東方十能力   作:nite

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三百八十六話 因みに姫はどこかで干物になっています

家での食事を終えて次に向かったのは霧の湖。

妖怪の山は川を大量に生み出していたが、逆にここは干上がっていないかと心配になったので来てみたのだ。そこにはしっかりと水面を揺らす湖が広がっていた。

 

「まあ流石にな」

 

この極限的な暑さであっても、幻想郷で最も大きい湖である霧の湖を干上がらせることはできなかったようだ。

少しばかり水位が下がっているような気がしないでもないけれど、これくらいならば雨が降ればすぐに元に戻るだろう。この暑さの中では雨が降りそうにはないので、異変を解決しなければいけないのは変わらないけれど。

しかし、霧の湖の問題は水位ではなかったことを、近づいて悟る。

いつもは広く散布されたように広がっているような霧が、今日は上に上がっているような気がするのだ。

 

「湯気?まさか…」

 

俺は生身ではない手を湖の中に入れる。

それは確かに感じる熱。よくよく見てみると、水の中から泡が出ているような気もする。それが意味することは、つまり、沸騰。

この霧の湖は、この広さにして沸騰し茹っているのであった。

 

「これは魚は全滅じゃないか…?」

 

南国の魚ならいざ知らず、日本に古来から生息しているような魚が沸騰している湯の中を生きられるはずもない。

流石に深いところであればまだ冷たいだろうけど、それまでの猶予はいかほどなものか…そう考えながら、頭によぎったのはこの湖に生きる人魚。

わかさぎ姫、フライになっていなければいいけど…

 

「あ、人間…」

 

ふと、横から声が聞こえた。

茂みの中にいるのは小さい妖精。チルノたちに比べても一回り小さいような妖精だ。妖精という種族は大きく成長しないものの、あの大きさであれば多分チルノたちよりも子供の妖精なのだろうと考える。

その妖精は特に近づくことも逃げることもせずに、こちらのことを見ている。なんだろうと思ったけど、こんな怪しい見た目をしている人間がいたらそりゃ興味も出るか。妖精はあまり未知のものに怖がることはないからな。

 

「なあ、少しいいか」

「ひゃい!」

 

俺が声をかけると、話しかけられるとは思っていなかったのか、素っ頓狂な声を出して茂みの中に隠れてしまった。

うーむ、コミュニケーションは難しいなと思いつつ、そういえばなぜここに妖精がいるのだろうと思いなおす。

確かに妖精に死は存在しない。自然環境がある限り、どこにでも妖精というのは存在するのだ。だが、この暑さの中、そんな自然の存在すらも危うい状況で、こうも妖精が活動しているものだろうか。

 

「近づくぞー」

 

俺はできる限り怖がらせないように声をかけつつ、茂みのほうへと近づいた。すると、俺が茂みの中を覗き込むよりも先に、先ほどの妖精が顔を出した。

体を茂みの中に入れたまま、顔だけが茂みから出ている状態だ。

 

「なーに?」

 

警戒心よりも、好奇心とか無邪気さがある返事。どうやら、俺の話を聞いてくれるようだ。

一応妖精は全体的に幼いので、小さいこの子でもわかるようにかみ砕いて話をする。

 

「こんな暑いのに、元気そうだな」

「うん。森は元気だから」

 

俺からすると、この暑さによって今にも枯れてしまいそう…というか、すでに一部枯れてしまっているようにも見えるが、どうやら妖精基準ではまだまだ森は元気らしい。

 

「他の妖精はどうした?」

 

周囲を見渡しても他に妖精の姿がないことに気が付く。

はぐれ妖精というのもありえるが、基本的には妖精というのは数匹で群れて行動していることが多い。それに、はぐれ妖精というのは大体気性が荒かったり暴走していたりするので、ここまで冷静なはぐれ妖精というのも珍しい。

 

「皆隠れてるよ。暑いからって」

「じゃあ君は?」

「誰かいるなって思って出てきたの」

 

見た感じ、特におかしくなっている様子も調子が悪そうな様子もない。本当にただの好奇心で森の中から出てきたらしい。

いたずらをするわけでもなく、普通に会話ができるので、ついでに異変のことについて聞いておこう。

 

「この暑さについて何か知っていることはあるか?」

「んーん。知らなーい」

 

きょとんとした顔のまま首を横に振る妖精。まあ、情報については期待していない。

 

「チルノとか大妖精は大丈夫か?」

「チルノちゃんは色んな妖精に囲まれて暑そうにしてたー」

 

でしょうね。

俺も可能ならチルノにずっと横にいてほしい。暑すぎて死んでしまいそうだ。囲まれたせいで逆にチルノが熱中症になってしまわないかだけが心配である。

 

「あ、そだ」

「ん?」

「これあげるー」

 

妖精が茂みに引っ込んだかと思うと、すぐにまた顔を出した。

茂みの中から出てきた手の中には、小さな水晶があった。赤色に輝くきれいな宝石のような石は、八面体のダイヤのような形で…

 

「これは?」

「フランちゃんの背中のやつー」

 

…は!?

 

「え、羽についてるあれか!?」

「んー。返しといてー」

「えぇ…」

「力いっぱいだから大丈夫だよねー」

 

力いっぱい…霊力のことを言っているのだろうか。

今は丸くなっているレミリアだが、普通の人間であれば許されないし、フランの羽のパーツを持っているなんてことを知られれば殺されることだろう。誰か適当な人に渡されるよりは、俺に渡してもらったほうがいいか…

それに、フランの羽は確かに取れそうな見た目ではあるけど、取れるようなものではない…はずだ。多分よく似た別の水晶とかそういうもののはず…

俺がそんなことを考えている間に、妖精は俺に手を振った。

 

「じゃあねー」

 

妖精はそう言って茂みの中に潜った。妖精力が遠くなっていくのを感じる。

一体何の妖精なのかもわからないけれど、こんな暑さの中でもしっかり生活し活動できているあたり、やはり妖精は生命力が高いなと思いなおす。

 

「取り合えずこの水晶を返しに行くか…」

 

ただ様子を見に来ただけだったというのに、寄り道をすることになってしまった。

フランの羽が取れるのかよく知らないけれど、確認のためにも行ってみるとしよう。

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