、なんとなく見た目通りの大きさを選んだが、実際のサイズを知らないのできつかったりゆるかったりするかもしれない。

正直、俺が選んだものできつかったら早苗がショックを受けてしまうかもしれないんだが…今のところ、試着室から声がかかることはない。

 

「着替えましたー」

 

早苗が試着室のカーテンを開けて出てくる。

膝丈のスカートに、薄い青色のブラウス。早苗は体型に起伏があるので、下品にならない程度にスタイルを主張するようなものにしてみた。

 

「なんだか、選んでもらった服を着るとくすぐったいですね」

「早苗的にどうだ?」

「とてもいいです!シンプルながら、動きやすいのもいいですね」

「スカートだから激しく動くなよ?」

 

カーテンが閉まり、またガサガサ音がしたのちに、元のワンピースに戻った早苗が出てきた。

 

「ちょっとサイズだけ確認したら買っちゃいましょう」

「まだ一個しか着てないけどいいのか?」

「定晴さんがいいと思ったなら、私もいいと思います」

 

先ほども言ったが、俺はあまり女性服に関しては自身がない。デザインや裁縫はできるけれど、既存のものを組み合わせるのに関しては、経験値不足だ。

俺がそれを説明しても、早苗は買う意思を変えなかったので、俺の方が折れた。どうやら、早苗は一度決めると何を言われても意見を変えないようだ。

 

「よし、私の分は終わり!定晴さんのも選びましょう!」

「俺もか?」

「当たり前じゃないですかー。折角来たんだから、買わなきゃ損ですよ」

 

正直な話、俺はあまり自分の衣服に関しては意識していないのだけど…早苗に連れられメンズのフロアへ。

今度は早苗が選ぶと言うので、俺は嬉々として服を物色している早苗を眺める。ダメージジーンズにワイルドなTシャツ…

 

「早苗、俺をロックバンドマンにするつもりか?」

「ええ!?」

 

そうして、何度かの試行を重ねたうえで、何とも無難というか普通の服を買い、昼になった。ちなみに、俺の服も早苗の服も、俺の幻空の中に片づけた。人目につかないところで幻空に片づけるのなら、特に問題はない。

人混みの中を歩きながら、昼食をどうするか話し合う。

 

「やっぱりこっちに来たのなら、ジャンクフードとか食べたいですねー」

「バーガーとか、チキンとか?」

「あっちは和食が多いですから」

 

幻想郷が古式日本の生活様式をしている影響か、宴会料理も人里の食事処も和食がメインだ。

外の世界から流れ着いた人による洋食店もあるけれど、それもプレートとかステーキとかが主であり、巷でジャンクフードと呼ばれるようなものは提供されていない。ハンバーガーやチキンが、幻想郷で作れないというわけではないだろう。外の世界ほど大量の油を用意するのは難しいが、それでも作ることは可能なはずだ。

だがまあ、多分、準備以上のニーズがないのが事実だろう。あれらの料理というのは、供給が安定するからこそ実現できるのだ。輸出入という文化がない幻想郷では、やはり作るための労力が比にならない。

 

「ハッピーセットでも頼むか?」

 

俺が冗談交じりでそんなことを言うと、早苗は悩んで。

 

「…正直、ちょっとありかなって思ってます。あっちじゃ珍しいので」

 

ハッピーセットのおもちゃを見て嬉しそうにする早苗…微笑ましいとしか言えない。

だが、早苗は俺の顔を見て思い直したように言った。

 

「でもやっぱり普通に食べましょう。そっちの方がいいです」

「む?なら行こうか」

 

若干早苗が顔を赤くしているので、恥ずかしかったのだろうかと思う。確かに、早苗はこれでも高校生の見た目をしているので、その年齢でハッピーセットを楽しむのは恥ずかしいのかもしれない。

多分、俺が微笑ましい顔をしていたのが、早苗を正気に戻した原因だと思う。もう少し我慢すれば、実際に見れたのかもしれないと言うのに。

 

「んー、本当は月見バーガーとか食べたいんですけど、ないですねー」

「俺はシンプルなやつで」

「じゃあ私も同じので」

 

都会ということもあってか、客は多かったけれど、カウンターのようになっている席に二つ空いているのを見つけたので、そこに並んで座る。

久しぶりに食べるな…

 

「「いただきます」」

 

そこまで大きいものではないとはいえ、やはりバーガーはかぶりつかなければ食べれない。

俺は大きく口を開いて食べつつ、ちらりと横を見ると、早苗も口を大きく開けて食べていた。俺が見ていることに気が付いた早苗が、顔を赤らめて笑う。

 

「見られるの、恥ずかしいですね」

「すまん」

「いえいえ」

 

そんなこんなで腹を満たして、午後。

一応紫の迎えが夜の七時ということになっている。早めに夜ご飯を食べるか、幻想郷に戻ってから食べる

かは決めていないが、そこまで大立ち回りをするほどの時間も残っていないという事実を確認する。

 

「何か行きたいところはあるか?」

「うーん…でしたら、ゲーセンがいいです!地元だと大きいゲーセンがなかったんですよ」

 

早苗の地元がどこかは知らないけれど、元々は諏訪神社として諏訪子が住んでいたということを考えるとなんとなく分かる。諏訪湖という場所が、日本の長野に存在している。

 

「ゲーム経験はいかほどかな」

「幼い頃から、巫女業をしていたので…でも、ゲームは好きですよ。アニメとか、漫画とか、結構読んでました」

 

早苗は外の世界では、結構サブカルに触れる生活をしていたみたいだな。神社に住んでるから、そういうものに触れ合う機会はないと思っていたが。

ゲーセンの場所は俺も分からないので、適当にフラフラしながら目的の場所を探す。途中でジュースを買いつつ、三十分ほど歩いてやっとゲームセンターを見つけることができた。

パチンコ店とは違う騒がしさが、ゲームセンターに来たのだと言う実感を持たせる。

 

「どういうのが得意なんだ?」

「日頃から慣れているので、シューティングは得意です。多分」

 

早苗は、霊夢たちと同じように攻める弾幕がメインだ。敵を狙う技術というのは、日々磨かれて上達しているのだろう。変な操作でもない限り、早苗は正確に敵を捉えられると思う。

だからこそ…

 

「なら、いつもとは違うことをしようか」

 

シューティングは幻想郷でいくらでもできる。ゲームといいうのは、現実においてできないことをするためのものだと個人的には思っている。そのため、幻想郷でもできないようなことをした方がいい。

 

「むむむぅ…」

 

早苗が挑戦しているのは、ポテチの大袋が取れるクレーンゲーム。既に二百円がこの台に吸われている。

 

「あー!なんでそこで放しちゃうんですか!根性が足りませんよ!」

 

早苗はクレーンのアームに文句を言っている。このアームはそれなりに乱数が存在しており、強くつかむときと弱くつかむときがあると聞いたことがあるが…生憎と、俺はゲーセンの店員をやったことはないので、真実のほどは定かではない。

早苗が四百円目を投入したあと、早苗がこちらを向いた。

 

「選手交代です!定晴さん、お願いします」

「俺かよ」

 

早苗が期待した様子でこちらを見ているので、仕方なく交代。

俺も挑戦してみるけれど、やはりポテチは掴めない。アームくん、今日は反抗的なようだ。

 

「だめですね、別のやりましょ別の」

 

早苗は、俺が失敗したことで心が折れたらしく、ポテチの興味を失ってしまった。ここで取れたらかっこよかったのだけど、俺もあまりクレーンゲームの経験はないのだ。悪く思うな。

他のクレーン台を見ていると、あるフィギュアに早苗が目を止めた。

 

「あ、霊夢さんです!霊夢さんのフィギュアがありますよ!」

 

そこには、確かに霊夢のフィギュアが飾られている。巫女バージョンと書かれているけれど、巫女じゃない霊夢のバージョンがあるのだろうか。

 

「そういえばこっちでは架空のものなんですよね」

「なんか、そうやって人々に架空のものだと認識してもらうことで、流入を防いでるって紫が言ってたな」

 

外の世界では東方プロジェクトの名前で知られているカルチャーだ。製作者のZUNが何者なのかは知らないけれど、紫と面識があったりするのだろうか。

 

「これを取って霊夢さんに渡すの、面白そうですね」

「ふむ、確かに反応が気になるな」

 

霊夢のことなので、ふーんで終わりそうな気もするけれど、もしかしたら面白い反応をしてくれるかもしれない。霊夢は外の世界の状況を知らないはずなので、自分がフィギュアにされているなんて思ってもいないはずだ。

 

「よし、挑戦です!」

 

……六百円で取れた。早苗の執念のようなものを感じた。

霊夢のフィギュアを幻空の中に収納して、二階に進む。そこは音ゲーやプリクラ、コインゲームなどが並んでいるエリアだ。

 

「定晴さん、プリクラって興味あります?」

「興味あるかどうかで言えば、あまりないけど…」

「ですよねぇ。私もあまりないですけど」

 

幻想郷の少女たちは皆美人なので、わざわざ盛らなくてもかわいい写真が撮れる。そういう意味でも、早苗にプリクラは必要ないだろう。

早苗が興味を持ったのは、それよりも音ゲーだった。

 

「あっちはあまり音楽の文化が発達してないので、こういうのはちょっと興味がありますっ」

 

やる気満々といった感じで筐体の前に立つ早苗。

幻想郷にはCDは勿論、レコードもあまりない。外の世界から流れてきたり持ち込まれたりしたものだけしかなく、娯楽として楽しむにしては少々心もとない。プリズムリバー楽団や、俺は聞いたことがないがミスティアたちがバンドをやっているらしいけれど、それでも音楽娯楽が十分だとはいえないだろう。

 

「いざっ」

 

早苗の挑戦。百円で三曲遊べる。

一曲目は、昔のアニメの曲。どうやら早苗が知っているアニメのオープニングらしい。低難易度で挑戦したにしても、中々いいスコアが出ていた。

それに調子に乗ったのか、一つレベルを上げて二曲目。これまた昔のアニメの曲。どうやら、アニメが好きだという話は嘘ではないらしい。ただ、レベルを一つ上げただけでこうなるのかというレベルで点数が落ちたので、早苗は諦めてレベルを戻した。

三曲目、たまたま見つけた早苗のテーマソングを東方ジャンルから選曲。「私、こういうイメージなんですねー」なんてことを言いながら、フルコンボをたたき出した。相性がいいらしいが、それは偶然か。

 

「んー、いい感じに体を使ってちょうどいいですね」

「満足そうだな」

「はい。こっちだと、私のイメージがああなのはちょっと意外でしたけど」

 

テーマ曲なんて、えてしてそういうものだ。

そうしてゲーセンで遊んでいると、いつも間にか午後五時を回っていた。随分とゲーセンで遊んだものだな。

 

「んー、疲れましたね、ちょっと休憩しましょう」

 

近くにあったカフェの中に入る俺たち。幻想郷にはこういうものもないので、ただのカフェでも少し新鮮感がある。

それぞれドリンクを注文して、座席に座る。早苗は既に満足そうな表情をしている。

 

「久しぶりにこっちに来ましたけど、楽しいですねー」

「娯楽の量じゃ、あっちよりも多いからな」

 

やはりそこは科学技術の差だろう。幻想郷の文化レベルが未だに昭和。よくて平成初期なので、まだまだ娯楽には乏しい。

河童たちが大衆的なおもちゃを開発しない限りは、あまり進歩もあるまい。

 

「それに、私が楽しかったのは…」

 

早苗がちらりとこちらを見る。そして沈黙。

俺が何か言おうと思って口を開く前に、早苗が話を続ける。

 

「元々はお二人のお願いだったので、私がこんなに楽しんでいいのかって思いましたけど…でも、お二人の気持ちも分かるんです」

「どういうことだ?」

「このままじゃ……私が置いてかれちゃうって」

 

何か、強い意志を持った表情で、俺を正面から見つめる早苗。なんだ、この雰囲気。

ちょっとだけ潤んだ目で、頬を赤らめて、早苗が言った。

 

「ずっと前から、好きでした。私とも、お付き合いを考えてください」

 

静寂。周囲にはほかにも客がいるはずなのに、その音が聞こえなくなるほどに思考が停止した。

 

『きたあああ!恋よ!愛よ!流石だわー!』

『黙れ、愛!』

 

魂の声により、正気に戻る。目の前には、顔を真っ赤にした早苗がいる。

 

「えへへ…恥ずかしいですね」

「いや、えっと」

「大丈夫です。私も、ルーミアさんたちのグループにいるので、事情は聞いてます。だから返答は求めませんけど…」

 

身を乗り出して、小さくも力強い声で言った。

 

「私のことも、意識してくださいね」

 


 

紫の迎えにより、幻想郷に帰還する。その時紫に会ったのだけど、早苗と目を合わせると、満足そうな顔をしつつもライバルを見るような目つきをしていた。

もしかしたら、前もって早苗は告白のことを紫に伝えておいたのかもしれない。

 

「定晴さん、本当に今日はありがとうございました!」

「いや、気にするな。俺から言ったことだしな」

 

動揺はするけど、表に出ない。恥ずかしがったりすることもない俺自身に嫌気がさしつつ、早苗と別れる。

紫のスキマは守矢神社に繋がっており、このあと俺の家に繋がる手筈だ。俺は、早苗と別れてスキマに入り…後ろから声が聞こえた。

 

「あなたと会った、あの日から、ずっと大好きですからねー!」

 

その声に、やはり感情が動かない俺に、またもや嫌気がさした。




諏訪子「今日は祝いだー!」
神奈子「めでたい日だねー」


文「昨晩、告白のようなことを叫んでいたことについて一言お願いします!」
早苗「ほっといてよぉ」
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