東方十能力   作:nite

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三百八十七話 紅魔館の結界

紅魔館に来てみると、紅魔館の周囲に魔法の結界が構築されていることに気が付いた。

試しに手を入れてみると、特に弾かれることもなく入れた。ただ、中に入ると同時に周囲の熱が一気に下がったのを感じる。

 

「もしや…」

 

俺は重装甲を少しだけ脱いでみた。思った通り、あのうだるような暑さは微塵も感じない。

どうやら、紅魔館はパチュリーが張ったであろう断熱結界によって快適な温度を保つことができているらしい。俺の結界はこういう物質ではないものを弾けないので、こういう使い方ができるのは素直に羨ましい。

 

「失礼するぞー」

 

珍しく門のところに美鈴がいないので、そのまま門を開けて中に入る。

重い服を脱ぎ、いつものラフな格好になる。装備は幻空の中にでも入れておけばいいだろう。

断熱され快適な温度になっている紅魔館だが、なぜかメイド妖精たちの姿はなく、咲夜の出迎えもない。来客があればそれが誰であれ時間を止めておもてなしをする咲夜がいないのも、いつも仕事をしてるのかしてないのか分からない態度の妖精メイドがいないのも妙だ。

 

「咲夜ー、フランー」

 

声をかけながら館内を歩く。一応目的はフランへの確認なので、フランさえ見つかればいいのだけど、紅魔館の中でフランが一番に見つかるということもそうないだろう。

仕方ないので、応接室へ。今までも何度か行ったことがあるが、あそこは咲夜かレミリアのどちらかが大抵いるので、確認。

 

「いないか…」

 

次に食堂。こっちも誰かいる可能性が高いのだけど…

 

「いない」

 

ちょっと申し訳ないのだけど、直接フランの部屋に行ってみる。勝手に入ったりはしないけれど、ノックすれば中にいるかどうかわかるだろう。

フランの部屋は地上側の部屋と地下側の部屋があるけれど、最近のフランは専ら地上にいるので、そっちでノック。返事はない。地下に行ってみても、やはり返事はない。

 

「どこかで催しでもしてるのか?」

 

フランを探すのを諦めて、紅魔館の誰かと会うことを目的にする。なんせ、こんなに歩き回ったのに妖精メイドにすら会わないので。

紅魔館の誰か…という括りで見ると、一番居場所がわかりやすいのはパチュリーだ。彼女はよほどのことがない限り図書館にいる。パチュリーが不在のときは基本的に小悪魔がいる。

 

「入るぞー」

 

パチュリーが紅魔館全体の結界を張っているのならば、結界の起点はここにあるはずだ。まさか放置しているわけもないだろうから、きっと誰かいるはず。

 

「パチュリー!」

 

ちょっと大きな声で呼ぶ。返事はない。

咲夜の空間拡張も相まって異常なほどに大きな図書館ではあるが、俺の声が聞こえないほどの広さではない。返事がないということは、ここにはいないということだろう。もしくは、返事ができないほど集中しているか。

とはいえ、そういう時は小悪魔の返事があるので、やはりいないとみていいだろう。小悪魔すらもいないと考えるのが筋だ。

 

「結界だけ張って紅魔館にいないなんてことあるか?」

 

俺は図書館から出て考える。

吸血鬼であるレミリアとフランは日光が弱点だ。故に、こんな暑い昼間に外に出たとは考えにくい。しかし、現に紅魔館には誰もいない。

レミリアの傍に咲夜もいるだろうから、全員どこかに避難しているのだろうか。さとりたちと同じように、俺が知らない退避空間があってもおかしくない。パチュリーと咲夜の二人がいれば即席の異空間部屋だって作れるだろう。そういうところに隠れているのであれば、俺では認識することはできない。

流石に俺の都合で無効化を発動するわけにはいかないし…

 

「仕方ない。今日は諦めるか」

 

俺は玄関へと向かう。

地霊殿だって、お燐と会えなければ誰とも会話することなく地底を出ていたはずだ。同じようなことが起こったと思えば不思議でもない。

天変地異のようなことも起こりうる幻想郷なら、そういう避難場所をそれぞれが持っていても変ではない。今回の異変について知っていることもなさそうだと思えば、それもある意味の収穫だ。

 

「ふぅ…」

 

外に出る前にため息。

幻空から重装甲を取り出し、身にまとう。体に周囲に氷を生み出しながら、外に出る。結界を抜ければ、今までと同じ極暑によって重装甲の表面が熱くなる。

さて出るかと足を踏み出したとき、背後に気配を感じて振り返った。

 

「…なんだ、これ」

 

俺の背後には、さっきまでいなかったはずの人形がふよふよと浮いていた。上海人形のような出来のいいものではないが、魔力の流れとかがアリスのそれと同じだ。

紫の髪に黒い服の女の子。不格好と言えばそこまでだが、作り手の努力が節々に感じられる。

 

「来てたなら教えてちょうだい」

「パチュリー?」

 

そんな人形から聞こえてきたのはパチュリーの声。電話のようなものではなく、まるで目の前にいるような音質だ。魔法による会話は、基本的に術者の魔力量によって音質が変わる。

 

「ええそうよ」

「パチュリーもアリスのようなことができるんだな」

「これでも魔法使いだから。これで弾幕ごっこをしようなんて気にはならないけど」

 

アリスの人形のような動きもなく、ただフワフワと浮いているだけだが、それなりに面倒というか辛いのだろう。紙の式神を使って通信をする方が圧倒的に楽だ。

 

「どこにいたんだ?」

「誰かが結界を通ったのを感じたから、見てたのよ。たまたまずっと入違ってたみたいだけど」

 

どうやらパチュリーはずっと俺のことを探していたらしい。

俺も色んなところを探し回っていたけれど、誰にも会わなかった。奇跡的なすれ違いと言ってもいいだろう。

 

「パチュリーたちは避難してるのか?」

「地下のちょっとした隠し部屋よ」

 

やはり、隠し部屋があったらしい。フランの地下室に行ったが、それ以外のところには行っていない。紅魔館の地下は結構な広さがありそうなので、隠し部屋も作りたい放題だろう。

 

「来る?」

「いいのか?」

「あなたなら別にいいわよ。というか、フランが暴れてるから来てもらえると嬉しいんだけど…」

 

詳しく聞くと、隠し部屋というのは温度的に快適ではあるのだけど、娯楽の物が何もなくてレミリアに当たっているらしい。俺の手元におもちゃなんてないが…まあ、少しはストレスの軽減のために何かできるだろう。

 

「分かった、行こう」

「助かるわ」

 

俺の先導をするようにフワフワと飛んでいく人形。異変解決も大事だけど、こういうところで思わぬ収穫もあるかもしれないし、行くことにした。

結界に入り、重装甲を外す。うーん、この結界俺も教えてもらおうかな。

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