東方十能力   作:nite

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三百七十六話 吸血鬼の朝は早い?

フランドールの朝は早い。

本来の吸血鬼というのは昼間に眠り、夜に活動するような種族だ。しかし、幻想郷の生活にも慣れ、好きな人が昼間に活動しているとなれば、やはり昼間に起きるしかあるまい。

 

「おねーさまー!」

 

そして、フランは姉の部屋に入って、まだベッドで寝ているレミリアの上にダイブするのだ。一応咲夜も起こそうとしているのだけど、フランが咲夜を止めて毎朝ダイブしている。

フランにとって、これはルーティーンだ。大好きな姉と合法的に密着できるタイミングを逃さない。

 

「おはよー!」

「うぐぅ…毎朝飛び込んでくるのやめてちょうだい…」

「やだー」

 

アクロバットに姉を起こして満足したら、次は大図書館へ。

パチュリーが倒れていないか確認するのだ。小悪魔もいるけれど、二人揃って徹夜して研究していることがあるのだ。咲夜が姉の世話をする間に、フランが見て回るのだ。

 

「パチュリー!」

 

大図書館に入るなり、大声で呼びかける。すると、奥の方で何かがモゾモゾしていた。

フランは近づき、確認。それは本の山であり、まるで生物のように蠢いている。

 

「パチュリー?」

 

この本の山の下に何かがいるのか、本の山自体が何かなのか判別がつかない。魔導書、魔術書と呼ばれる本の中には、たまに意思を持って動く本がいるのだ。昔それで頭をボコボコ叩かれ、キュッとしたのはいい思い出。

 

「んあー…」

「パチュリーおはよー」

 

本の中から顔を出したのは、パチュリー。どうやら本の山を布団にして眠っていたようだ。蠢いているからと、即決でキュッとしなくてよかった。

キョロキョロと周囲を見ると、近くに別の本の山に埋もれた小悪魔の姿がある。こちらは足が見えているので、小悪魔が埋まっているのがよく分かる。

 

「二人とも、ちゃんと寝ないとだめだよ!」

「いえ、私たちもここで寝るつもりじゃなかったんだけど…」

 

話を聞いてみると、どうやら実験に失敗して二人とも吹き飛ばされ、そして本棚にぶつかった衝撃で気絶。そのうえに本が降ってきて、現在に至る。

フランからすると、何をしているのかという感想なのだけれど、パチュリーから言わせると、フランも同じように爆発させて大惨事を巻き起こすのでフランが言えたことではないと思う。

 

「ごはんだよ!」

「はいはい…小悪魔、さっさと片づけるわよ」

「はぁい」

 

寝起きのボロボロの状態で本を片づける二人を見て、満足そうにフランは図書館を出た。

そして最後にやってくるのは、正門。さて、今日はどうだろうか…

 

「おはようございます、妹様」

「あ、美鈴起きてるー」

 

フランがここに来るとき、三回に一回は寝ている。妖怪であるという特性を活かして夜中でもここに立っているので、フランとしても責めるつもりはないけれど、やっぱり門番が寝てるのはみっともないと思う。

美鈴は気を感知して、寝ていても悪しき人を追い払うことはできるので、門番の仕事に支障があるわけではないけれど、せめて誰か来たときはいい人でも悪い人でも起きて対応してほしいとフランは思っている。

 

「ごはん食べよー」

「私はここで食べますので、妹様はお戻りください」

「はーい」

 

美鈴はごはんもここで食べている。大雨だとか大雪だとか、レミリアや咲夜でも心配になるような事情で連れ戻さない限り、美鈴はここを移動しないのである。

フランも、それを理解しているので無理に食堂に呼んだりしない。皆で食べた方が美味しいと思っているけれど、美鈴には美鈴の考えがあるので無理強いはしないのだ。フランは聞き分けのよい、大人なのである。

 

「咲夜ー、朝ごはんは?」

「ベーコンエッグです。飲み物は何にしますか?」

「牛乳!」

 

フランは最近よく牛乳を飲んでいる。チルノから、牛乳を飲むと背が伸びると教わったからだ。フランは聡明であり、牛乳を飲むだけで背が伸びるとは思っていないけれど、咲夜曰く牛乳と血液は成分が似ているので吸血鬼的にちょうどいいらしいので、フランは好んで飲んでいる。

紅魔館中を駆け回ったフランより遅れて食堂に入ってきたレミリアを横目に、フランは足をパタパタさせながらごはんを待つ。レミリアが着席し飲み物を決めるまでは、食事は出てこないのだ。曲がりなりにも紅魔館の主はレミリアなので、レミリアが中心になっているのである。

いつか自分が主になったらもっといい生活をするとフランは密かに思っているが、悲しいかな、レミリアとは五歳差なのでフランが跡継ぎになるようなことはそうそうないだろう。

 

「咲夜、お茶」

「かしこまりました」

 

咲夜の返事と同時に、レミリアとフランの前に食事が出現した。料理が冷めないように時間を操りながら料理を用意する咲夜の配膳に、フランはいつも目を輝かせている。

 

「お姉さま!今日はお兄様のところ行ってくるね!」

「あらそう…いいわ、いってらっしゃい」

 

食事中に今日の予定について共有する。レミリアはよっぽどのことがない限り、昼間に出歩くようなことはなく、出たとしても紅魔館の近所を散歩する程度だ。

対して、フランは結構色んなところに行く。最近は専ら定晴のところだが、人里に行ったり、太陽の花畑の方に行ったりすることもある。レミリアは目の届く範囲にいてほしいと思っているが、フランだって恋をするようなお年頃なので、束縛してもいけないと基本的にどこに行くのにも許している。

昔は妹を地下に監禁していたとは思えない変わりようだが、元々のレミリアが過保護すぎだったのだ。むしろ、今の状態こそ正常と言えよう。

 

「ご馳走様!」

 

フランはごはんを食べ終わっても、レミリアが食べ終わるまでは食堂から出て行かない。たしかに最近は定晴への思慕が強いフランだが、姉のことだって大好きなのである。

レミリアと定晴、どっちかを選ばないといけないとき、フランはどちらを選ぶのか。

 

「最近の定晴との関係はどう?」

「なんかいつまで経っても妹みたいに見られてる…」

「それはフランがその呼び方をしてるからじゃない」

 

フランとて、ここまで思慕が強くなるなんて思っていなかったのだ。あの時は、たしかに定晴のことを兄のように思っていたし、恋心を自覚するまでは兄妹のように接していたのだ。

まさか前々からの呼び方がここまで障壁になるとはフランも予想外だった。守矢の巫女も告白したのだし、もうロマンチックに、対等な立場として告白するしかないのではないかと最近のフランは思っている。

 

「咲夜もお兄様のところ行く?」

「いえ、私は仕事がありますので」

 

定晴が過去に咲夜を助けたとき、ちょっと思慕を定晴に抱いた咲夜であるが、今ではその影を見せない。フランが定晴にアタックしているのを知っているのもあるが、咲夜も美鈴に負けず劣らずの仕事人間であり、それを反故にするような感情はすべて押しとどめるからである。

しかし、一度気になってしまうとそう簡単に消えるようなものではなく、咲夜の心の片隅で、未だに燻っている状態だ。レミリアは妹を優先しているので咲夜の恋を応援するようなことはないが、何かきっかけがあれば恋心がぶり返すのではないかとレミリアは思っている。

 

「ご馳走様。今日も美味しかったわ」

「ありがとうございます」

「じゃあ私はお兄様のところに行ってくるねー」

「日差しが強いから、しっかり対策していくのよ」

 

そうしてフランは紅魔館を飛び出した。

夏の日差しに負けないほどの輝く笑顔を持って、定晴の家に飛んでいく。最近のフランは、狂気の欠片もなく元気である。

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