東方十能力   作:nite

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三百八十四話 地獄の暑さもまた異常

妖怪の山の入り口から、霊力で浮かびながらゆっくり下へと降下していく。

風というのは乱気流を生み出してしまい、こういう狭い洞窟の中で使うとそれだけで危なくなったりするのだ。霊力だけで飛べるようになったのは、こういった点でとても役立っている。

 

「下から熱が来てるのなら行けば行くほど暑くなるはずだが…」

 

一般的に熱源に近ければ近づくほど熱くなるというのは、幻想郷に限らず世界の共通常識である。しかし、地下に潜ってしばらくしても温度が上がる様子はない。

重装甲を着用しているものの、周囲の熱を感じるくらいならできる。そもそも、この重装甲でも防ぐことができないくらいの暑さになっているので、温度変化があればそれなりにダイレクトにその変化が伝わる。だが、今のところそれがないのだ。

 

「よし到着っと」

 

地下というのは、地上に比べて熱伝導が低いということもあり、地上よりも空間温度が安定していることが多い。極寒の雪山でも洞窟なら少し寒さを凌げるのと同じ理屈だ。

それでも、地上のように暑くなっていることを考えると、少しこの異変の熱源も分かるというもの。地下ではないものの、空間全体に熱を伝播させている何かがいるはずだ。太陽が主犯と言うことにならなくて安堵するべきか、否か。

 

「…暑いなここも」

 

もう既に犯人というか原因はここにないような気がしてしまうので、徒労感は拭えないが…

 

「何もないと決まったわけじゃないしな」

 

何もないからと言ってすぐに戻るのは無駄な時間になる。少しでも情報を集めることもできるだろうと、俺は旧都に向かって歩き出した。

だが、歩けど歩けど、人っ子一人いやしない。適当にふらついている地獄妖精だとか、適当に遊んでいる鬼の姿すら見ない。いつもなら橋の上でボーっとしているはずのパルスィにも会わないままに旧都までたどり着いた。

 

「こりゃ…一大事って感じだな」

 

そこには、地上の人里と同じように誰も歩かず店も開いていない町が広がっていた。

人間というのは外的要因に非常に弱く、気温が四十度を超えるだけでも熱中症などに苦しむ生き物だ。だが、鬼という種族はそもそもの体が頑丈であり、一部の鬼は溶岩にも手を入れることができるという。

そんな鬼たちが一切出歩かない暑さというのは…正直あり得ないレベルである。もしかしたら、俺が意識できていないだけで、すでに九十度くらいの暑さになっているのかもしれない。

 

「日本の暑さは熱さと違うってのも分かるんだがな」

 

少しでも情報収集をしようという考え自体が甘かったのかもしれないと思いなおす。このままでは、情報どころか誰にも会うことなく地底を出ることになる。

さっさと終わらせたい異変ではあるが、まったく情報がないこともあって一日で終わるとは思っていない。だが、こうやって何も得られずに一日が終わってしまうというのも少々嫌な気分になってしまう。

 

「誰かー、いるかー」

 

一応声を出しながら歩いてみるが、誰の声も聞こえない。

鬼たちの家は簡素なつくりになっていることも多く、家で熱中症になっている可能性も考えられる。妖怪だって、環境と要因さえあれば熱中症にもなるだろう。

適宜水を飲みつつ、結局誰に会うこともなく旧都を抜けてしまった。あと誰かに会える可能性があるといえば地霊殿のみ。さとりたちは地霊殿が家なので、そこにいないということはないだろうけど、あそこは真下に灼熱地獄跡が存在しているので、旧都以上に暑くなっている可能性がある。

妖怪だけでなく普通の動物も暮らしている地霊殿で悲惨なことになっていなければいいが…

 

「誰かいるかー」

 

誰もいなかった門を飛び越えて、玄関を開けて中に入る。いつもなら動物が何匹か寄ってきて俺が来たことをさとりに伝えにいくのだが…動物の姿が一つも見えない。

さとりはペットを大切にしているので、もしかしたら暑さから逃れるためにどこかに移動してるのかもなぁ…と思っていたところ、ふと階段の上から足音が聞こえた。

 

「あ、おにーさん。いらっしゃい!」

「お燐!」

 

地底に来てからの初めての住人に、少しばかり俺の声にも喜びの色が浮かぶ。

お燐はいつも通りの調子で、暑そうにもしていない。

 

「よく来たねぇ。そんな重装備で」

「ああ…よく俺だってわかったな」

「おにーさんは匂いで分かるよ」

 

とてとてと近づいてきたお燐は、特に汗をかいている様子はない。今の重装備で感じる熱的に地上よりも暑い環境になっているはずなのだけど、お燐にはあまり苦ではないようだ。

 

「さとりたちはどうしたんだ?」

「ちょっとした避暑地に行ってるよ。皆がばてちゃって」

 

この暑さをどうにかできるような場所が幻想郷に存在しているのか?それなら俺もそこに逃げ込みたいところなのだけど…

 

「お燐は大丈夫なのか?」

「あたいはこれでも火車だからね。でもたしかに暑いって思うよ。地獄烏のお空でも灼熱地獄は危ないから、施設から遠ざけたしねぇ」

 

流石のお空も、灼熱地獄跡は危険になってしまうほどの気温にはなっているらしい。

地獄烏というからには熱には強いはずなのだけど、それでもこの暑さの前には降参せざるをえなかったようだ。やはり、妖怪にとっても非常に苦しい環境であることは言うまでもない。

 

「本当はこいし様を会わせてあげたいんだけどねぇ」

 

お燐曰く、こいしも緊急疎開のような形で避難しているらしく、今地霊殿にいるのはお燐を含めた暑さに対して鬼以上の耐性を持つ妖怪だけなんだそうだ。

こんな暑さを凌ぐことができる場所があるならば是非とも俺も行ってみたいところなのだけど、お燐から教えることはできないらしい。

 

「地底の妖怪たちの最後の安息の場所なんだ。多分おにーさんのことだからさとり様かこいし様に聞けば教えてくれるだろうけど、あたいの立場から教えることはできないんだよ」

 

地上に居場所をなくした妖怪が集まった地底。そんな地底でも居場所をなくしてしまった時のための最後の場所なのだという。

そこはある意味聖域であり、墓標でもあるという。俺のような人間が易々と入っていい場所ではないのは間違いない。

 

「まあならいいんだ。この異変について知ってることはないか?」

「残念だけど、あたいたちが知ってる内容はおにーさんたちとそんな変わらないよ。地獄は関係ないよってことくらいかなぁ」

 

やはり、お燐は何も知らないようだった。

せっかく来たのに…と少し残念に思って、踵を返そうとしたときに、お燐があ!と声を出した。

 

「そういえば、最近センターの様子を見てないかも!」

「センター?なんだそれ」

「おにーさん知らない?間欠泉地下センターって言って、お空が働いてるんだけど」

 

お燐がいうには、妖怪の山の麓にそういう場所があるらしい。地底とほぼ直通でつながっており、核融合炉のエネルギーを取り出す施設も兼ね備えているらしい。

そんな施設を作ったのは妖怪の山の神である八坂神奈子。一体何をしてるんだと思いたくはあるが、どうやら技術革新をしたくて作ったものだそうな。

 

「あそこはいっつも熱いし、もしかしたら何か知ってるかも」

「わかった。行ってみる」

「地底から繋がってるから案内するね!おにーさんこっちー」

 

そういってお燐は猫の姿になって、俺の前を歩き始めた。案内をするときは猫の姿になる癖でもあるのだろうか。

ともかく、俺はいまだに情報ゼロの異変を解決すべく、核施設へと向かった。

 

にしても、そんなエネルギー、よく紫が許したな。

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