東方十能力   作:nite

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三百九十一話 温度認識のずれ

人里まで飛んできたが、妖夢の姿を見ることはなかった。森の中も一応見下ろしていたけれど姿はなかったし、本当にどこに行ってしまったのだろうか。

人里には未だに誰の姿もない。人里の人間がエアコンもなしに耐えられるわけがないので、地底や紅魔館のあれを見るにどこかに避難場所があると思われる。一応人里の人間は保護対象のはずなので、慧音か紫がなんとかしてくれていることを祈るとしよう。

妖夢探しを平行に、俺は異変の調査を進める。いつの間にか、太陽はすっかり沈み夜になっていた。夜になってもくそ暑い状況は変わらず、重装甲は脱げそうにない。太陽の暑さはなくなったと思うのだが、まるでサウナのような暑さがずっと残っているのである。

 

『ご主人様、戻らないの』

『夜に調査するのもありだと思って』

『そう…無理しないでね』

 

ルーミアからの通信に返答しつつ、俺は迷いの竹林の方へと向かった。

外の世界なら夜に調査しても誰にも会えないが、幻想郷は妖怪が住人の世界だ。むしろ、夜に行動する妖怪の方が多い。霊夢とか魔理沙とか、そういった人間たちの活動に合わせるような生活習慣の妖怪も多いが、野良妖怪などは未だに真夜中に行動をする。

迷いの竹林は、いつも通りの霧に覆われていて、方向感覚は失われてしまいそうだ。暑さも変わらずだし…と、俺は妹紅のことを思い出した。あいつは確か炎を操るようなことができていたはずだ。

幻想郷を全部暑くするほどの熱を出すにはただの炎ではどうしようもないし、そもそも妹紅にそれをする理由がないので犯人だとは思えないけれど、何か関連した情報を持っているかもしれない。

俺は妹紅の家に向かって飛んで行った。

 

「妹紅ーいるかー」

 

妹紅の家は竹林の近く、というか若干中に入った位置にある。不老不死なので、この暑さで苦しむことはあれど死ぬことはないはずなので、生きているのは確かなのだけど…

 

「妹紅ー」

 

俺は扉をノックするが、返事はない。こんなに暑いのに、夜になっても戻らないなんて…いや、それは俺もか。

建物の中から気配を感じないし、寝ているというわけでもなさそうだ。仕方ないので、俺は妹紅を諦めて竹林の中に足を踏み入れる。

正直まだ自力で竹林を踏破することはできない。だが、まあ適当に歩いていれば何か見つかるだろうという小さな希望をもとに歩き出した。迷ったとしても、最悪高く飛んでから無効化で平衡感覚だけは元に戻しつつ飛べば出れる。

そうしてひたすら歩き続けていると、近くから小さな音が聞こえた。それは、何かが潜む音。何をしようとしているかは不明だが、何か企みを持って隠れている音だ。

注意しながら前に踏み出した瞬間、足元の土が消滅した。正確には、俺の足元に割と深めの穴が開いたのである。

 

「うわっ」

 

すぐさま霊力で浮遊…した瞬間に、顔に向かって泥の塊が飛んでくる。それらをすべて結界で弾いてから、誰かが隠れているところに向かって火の魔術を放った。

茂みと竹の一部が燃えると同時に、兎耳の少女が飛び出てきた。

 

「あっぶなー!竹林で火を放つとかあんた正気!?」

「こんな夜間にいたずらをするとか、正気かお前」

 

いたずら好きの因幡兎、てゐは少し焦がしたらしい服を叩きながら、涙目で俺に文句を言った。

 

「こんな時間に不用心に歩いてるあんたが悪いんだよ!」

「あのなぁ…」

 

夜になったとはいえ、まだまだ活動するには明らかに暑すぎるというのに、結構元気な様子のてゐ。そもそも竹林に来る人もいないだろうに、いたずらのために竹林に潜むなんて、なんという根気であろうか。

その根気とやる気をもっと別のことに活かすことができれば、てゐも何かを成し遂げることもできるとは思うんだが…

 

「人間…人間だよね?そんなのがこんな竹林で何の用」

「ん?ああ、分からないのか」

 

今の俺は重装甲。見た目だけでは誰かは分からない。どうやら、てゐは俺が誰なのかわかっていないようだ。

そもそも、重装甲なのに一目で俺と判断した今までの人々が凄いのだ。

 

「定晴だ」

「…何、コスプレ趣味にでも目覚めた?」

「コスプレに見えるのか…ほら、この暑さだろ。こうしてないと危ないんだ」

 

そもそも幻想郷にコスプレの概念があったことに驚きだが…今の俺の装備は生き残るために致し方なくしているものだということを説明する。

だが、てゐはいまいち要領を掴めないらしく、首を傾げている。

 

「言うほど暑い?残暑なのはそうだけど、人間ってそんなに暑さに弱いわけ?」

 

先ほど俺が回避した穴をわっせわっせと埋めながらそう言うてゐ。

まさか竹林も熱遮断されてるのかと思ったけれど、しかし、俺の重装甲が外はまだ死ぬほどの暑さであるということを示している。

 

「因幡兎はそんなに熱に強いのか?」

「いやー?私たちは妖怪だけど、言うてただの兎だからねー。兎は兎ウサ」

 

なんか妙に小馬鹿にした喋り方をするてゐ。なんだか、絶妙に話がかみ合わない。

 

「外は八十度くらいだろ」

「そんなことない。精々三十何度とかだよ。暑い暑いとはいうけど、猛暑はもう過ぎ去ってるって」

 

おかしい。

俺の重装甲から感じる熱は、確かにまだ外が五十度を超えた地獄の熱量に支配されていることを示している。しかし、てゐはそんなに暑くないという。そんなことがありえるのか?

 

「永琳から何か薬でも貰ったか」

「あの人から知らない薬をもらうほど命知らずじゃないウサ。そういうのはあのバカ兎だけでいいウサ」

 

なんかよくわからない語尾をつけ始めたてゐ。だが、それを気にしている場合ではない。

 

「永遠亭まで案内してくれないか」

「えー?」

「人参あげるから」

 

暑さにやられないように、一部の食材を幻空に入れている。基本的に保存食とかインスタント系を食べているが、それすらもなくなった時のための最終手段だ。

 

「てゐは人参に負けるような安い女じゃないウサ。でも、人参くれるなら連れてったげる」

 

とりあえず、人参に負けた安いてゐに永遠亭まで連れてってもらう。いたずらをした後は、ちゃんと後処理するし案内もしてくれるいい子なんだよなぁ…

てゐの案内で竹林を歩く。熱はまったく変わっていないが、やはりてゐは特に暑さに弱っている様子はない。お燐ですらちょっと暑いと言っていた暑さを、ただの因幡兎のてゐがどうにかできるとは思えないのだけど…

そうして永遠亭までたどり着くと、てゐは竹林の中へと戻っていく。

 

「案内ありがとな」

「じゃねー」

 

ピョンピョンと、兎のように軽い足取りで竹林に消えていくてゐ。また誰か来るまでいたずらを仕掛けて待機するのだろうか。

 

「おーい、誰かいるかー」

 

俺がそう呼びかけてしばらくすると、中からトタトタと音が聞こえた。

横にスライドして開いた扉には、不思議そうな顔をしている鈴仙が一人。

 

「えーと…定晴さん?どうしたんですか、こんな時間にそんな恰好で」

 

ちょっと話をしたくて。

やはり気温に関して妙に認識がずれているっぽい鈴仙に迎え入れられて、俺は永遠亭に入った。

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