三百八十話 極暑
夏の暑さもピークだ…なんて思っていたのは数日前。ピークだと思った日をさらに超え、未だに外気温が上がり続けている。
これでは外に出ることも困難であり、家の中で生活するしかあるまい。こんな気温で外に出てしまえば、熱中症待ったなしである。
「定晴さん…暑すぎじゃないですか…?」
「ユズ、エアコン効いてるから涼んどけ」
「はい…」
ユズもルーミアも疲れ切っており、家の中だというのに暑く感じる。家のエアコンの性能を凌駕するほどに外が暑いのである。
俺たちのように家を持っている人はいいだろうけど、家がない妖怪はこの暑さをどう過ごしているのだろうか。流石に妖怪だから熱中症で倒れることはないと思っているのだけど、ユズやルーミアの様子を見るに、妖怪も暑さで倒れているような気もする。
「今外何度なのよ」
「温度計でも出してみるか」
外の世界ならニュースを見ればその日の気温なんて一瞬で分かるが、この世界にそんな便利なものはないので、温度計を出してみる。
倉庫の中にあった水銀式温度計を使う。細長いガラス状の、温度が高いと水銀が伸びていくあれである。
「ぐわあっつ」
温度計を置くために扉を開けた瞬間、全身が熱気によってダメージを受けた。こんなの、人が生活する温度じゃないぞ。
俺は温度計を適当に放り投げ、さっさと扉を閉じる。こんなの家の中もサウナになってしまう。エアコンは妖力・霊力式なので実質ずっと動かすことができるけど、部屋の中が一瞬でも暑くなってしまえばルーミアたちが倒れてしまう。
「取り敢えず外に置いといた。あとで回収しよう」
「んー」
一瞬で汗が噴き出したので、冷凍庫の中からアイスを取り出して食べる。ルーミアが欲しがったので、ルーミアにも投げ渡す。
「幻想郷ってこんなに暑いものなんですか…?」
「そんなことはない。異常気象だよ…」
ユズが幻想郷に来たのは冬の時期。夏の暑さを体験していない。
だが、この温度が幻想郷の平均温度だと思われると非常に困る。去年も一昨年もここまで暑くはなかったからだ。なんか四十度を超えているような気もする。
「この暑さ…水那さんたちは大丈夫でしょうか」
「大丈夫だとは思うけど、博麗神社はエアコンがないかもなぁ」
直射日光を防ぐことができれば、それだけでもそれなりに暑さを低減させることができる。しかし、博麗神社のように冷房がないような場所だと、サウナとなって熱中症になってしまうかもしれない。
流石にあそこは紫がなんとかするとは思うんだけど…
「心配なら見に行くか?」
「それは…えっと…」
ちらちらと外を見るユズ。確認に行きたいのは山々なんだろうけど…この暑さじゃなぁ。最悪、木乃伊取りが木乃伊になりかねない。
結局外に出ることはないまま、しばらく。そろそろ温度計を回収してもいいだろうと思ったので、回収に向かう。
「ふう…行くぞ…」
今度は全身に魔術で冷気を纏わせる。
俺の制御能力だと寒いくらいになってしまうのだけど、外の暑さが異常なので、多分いい感じに相殺されてくれるはず。
「ぐわ」
やはり暑い。魔術による冷気が無駄になるほどの暑さ。もう自分にダメージが入ってしまうレベルの冷気を纏わせないといけないかもしれない。
俺は急いで温度計を回収し、扉を閉める。もう外に出ることは諦めた方がいいかもしれない。
「さてさて…ん?」
温度計の一番上の数字である四十五の値まで水銀が伸びている。だが、違うのだ。
この四十五の値はこの温度計の限界値だ。それ以上を計測することはできない。当たり前だ。それ以上の温度になれば、本当に死ぬほどの温度だからである。
「ルーミア、これを見てくれ」
「なによこれ。死ねってこと?」
この温度計で測れないほどの気温。つまり、四十六度以上の外気温である。
一応外の世界でも観測したことがないわけではないけれど、そういうのは赤道直下とかそういう場所だ。日本のような場所で五十度近い気温が出るのは異常気象と言わざるを得ないだろう。
「もしかして異変だったりするか?」
「えぇ…これ異変だと解決がとても面倒じゃない」
異常気象ともなれば、外の世界ならば科学技術によって原因究明をするところだが、幻想郷では真っ先に異変を疑う。過去には幻想郷で同時に四季が出たこともあったらしいし、それを考えれば夏の暑さが限界を超えるのも不思議ではない。
とはいえ、たしかにこの異変を解決するのは困難だ。異変というのは基本的に首謀者を倒して終わりなのだが、この暑さであればその捜索すらも難易度が跳ね上がる。最悪の場合、弾幕ごっことは関係ないところで熱中症でダウンしてしまうことになる。
「どうする?」
「そもそも異変解決は博麗の巫女の仕事だろ?今までは俺たちがやってたけど、そもそも霊夢の仕事だから…」
とか言って、暗に異変に関わりたくないということを伝える。この暑さで霊夢が動くとは到底思えないけれど、動かなければ解決しないとなれば霊夢もきっと動くだろう。
それに、もしかしたら明日になれば案外普通の温度になっているかもしれない。幻想郷では何が起きても不思議ではないので、異変とは関係なく何かしらの気象現象で暑くなっている可能性もある。
「ルーミアさんの闇って暑さ防げないんですか?」
「直射日光は防げるわよ。でも、そもそもの空気がとても暑いからあまり変わらないと思うわ」
さっき外に出たあの瞬間で吸った空気は、俺の体を内側から焦がした。例え日陰を作ったところで、内部から焼かれてしまえばどうしようもないだろう。
「霊夢が動くまで待とう。もし何かあれば…多分紫とかが来ると思う」
どうせこの暑さだ。誰も動こうとはしないだろう。
だが、妖怪の中には溶岩の熱さに耐えることができる者もいる。暑さの種類が違うけれど、そういった妖怪であればこの気温の中でも活動することができるだろう。
何か動きがあるまで、俺たちはひとまず涼しい室内で待機することにした。