東方十能力   作:nite

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三百七十七話 蝶の妖精

暑さに対してどうにかなってしまいそうなのは、いつものことであり、いわゆる例年通りということになる。しかし、その暑さに対して毎年屈するわけにはいかず、仕事などがあればその暑さに対してどうにか踏ん張りながら外に出る必要があるのだ。

そうして外に出ると、たまに思いがけない出会いをするものである。幻想郷はそこまで広くないとされているが、それでもやはりすべての住人と出会うと言うには広いのである。

 

「こんにちはー」

 

家に帰る途中、木の枝の上に少女が座っていた。妖精のような風貌だが、今まで出会った妖精に比べて羽が鮮やかな色をしており、さながら蝶のようだ。

 

「こんにちは。何してるんだ?」

「んー、特に何も」

 

足をぷらぷらさせながら、そんなことを言う少女。羽の部分から細かい粉が飛んでいるのだが、もしかして鱗粉か?妖精にも鱗粉って存在するのか?

少女は羽を動かしたかと思うと、そのまま木の上から飛び降りてきた。

 

「あなたは何をしていたの?」

「俺は仕事帰りだよ。ちょっとしたな」

 

今日の依頼は引っ越しの手伝いであった。俺の幻空を信頼してもらえるなら、という前提条件をつけて幻空を使用したので、引っ越し作業自体はすぐに終わった。本来であれば結構長々とかかる作業が、俺の場合は幻空に突っ込むだけで終わるからな。

そのため、午前中だけで仕事が終わったのである。出した荷物を整理整頓するのは、俺の仕事の範疇ではないので帰宅。そうして今に至るというわけだ。

 

「私はエタニティラルバ。あなたは?」

「俺は堀内定晴。すぐそこに住んでる」

 

随分と横文字というか、不思議な名前をしている。毎回エタニティラルバと呼ぶのは大変なので…

 

「ラルバでいいか」

「いいよ、定晴さん」

 

未だに鱗粉を飛ばしながら、くるくるその場で回るラルバ。他の妖精に比べるとちゃんと会話ができる大妖精タイプだけど、やはり思考回路は幼いようだ。

 

「ラルバって妖精、だよな」

「そうだよー、私は蝶なの」

「ああ、道理で。羽からすっごい鱗粉飛んでるぞ」

 

俺が指摘をすると、ラルバを自分の羽を見た。そこから、大量の粉が舞っている。

 

「ああ、ごめんなさい。無意識にばらまいちゃってたみたい」

 

ラルバがそう言うと、羽から撒き散らされていた粉が止まり、周囲の空気がちょっとよくなった。特に何の害もない鱗粉のようだったけど、それはそれとして粉が舞って呼吸しづらかったから助かる。

さて、鱗粉が消えてから改めて見ると…本人も言っていた通り、蝶のような見た目だ。俺の第一印象は間違っていなかったということだな。感じる力で妖精だとはわかるが、見た目からするとリグルのように虫の妖怪に見える。

 

「こんなところに住んでるの?」

「ああそうだ。何気に住みやすいぞ」

 

博麗神社と人里の間に住んでいることは、何かといい点が多い。もし幻想郷のことで何かあれば霊夢に聞きに行けばいいし、もしくは慧音でもいい。買い物も近いし、能力を使うことを遠慮する必要もない。

人里に住んでいたら、これらの条件すべてを達成することはできなかっただろうから、幻想郷に来て最初にここに住むと決めたのは間違いではなかったと思う。

 

「ラルバも博麗神社とか行く口か?」

「んー、あそこ風が強くて嫌いなんだよね」

 

ふむ、俺はあそこに強風のイメージはないのだけど…どうやら、蝶ならではの感覚があるらしい。

 

「私、日頃は太陽の花畑にいるんだ」

「幽香のとこか。ん?じゃあなんで今日はこんなところに」

「なんとなくー」

 

どうやら、適当に飛んで流れ着いたらしい。博麗神社の周囲の森というのは、それなりに鬱蒼としているし、危険な妖怪も住んでいる。ラルバも妖精なので、妖怪に襲われても一回休みになるだけだろうが、それでもこんなところに一人でいるというのは危ない。

 

「よければ花畑まで送ろうか」

「え、いいの?よかったー、方向わかんなかったんだよね」

 

迷子だったらしい。

家に帰ってアイスを食べたいところではあったけれど、しかし、ラルバをここに置いていくのも心苦しいので、太陽の花畑まで案内することにした。

俺が歩いていこうとすると、ラルバが空高く飛び上がる。

 

「早く行こうよー」

「ちょっと待ってくれ。暑くないか?」

「日光気持ちいいよ」

 

どうやら、ラルバは太陽に当たるのが好きなタイプらしい。夏の暑さもものともせず、太陽光に体を晒し飛び回っている。

仕方なく俺も飛び上がり、ラルバと同じ高さへ。

 

「じゃあ行こうか…」

 

ラルバを連れて移動。

太陽が俺の体を焼き尽くし、体から汗が噴き出る。気分はまるで炎の罪人…しかし、そんな俺とは反対に、ラルバは機嫌よく飛び回っている。妖精だからというのもあるだろうけど、その有り余る元気を俺にも分けてほしい。

そうして飛ぶこと幾分か。太陽の花畑にたどり着いた。日傘をさしている幽香が、ヒマワリに水をあげているのが見える。

 

「わーい、ヒマワリー」

 

太陽好きなラルバだからか、太陽に似ているヒマワリのことも好きみたいだ。暑さで疲れてしまった俺を抜き去り、一足早く花畑の中に突っ込んだ。

そんなラルバに幽香が気が付いて、その後一拍遅れて俺の存在にも気が付いた。

 

「定晴、いらっしゃい。あの子は?」

「なんか家の近くで迷子になったから連れてきた」

「なるほどね…暑いでしょ。水を用意するから、家に来てちょうだい」

 

流石に暑すぎるので、俺はその言葉に甘えて、幽香の家に入る。

幽香が飲み物を用意している間、窓から外を見ると、ラルバはまだ花畑の上で飛び回って遊んでいた。一人なのに、よくあそこまでテンション高くいられるものだ。

 

「はいどうぞ」

「ああ、ありがとう。助かる」

 

幽香から氷で冷えた麦茶を貰い、一口。太陽に晒されて火照ってしまった体が、休息に冷えていくのを感じる。

まじでこの季節は外に出るときずっとチルノを傍に置いておきたい。体が冷える程度の冷気を魔術で作りだすのは大変なので、チルノがいてくれると助かる。魔術は、強めるよりも弱めるほうが難しい。

 

「大変だったわね」

「まあな。ああいう妖精もいるんだな」

「あの子はちょっと特殊だけど。クラウンピースって知ってる?あれと似たような感じで、ちょっと特殊な妖精っぽいのよね」

 

クラウンピースというと、あの松明で狂気を見せてくる妖精か。妖精たちの暴動のあと、ピースがどこに連れていかれたのか知らないけれど、あれはあれで確かに普通とは違う妖精だった。

妖精の中であんなふうに羽が蝶のようになっているのも見たことがないので納得…と思ったけど、妖精たちは何気に皆無二な見た目をしているので、見た目で特殊だと決めるのはよくない気がする。チルノのような氷の羽を持っている妖精も見たことないし。

 

「んー、花の世話と雑談とどっちをすべきかしら」

「好きな方をしたらいいんじゃないか?って言っても、俺はもうすぐ帰るが」

「好きな方だったら、私はあなたと雑談するわよ。だから、もう少しここにいて?」

 

なんだか妙に潤んだ目でこちらを見てくる幽香。そういえば最近暑くてこっちまで来てなかったな。

そうして俺は、いつの間にか聞こえるようになっていたラルバとメディスンの笑い声を背景に、幽香と雑談して時間を過ごすのであった。

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