パチュリーの先導で地下を進む。真っ暗な道が魔法によって照らされる。
フランの地下室でも、周囲にはランタンのようなもので照らされていたというのに、ここには光源となりうるものが何も存在していない。明るくすることができる能力がある人か、そもそも暗いままでも行動できるような人にしか進むことができないだろう。
その点、紅魔館の面々は大体大丈夫だ。咲夜や美鈴は…一人で入ることもないだろう。
「ここよ」
何度か曲がったあとに、小さな扉にたどり着く。人一人分しかない扉は古びていて、いかにもな雰囲気だ。
ここを開けたら化け物がいると言われても信じてしまいそうだが、扉の奥からは聞きなれた声が響いていて、恐怖感は何もない。
扉を開けると、レミリアに馬乗りになって騒いでいる、フランの姿があった。
「いらっしゃい。ほら、フラン、あなたの要望通り定晴を連れてきたわよ」
「へ?あ、お兄様!」
部屋に入ると、そこには魔法陣を展開しているパチュリーに迎えられ、フランはこちらに駆け寄ってきた。
「お兄様ー!」
「うぎゅぅ…」
「お嬢様、大丈夫ですか」
随分と酷く扱われたのだろう。立ち上がったレミリアの服はヨレヨレで、髪はボサボサ。いつもそこまで荘厳のような感じはしないけれど、今日は特にみすぼらしい恰好になっている。
レミリアをそんな風にした当の本人は、笑顔で俺のところまで走ってきた。
「フラン、まずはレミリアに謝らないと」
「ふんだ。こんなところに閉じ込めるなんて、昔の反省がなってないと思うの」
ちょっと頬を膨らませたまま、レミリアを横目で見るフラン。
フランは昔地下室に幽閉されていたと聞いている。フランは特に気にしていないと言っていたけれど、たまにこうして弄るように掘り返すことがある。
レミリアはそれを聞くたびに、少し苦しそうな顔をするのである。今も、馬乗りの痛みなのか精神攻撃なのか分からない苦々しい顔を浮かべている。
「お兄様、あまり気にしなくていいよ。お姉様はああいうのが好きなんだから」
「レミリア、好き勝手言われてるぞー」
「えぇ…大丈夫よ。私はこれくらいじゃなんともないわ」
まるで魔法のように身なりを一瞬で整えたレミリアは、まるで何事もなかったかのようにこちらに向いて立っていた。
きっと咲夜の能力によって時間を止めている間に終わらせたのだろう。こういう時、つくづくよくできたメイドだと思う。
「それよりお兄様、遊びに来てくれたの?」
「んー…まあ、そんな感じ」
実際のところは調査の一環なのだけど、ここで有益な情報を取れるとも思っていないので、パチュリーの要望通りフランの機嫌をどうにかすることに集中しよう。
「ここには何もないのか?」
「紅魔館の中にあるものなら用意できるんだけど、もう飽きちゃった」
部屋をぐるりと見渡して、ここが広間くらいのサイズであることが分かる。俺が来てもそれなりに余裕のある広さではあるけれど、紅魔館全体で見れば狭い部屋の部類に入るだろう。
そんな部屋の中をよく見れば、部屋の端っこの棚の中に本とか人形が置かれている。紅魔館の中にあるものを色々と集めたのだろうけど、そもそも紅魔館にそこまでの娯楽があるとは思えないので、仕方ない。
「ここじゃ弾幕できないって言われちゃって」
「当たり前よ。こんなところでやったら最後の砦が壊れちゃうじゃない」
部屋が壊れるのもあるし、きっと部屋にいる全員が巻き込まれてしまうだろう。そんなことをレミリアが承服できるわけがない。
「レミリア、ここは何の部屋なんだ?」
「地下シェルターみたいなものよ。パチェの魔法で別時空にあるから、外がどれだけ暑くても大丈夫ってわけ」
この部屋は、外と熱の連続性がないらしく、例え外が一億度になっても問題ないらしい。
ただ、この部屋には何もないので、ここで過ごすことはできないらしいのだけど。今のところはキャンプのような生活をしていて、フランもそれで楽しそうにしているのだけど、既にフランが暴れ始めているように、我慢の限界というのもあるようだ。
「フラン、俺は何をすればいい?」
弾幕ごっこはできないけれど、俺の幻空に入っているものなら色々できるが…と考えていたら、フランがふと俯いて、少し顔を赤くしながらつぶやいた。
「じゃあ、そこ座って」
言われた通りに座る。胡坐をかいて座れという指定もあったので、そのまま従う。
そうすると、フランは何も言わずに、俺の胡坐の上に座った。俺の体に背を預けるように座ったフランは、なぜか妙に姿勢がいい。胡坐の上に座っているというのに、垂直に伸びた背は辛そうだ。
「フラン?」
「いいから!座ってて!」
フランが何をしたいのか分からないまま流れていく時間。
助けを求めるようにレミリアたちを見るが、レミリアは見守るような表情だし、咲夜は瞠目し、パチュリーは本を読んでいた。
フランの視線を戻すと、何度も深呼吸をしていて、まるで覚悟を決めているかのような面持ちだ。俺から顔を見ることはできないのだけど、雰囲気だけでそれが伝わってくる。
「っ…」
緊張したままに、俺の体にもたれかかるフラン。よく分からないが、そのまま優しく受け止めてあげる。
「ひゃう!」
「フラン?」
「いいから!気にしないで!」
少しずつ脱力をして、俺の体に体重を預ける。なんだろう、この奇妙の時間は。
この妙な時間は、俺が調査に戻ると声をかけるまで続くのだった。
定晴「美鈴はどこに?」
咲夜「買い出しに行かせたのですが、戻りませんね」
定晴「えぇ…」