東方十能力   作:nite

386 / 503
三百八十三話 言うなれば、噴水

ひとまず向かったのは人里。異変調査もする必要があるが、人里が壊滅していないか心配になったので見に来た。

まず目についた…いや、むしろ目につかなかったことと言えば、人里に誰もいなかったことだ。いつもならば人々に溢れ活気づいているはずの商店街区画も、まったくの無人。門番すらもいなかったことを思えば、この人里の不自然さというのも分かるだろう。

 

「誰かいるかー!」

 

俺が大声で叫ぶが、返事の一つもない。

人里には俺の家のように冷房器具があるわけでもないだろうから、もしかして本当に熱中症で瀕死の状態になっているというのだろうか。

 

「…早急か」

 

人間というのは妖怪よりも体が弱い。それは頑丈さという意味だけでなく、生命力と言う意味でも弱いのだ。だが、その妖怪の頑丈さは人間たちの思念によって生み出されている。

故に、もしこのまま人里から人がいなくなってしまえば、将来的に妖怪たちも瀕死になってしまう。

 

「急ぐか」

 

俺は急いで人里を通り抜けて妖怪の山の方向へと向かった。

妖怪の山は、言うなれば妖怪の街である。天狗のように情報が早い種族もいるから、少しは情報を集められるかもしれない。

 


 

妖怪の山は見違える状態になっていた。なんと、山全体が滝になっていたのである。

重装備ながらも、近づくだけで周囲の温度が下がるのを感じる。やはり、この滝は暑さへの対策のために作られたものなのだろう。

 

「河童かな」

 

水の妖怪は色々といるが、妖怪の山に住んでいてここまでのことができると言えばやはり河童の種族だろう。にとりは水を操る能力を持っているみたいだし、似たようなことができる河童も多いだろう。

俺は大量に生まれた川の一本を選んでその傍を登っていく。

にしても、この川からなんだか湯気のようなものが見えるのだけど、もしかして暑さのせいであったまっているのだろうか。

そうこうして山を登っている途中に、何かが川を流れているのを見つけた。

 

「なんだ?」

 

緑色の服に緑の髪、茶色のカバンを背負っている誰かがうつ伏せの状態で上流から流れてきていた。

妖怪の山で川流れをする種族というと河童しか思い当たらないが、こんな緑色をしている河童は今まで見たことがない。どの河童もにとりのような恰好をしているので、河童ではない種族ということになるが…

と、そこまで思って気が付いた。河童じゃなければ溺れている可能性が高い!よく見てみると水死体のように見えなくもない。

 

「おい、大丈夫か!」

 

俺が声をかけると、その誰かはピクっと腕を動かした。よかった、どうやら生きているようだ。となればやはり河童か?

その人物は俺の横まで流れてくると、やっと顔を上げた。

 

「こんなところで私を呼び止めるなんてどういうつもりかな、人間」

「ふむ、もしかして休憩中かなんかだったか?」

「まあそう思ってくれていい」

 

立ち上がった少女は、体型こそにとりに似ているものの、迷彩服のような服を着てきっちりとしたカバンを持っている。河童の親戚のような見た目だ。

 

「俺は堀内定晴。君は?」

「私は山城たかね。何か勘違いしていたらあれだから言っておくけど、私は山童だ」

 

山童…聞いたことのない妖怪だ。字面で見たときに似ているから、やはり河童の親戚なのだろうか。

 

「ほら、こんな暑い日だと移動するだけで暑いからさ、こうして川で流れてたってわけ」

「もしかして、他の妖怪たちもそうして移動してるのか?」

「まさか。うちと河童くらいだよ。水に濡れることを嫌がる妖怪ってのも少なくないからね」

 

例えば天狗は羽が濡れると飛びにくくなることから、あまり雨の日には外に出たがらない。白狼天狗とかは濡れても特に気にしていないみたいなので、哨戒任務に白狼天狗が選ばれているのはそれが理由だったりするのだろうか。

 

「それで、私を呼び止めたってことは、何かあるんだろうね」

「ああ…今幻想郷でとても暑くなっていることを調査してるんだ。いわゆる異変調査だな」

「よくもまあこんな暑い中調査しようと思うね」

「萃香に脅されてな」

「…ああ、鬼か」

 

萃香の名前を出した途端に呆れから哀れみのような表情に変わるたかね。まるで俺が鬼に屈したみたいな表情はやめてほしい。まあ実際人質ならぬ食質をとられて屈したのだけど。

妖怪の山は昔は鬼が支配していたということもあって、現状の妖怪の山の管理者のようになっている天狗たちも鬼には頭が上がらないらしい。そのおかげで俺は過去に萃香から助けてもらったこともある。¥

 

「それにしたって妖怪の山はだめでしょ。追い返されるよ」

「一応これでも天魔とかから認可は貰ってるんだ。山に入ってもいいぞって」

「へー、博麗の巫女とかに比べてしっかりしてるんだ」

 

過去の異変の調査の時、魔理沙や霊夢は特に許可を得ることもなく妖怪の山に侵入したらしい。そのせいで天狗たちと何度も戦うことになったと霊夢はぼやいていたけれど…俺も一番最初は何の許可もなく山に入ったので同類である。

今ではある程度の功績のおかげで自由に入山していいことになったけどな。恩を売ったということでもある。

 

「残念だけど、妖怪の山はこの件に関して何も嚙んでないよ。一応河童が暑さをなんとかしようとこの川自動生成器なるものを作ったらしいんだけど」

 

どうやらこの数多の川が流れている状況はにとりたち河童によるものだったらしい。諏訪子とかが手伝ったのかと思ったけれど、さすが河童の無駄技術力である。

 

「じゃあ何か知ってることはないか?」

「ないよ。私たちは山からほとんど出ないから」

 

山童というからには、山に住んでいる種族なのだろう。それを考えれば、種族的にずっと山から出なくても不思議ではない。妖怪というのはそれなりに自分の種族というのに縛られる生物だからな。

 

「怪しいならここよりも地下でしょ」

「地下?」

「そ。だって、幻想郷の下にはあの灼熱地獄とかがあるんだよ」

 

地底…そこは確かに灼熱地獄や血の池地獄などが存在しており、それらは既に使われていない跡地となっているものの、稼働が止まっているわけではない。

確かそこらへんを管理しているのは…地霊殿か。

 

「でも地底に行くのは妖怪の山に入るよりも…」

「いや、地底も一応許可が出ているようなものだから大丈夫」

「何者あなた」

 

これでも交友関係は広いほうだと思っている。

地底に行くのは天魔のように偉い人から許可を貰っているわけでもなく、紫の許可も一時的なものだったような気がするものの…さとりからは許可してもらっているし、紫も異変の調査のためだったら強くの拒絶はしないだろう。

それに、こいしが何度か勝手に遊びに来ている時点で禁止条約なんて存在していないようなものだ。あれ、いまだに効力があるのだろうか。

 

「わかった。じゃあ地底に行ってみるよ」

「一応私たちも迷惑な暑さに困ってるし、ちょっとは応援しとくよ」

 

妖怪の山には地底への入り口がある。若干旧都から離れたところに出てしまうが、まあいいだろう。

俺はたかねに別れを告げて、地底への入り口に向かった。

 

それにしても、河童の名前ってみんな平仮名なのだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。