東方十能力   作:nite

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三百七十五話 夏野菜は豊作

夏野菜と言われて、何を思い浮かべるだろうか。

夏が旬な野菜というのは結構多く、その多くは幻想郷でも栽培されている。特に、きゅうりの生産量は多いらしく、そのほとんどが河童のところで栽培されている。河童の大好物だからなのか、めちゃめちゃ作ってる割に消費が追い付いているらしい。

 

「定晴さん、この区画が終わったらナスも収穫しますよ」

「はいよ」

 

俺は今、人里の手伝いで、人里にある大規模区画の畑に来ていた。現在収穫しているのはトマトだ。

この畑は命蓮寺の近くにあるのもあって、命蓮寺のメンバーは総出動。聖以外の人とは話したことがなかったが、先ほどまとめて自己紹介してもらった。人里にある寺なのに、やたらと妖怪が多かったことが印象的だ。

人里で困っていることがあれば助ける、という考え方は非常にいいものなのだが、見返りとして信仰してもらえると嬉しいみたいな事情があるっぽいので、微妙な気持ちになった。

 

「定晴、ご主人が奇想天外かつ天才的な絡まり方をしたので助けてくれないか」

「星か…本当におっちょこちょいなんだな」

「宗教関連の仕事なら優秀なんだがねぇ…」

 

ネズミの少女、ナズーリンに、毘沙門天の使いである寅丸星の救出を求められる。

先ほども、収穫のための道具の山を崩し、その下に生き埋めにされた少女だ。ナズーリン曰く、仕事をさせれば不思議と優秀とのことだが、伝説の宝である宝塔を失くしたことがあるなど、今のところ優秀と思えるような面は見ていない。

ナズーリンの案内で星のところに行くと、本当に驚くことに、全身にジャガイモの蔓を巻き付けて地面に倒れていた。さながら、拘束用トラップに引っ掛かった犯人だ。

 

「星…」

「そ、そんな目で見ないでくださいー!」

「いやいや、ご主人がやらかしたことだろ?大人しくしていたまえ」

 

腕の外側に蔓が巻き付いており、星はまったく動くことができないようだ。どんなことをすればこんな絡まり方をするのか知りたいが、それはともかく、輝剣でさくっと蔓を斬り落とす。

 

「ふぅ、助かりました」

「ご主人はだめだね。収穫作業に向かない。村紗と一緒に料理をしてきたらどうだい」

「料理はもっと危ないんじゃないか?」

「危険だと分かってるから、いつもよりかは注意力が増すんだよ」

 

ナズーリンは星のことをよく理解しているようだ。そんなことを言われた星は泣きそうな顔をしているけれど。

しかし、毎回こんな風に作業を中断することになってしまっていては作業を手伝ってもらう意味がないので、料理の方に移動してもらった方が賢明であろうという判断は正しい気がする。最初は色々と言い訳をしていたが、ナズーリンに諭され、星はトボトボと命蓮寺の方に歩いて行った。

 

「さて、聖が呼んでいるからナスの区画に移動しよう」

 

星を見送ったあとに、ナスの区画へと移動。そこには、筋骨隆々な雲が高速でナスを収穫している奇妙な光景があった。

 

「あ、定晴さん。星が寺に歩いて行ったんですが…」

「あれは気にするものではないよ聖。それよりも、雲山は頑張っているね」

「一輪も頑張ってくれたらいいんだけど…」

 

雲山というのは、雲居一輪と共にいる入道であり、体が雲のようになっている無口な男だ。

作業ペースがやたらと早く、それに気圧された一輪の速度が見るからに遅い。雲山が頑張ってるからいいやなんて思っていそうだ。

とはいえ、この二人に任せておけばこの区画は大丈夫そうである。雲山、ナスが好きなのだろうか。

 

「うーん、なら定晴さんはスイカを回収してもらえます?」

「分かった。全部か?」

「収穫可能なら」

 

俺は幻空に収穫したものを入れておくことで、台車などがなくてもスムーズに作業を進めることができる。蔓から切り離した瞬間に幻空に入れることで、劣化することなく運ぶことができる。

ナズーリンはキュウリの収穫に向かうようだ。人里で食べる分のキュウリは、ちゃんと人里で作られている。

 

「これがスイカ畑か、思ったよりも大きいな」

 

スイカというのは、他の野菜とは違って日常的に料理に使うようなものではない。そのため、他のものに比べると需要は少ないはずなのだが、畑は他の野菜の畑と同じくらいの広さを誇っていた。

スイカはトマトなどに比べると蔓が長いので、斬りやすい。勿論、剣の話だ。

俺は走りながら二振りの剣で両サイドの蔓を切断していく。そして、切断したはたから幻空に入れている。農業用機械がない幻想郷では、こうして効率を上げなければ仕事が終わらないのだ。人里の人々は数日に分けて収穫するらしいが、効率的にできる方法が存在するならば、使わない手はない。

 

「む?」

 

ふと、手を止める。

そこには、転がっている酒瓶と、萃香が転がっている。スイカ畑に萃香…小学生の考えるダジャレかな。

 

「萃香ー、起きろー」

 

取り敢えず、邪魔なので起きてもらう。スイカをつまみ食いしていたわけではないようだけど、なぜこんなところで寝ているのだろうか。

何度か体をゆすると、萃香の目が開く。

 

「ん~、なに~?」

「おい、寝ぼけてんじゃねえ。起きろ」

 

強く揺すり、しかし起きない。なので、水を魔術で生成して、萃香の顔面にシュート。

 

「ぶばばば……なにすんのさぁ!!」

「はい、おはよう」

 

野菜に水をあげるよりも激しく水をかけることで、やっと目を覚ました萃香。畑で寝ていたせいで、萃香の顔には土が付着している。

 

「こんなところで寝てるからだろ」

「え?あれ?ここどこ?」

「人里の畑だ」

 

立ち上がった萃香は、周囲をキョロキョロと見渡した。

そして、思い出したように言うのである。

 

「そうだ。昨日屋台で飲んだあと帰る途中で墜落してここで寝たんだ!」

「チョップ!」

 


 

野菜の収穫を終え命蓮寺に戻ると、収穫したばかりの野菜でスープが作られていた。収穫をした人たち全員への差し入れらしい。

 

「定晴さん、ありがとうございました」

「気にするな。一応見返りもあるしな」

 

給料は貰っていないが、野菜を買うときに値引きしてくれるという条件を貰っている。

収穫した野菜はどれも中々にいい出来だったし、人里で買い物を主にしている俺にとっては値引きというのはとてもありがたいことだ。

 

「私のはー?」

「畑で寝ていた人にはありません!」

 

スープを求めている萃香に、村紗が怒っている。村紗は、村紗水蜜という名前の妖怪であり、命蓮寺が昔船の形をしていたことに船長をしていたらしい。

 

「村紗、一応萃香は起きた後で手伝ってたから…」

「あら、そうなの?んー、じゃあちょっとだけね」

「やったー、ありがとう定晴!」

 

野菜スープにありついた萃香が、美味しそうにスープを飲む。起きてから何も食べていなかったので、お腹がすいていたらしい。

そんな萃香を眺めていたら、聖が近寄ってきた。

 

「また頼むかもしれませんが、その時はまたよろしくお願いしますね」

「あいよ」

 

聖の声に、俺は気軽に返事した。

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