東方十能力   作:nite

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三百八十一話 依頼と脅迫

夏の暑さが大変なことになってから二日。外の気温は未だに上がっているようで、このままでは森が自然発火をしてしまう。

そんな中、俺たちの家にやってきたのは意外にも萃香だった。いつもとは違い素面のようで、顔も赤くなっていない。

 

「やあ、定晴。ふう、ここは涼しいねぇ…」

「いらっしゃい。萃香はこの中を活動しても大丈夫なのか?」

 

萃香を迎えるために扉を開けたら、まるで火の中にいるかのような気温で驚いた。扉のところに魔術で全力の冷気カーテンを用意してあるので、家の中にまでその熱気が届くことはなかったが、もしこの暑さの中に出たらもれなく一瞬でぶっ倒れることだろう。

俺の質問に、萃香はケロリとした顔で、しかしどこか悔しそうに言う。

 

「私たちは鬼だからね。地獄の炎にも慣れてる。それに比べたら、ね」

「そうなのか…それで、要件は?」

 

まあこの状況、この環境、要件なんて想像がつくが。

 

「定晴ー!この異変どうにかしてよ!」

「まあ、そうだよな」

 

萃香曰く、霊夢も水那も暑さでぶっ倒れて今は紫の家で保護されているらしい。どうやら、博麗神社の耐熱システムではこの暑さを乗り切ることはできなかったようだ。

二人はしばらく水をかぶったりなんだりで対処していたらしいが、つい今朝熱中症でぶったおれている二人を紫が発見して回収したらしい。

 

「それで俺のところか」

「そう!定晴のことだからどうにかなるでしょ?」

「うーん…」

 

どうにかなるかと言われると、正直俺も外に出る勇気はない。それに、この暑さではやる気も出まい。

 

「私は悔しいんだ!」

「何だが?」

 

俺が訊くと、萃香はいつもの瓢箪を取り出した。いつもなら酒に溢れているはずのその酒は、しかし、中には何も入ってなかった。

それを見て萃香が泣きそうな顔をする。

 

「まさか…」

「酒が!蒸発したんだよ!ありえないでしょ!?」

 

それは、なんというか、あり得ないな。

酒の揮発温度は七十度から八十度の間。つまり、この瓢箪はそれくらいの温度まで熱されたということでもある。

瓢箪という構造上、中に熱が籠りやすいというのはあるだろう。しかしそれでも酒が揮発するほどの気温があるということは…

 

「その気温、俺たちが出たら死ぬのでは」

「…かもね」

「すまんが今回の依頼は俺にはできそうにない」

「ちょっとー!」

 

いや無理だろ。最低でも外気温が六十度は超えてるってことだぞ。外の世界でも観測されていない温度だというのに、そんな炎天下で活動したら異変解決よりも先に俺が干からびる。

 

「というか、そこまで言うなら自分でやったほうが早いんじゃないか?」

 

萃香は俺たちと違って、この気温でも平然と活動している。わざわざ俺たちに頼むという過程を踏まずとも、自らで調査したほうが早いのではないか。

俺はそう思ったのだけど、萃香は歯切れが悪そうに呟く。

 

「…面倒」

「そぉい!」

「ひぎゃぁ!?」

 

俺は萃香を投げ飛ばした。いつもなら酒が飛び散るけれど、今は瓢箪に何も入っていないので汚れる心配はない。

投げ飛ばされた萃香は、空中で見事に一回転をして着地した。怪我をした様子はない。

 

「なにすんのさ!」

「いや、そんな怠惰なのはちょっとどうかと思うぞ」

「そっちだって動こうとしないくせに!」

 

こちらは死活問題だ。幻想郷で暑さで死ぬとか勘弁である。

むむむと暫く唸っていた萃香であったが、ふと諦めた表情をすると踵を返した。

 

「はぁ、じゃあしょうがないなぁ〜定晴がしてくれないんじゃ〜」

 

やけにわざとらしく声をあげる萃香。何が狙いだ?

 

「そういえば最近は暑くてご飯を作るのも大変だよねぇ」

「たしかにそうだな」

 

この暑さを乗り切るために前もって用意はしておいたけれど、外に買いに出れない現状だと備蓄が生命線である。

 

「あぁ、残念だなぁ…ご飯もないなんて」

「なに?」

 

俺が急いで棚を開ける。そこには何も無い。外の世界で買って備蓄しておいたインスタント商品などが軒並みなくなっている。

その他店を開けてもそこにご飯は存在しない。まるで元からなかったかのように消え失せてしまっている。

 

「萃香!」

 

俺が振り返ると、そこには小さい萃香たちに運ばれていくご飯たち。まるで小人のような大きさの萃香が何人かで運んでいる。

 

「さあ、飯質は取ったよ。まだ依頼は受けないかな」

「それ、脅迫だぞ」

「へへーん、隙を見せた定晴が悪いんだよ」

 

このまま小人萃香に外に運ばれたら、食材は食べれなくなるほどに傷んでしまうだろう。ただでさえ外に出れないというのに、ご飯がなくなってしまうのは非常にまずい。

俺たちは今、萃香に生殺与奪の権を奪われてしまっているというわけだ。

 

「さあ、依頼を受けるか、餓死をするか選ぶんだね!」

「そこまでして調査したくないのか…?」

 

正直な話、外に出ることが食料がないのと同じレベルで苦痛であることが予想されるので、どちらにせよという感じではある。

とはいえ、この異変が続くと困るのは同じ。ならば、解決できそうな方を選んでしまった方がいいだろう。

 

「仕方ないな…調査をするよ」

「さすがー。これは返すね」

 

小人の萃香たちによって、インスタントが元の場所へと運ばれていく。なんだかピクミンみたいだな。

 

「その代わり、依頼料は多めに貰うからな」

「きっと紫も困ってるから、支払いは紫で」

 

どうせそうだろうなと思った。紫に頼んで、あとで萃香からもきちんと徴収しておこう。食事に関して強迫された罪は重いぞ。

 

「私も手伝うからさ」

「当たり前だ」

 

こうして俺は不可抗力的に外に出ることになったのだ。

 

 

…因みに、ルーミアとユズは。

 

「できれば行きたくないかなーって」

「えっと…家をきちんと掃除してお待ちしておりますね!」

 

薄情な式神である。

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