俺の言葉を聞いて永琳が困惑したかのような声を出す。いや、実際混乱しているのだろう。知らぬ男が、突然知っている土地のことを話し出したら、一瞬思考がフリーズすることもやむなしだ。
「貴方が月に?」
「ああ、といっても住んだ訳じゃ無いけどな。少しだけ月に、月の裏側に行ったことがあるっていうだけだ」
それを聞いて永琳がさらに怪訝な顔をする。そもそも地上の人間は月の裏側に行けない。というか表側に行くとしても宇宙飛行士でもない限り不可能だ。それに月の裏側の情報は秘匿されているので通常知る方法はない。
「もっと詳しく聞かせて頂戴」
「ああ、そのつもりだ。ちゃんと説明するよ」
約二年前。
「ここら辺に獣が出るんだっけ?おーい!猪か熊か分からないけど出てこーい」
俺は依頼を受けて、とある深い森の中を歩いていた。依頼の内容は、森を荒らしている獣の狩猟・捕獲。
最近森の中で音が聞こえたと思ったら、その場所の地面が荒れている状態で発見されることが多いらしい。姿を一度も見ていないが、森の中ということもあり、猪か何かだろうと言われたのだが……
荒れ方が獣のそれではないことに疑問を覚える。とはいえ、確かにこんなところに人知れず集落があるとも思えない。
「おーい!」
森の木々に反響して返ってくる声、他にも鳥や葉っぱの音が反響しているため変に聞こえるし、鬱蒼としていて薄気味悪い。
大声をあげることで、敢えて動物を興奮させて姿を現さないかと考えている。自分の身を守るだけの力は十分に持っているので、向こうから突撃してくれるのが最も戦いやすい。
こういう、単純に孤独感を覚える場所というのは少々苦手にしているので、可能な限り早いところ依頼を終わらせて帰りたいのだが……
「っ」
今、遠くの方で音が聞こえた。もしかしたら犯人かもしれない。俺は走って音のした方に走った。俺が近付くと離れるように音も遠ざかっていく。逃げているのかと思いきやどうもある方向に向かって直進しているらしい。
数分後、音が止まったのでそこまで行ってみると…
「なんだあれ?」
音がした場所に生き物はいなかったが、その代わり歪んだ空間があった。確かめるために近付くとどうもそれは少しずつ動いている事が分かった。生き物ということはないだろうが、不安定な空間であることは確かだ。
試しに歪んだ空間の中に石を投げ入れてみると消えてしまう。霊力の糸を創り、投げ入れてみると、奥に続いているようだった。一体どこに繋がっているのかは分からないが、これが犯人というわけではないだろう。きっとこの先に犯人がいるはずだ。俺は依頼を達成するためにも思い切って空間の中に飛び込んでみることにした。
「っと、ここは何処だ?」
気付けばそこはさっきまでいたところとは全く風景が違っていて、空には星が浮いていた。そして目の前に浮かぶのは我らが故郷の地球。どうやらあの空間の先は宇宙だったようである。
それにしては息が出来るし不思議な感覚だ。足元にはさっき投げ入れた石と糸があるが、後ろを見ても先程の歪んだ空間は見当たらない。ふーむ、どうやら帰れなくなったようだな。
「帰れないならしょうがないか。ちょっと探索しよう」
もしかしたら近くに同じ様なのがあるかもしれないと思って俺は歩き始めた。まさか一方通行の歪みなんてのは思うのだが…まあ事故だったとしてあの空間が自然に生まれるはずがないしきっとどこかに犯人もいることだろう。
歩くこと数分、俺は一つ結論付けることにした。
「もしかして…いや、もしかしなくてもここは月だな?」
俺がその結論に至った理由は三つ。
・地球が目の前に見えること
・遠くの方にクレーターの様なものが見えること
・ミキから色んな所に別の世界へと繋がる道があると聞いたこと
唯一分からないのが空気があることだが…それはおいておこう。
ここが月であるということが九十%ほど確実になった頃近くで声が聞こえた。幻聴では無い。となるとここにも生き物が住んでいるのは確実なものになった。俺は声がする方に走ると、そこにはうさみみを付けたのが三人と一人の女性がいた。ウサミミは被り物ではないように見えるが…
うさみみを付けた子達はぼろぼろで、女性の方は何か考え事をしている。取り敢えずうさみみ達を助けるべきだと思い近付くと、女性が驚いた顔でこちらを見てきた。
「貴方、なんでここにいるの?」
「それより先にこいつらを…」
「答えなさい。貴方は何故ここにいるの?」
突然声が強くなり、威圧的に言われた。
それにしても…何故、か。変な空間を説明して納得するかな?いや、しないだろう。でもそれ以外の言い訳も思い付かなかったので正直に話すことにした。
「変な空間を通ったらここに着いた。それだけ」
「変な空間?」
「ああ、森の中にあったのに入ったらここに着いたんだ」
変な空間の正体もその犯人も分からないので不確かな情報しか伝えることのできないのが歯痒い。というかこれで納得してくれるか?
「そう…それはこちらがわのミスね。なら今すぐ帰してあげる」
「おお、それはありがた…「冥界にね」…あちゃー…」
そんな気はしてたよ。最初からずっと殺気に近しいものを感じてたもん。となると戦闘か…と思っていたら謎のビームが放たれた。瞬発的に避けた俺はさっきまで倒れていたうさみみ達が起き上がっていることに気づく。なんだブラフだったのか?
「今のをかわしたの?そんなことしたら後ろを見て絶望しちゃうわよ?」
「後ろ?……っ!?」
ビームが通った後は…地面が消えていた。元から無かったかのように抉れている地面はそのビームの威力がどれ程恐ろしいものか物語っていた。ここが月だとして地面を抉る攻撃は如何なものかなのかと思うが…どうやらここはこいつらの領域らしい。月に住人がいるなんて話聞いたことないぞ!
「成る程な…」
更にビームが放たれる。次は結界を出現させて受け止めようとする。しかし結界は一瞬で消え去り急いで回避。またもや地面が抉れた。
「しょうがない…悪く思うなよ!俺も死にたくないものでね!」
「あら?強気ね。触っただけで消えるレーザーがこちらにはあるのに」
つかそんなレーザーの開発者は一体何を考えていたのかね。しかもなんか気軽に撃ってくるし。
そんな兵器があるとこちらは勝ち目がない。さらにビームが撃たれる。今までより太い。しかしそんなものは関係ない。俺は呟く…
「……術【無力】」
自分自身の声はレーザーの音に邪魔されたせいで聞こえなかったが、技はしっかりと発動したらしい。その証拠に…