東方十能力   作:nite

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三百九十二話 竹林の永遠

永遠亭の中は特に温度対策がされているわけではないようで、重装甲の外から暴力的な熱量を感じる。だというのに鈴仙はいつも通りだし、現れた永琳もまたいつもの恰好をしていた。

 

「あら定晴。随分な恰好ね」

「むしろ俺のセリフなんだが…」

 

まるで…いや、実際に奇怪な人を見るかのような視線を俺に向ける永琳。

 

「まさかとても重篤になってウイルスを防止するためにそういう服を着てるの?」

「まさか」

 

俺は永琳に、現在の幻想郷で起こっていることを説明した。即ち、幻想郷中が圧倒的熱量によって滅びかけているという話だ。

だが、永琳はその話を聞いても首を傾げる。本当に何も知らないようだ。

 

「竹林にそういう結界でも張ってるのか?」

「そんなわけないわ。昔は人を惑わす術式もあったけど、今は普通の診療所よ」

 

永琳たちはここ数日永遠亭から出ていないらしい。どうやら新薬の研究が佳境で、連日鈴仙たちを対象に臨床実験をしていて竹林を出ることがなかったという。

だが、俺はこの永遠亭でも熱量を感じる。永琳たちは何も感じていないというのがおかしな話なのだ。

 

「薬の副作用に熱を感じないとかあるのか」

「そういう薬もあるけど、ここ数日に服用してないわよ。今試してる薬は全身筋肉痛になる副作用だから関係ないし…」

 

地味に嫌な副作用だと思いつつ、本当に永琳たちにもわからないということが分かった。異変の犯人でもなさそうだけど、ここだけ暑さを感じていないというのは調査すべき事項だ。

ここが暑いというわけではなく、暑く感じていないというのも重要なポイントだ。俺にとってはここも同じく極暑だというのに…

 

「定晴、ちょっと身体検査してみない?」

「身体検査?」

「もしかしたら、何かわかるかもしれないわ」

 

いつの間にか永琳が手元にカルテを持っており、いつでも調査できるといった様子だ。だが、そう簡単に検査することはできそうにない。

 

「これを脱いだら死ぬが」

「…それもそうね。実際に暑いのよね」

「ああ。一瞬で体内の水分がなくなっていく感覚もある。死が近づいてるってな」

 

熱中症のような身体機能不全に関するものに関しては、浄化が意味をなさない。また、慢性的に続く症状なので、無効化を使っても効果がない。

結局、今のように重装甲で体を冷やすという方法が最もいいということになる。パチュリーが使ってた熱遮断の結界を俺も使えるようになりたいものだ。

 

「ちょっと色々とこっちで調べてみるわ。定晴は引き続き調査を頑張りなさい」

 

残念そうにカルテを片付けながらそう言う永琳。身体検査を楽しみにしていたらしい。

永琳がいるこの永遠亭は、幻想郷でもトップクラスの研究機関だ。河童たちのところでも調査のようなものはしているかもしれないが、研究という意味ではここには遠く及ばないだろう。

月の頭脳をフルに使ってもらえるのであればそれだけでありがたい。もしかしたら、永琳がすべてを解決してくれる可能性だってある。

 

「ああそうだ。これを持っていくといいわ」

 

思い出したような表情を浮かべつつ、棚の中から取り出したのは水筒のような形をしているフラスコ。透明なフラスコの中には、水色のきれいな透明感を持つ液体が入っていた。

 

「これは?」

「熱中症によく効く薬よ。体内の水分量を調節し、一瞬で治すわ。一口飲むだけで水筒一つを飲むのと同じくらいの保水効果が見込めるわよ」

 

熱中症に効く薬だなんて…やはり月の医者は凄まじい。

熱中症に特効薬は存在しない。なぜなら、一般的な薬で治療するウイルス性症状ではないからだ。俺が浄化を使えない理由であり、また再生でもどうにもならない理由なのだが…

 

「熱中症になってる子にも、二口くらいで元気になるわ」

「ありがとう。助かるよ」

 

フラスコを幻空の中に入れてお礼を言う。現在妖夢探しも平行しているので、もしかしたらどこかで妖夢が倒れている可能性もある。この薬があればどうにかなるだろう。

俺は連絡用のお札を渡して、永遠亭を後にする。永琳の調査で何か分かれば、お札を経由して連絡が来ることになっているので、永琳に期待だ。

そうして俺が鈴仙の案内で竹林に入ろうとすると、竹林の中から声が聞こえた。

 

「あら、イナバと…誰?」

「定晴だ」

「コスプレ趣味でもあるの?」

 

中から出てきたのは、ボロボロな妹紅を抱えた黒焦げの輝夜であった。妹紅は気絶しているようで、喧嘩のあとだというのは見てわかる。

 

「姫様、またですか」

「今日は私の勝ちよ!」

 

見た目はボロボロだけど、実に元気そうに返事をする輝夜。どうやら勝利の快感に浸っているらしい。

 

「それで、なんであなたはそんな装備をしているの?」

 

輝夜の視線が俺に向いたので、俺は今幻想郷で起こっていることについて説明する。やはり、輝夜も異変の影響を受けていないようだ。

また、なんで永遠亭周りだけ影響がないかを聞くと、意外にも返答があった。

 

「それは永遠亭は変わらないからよ」

「どういうことだ?」

「永遠亭は何年経っても朽ちないし壊れない。そういう場所だから。周囲の竹林もその効果で、そうそう変わらない。永遠亭に影響がないのは、そういう性質があるからよ」

 

そういえば、輝夜は摩訶不思議な能力を持っているんだったな。それは俺の平行世界による成功の手繰り寄せを知覚するようなもので、永遠を操るようなものでもあったはずだ。

他にも色々と要因はあるようだけど、輝夜の能力や永琳の頭脳によって、永遠亭は文字通り永遠の建物となっているらしい。たまにてゐがいたずらをして壊れるらしいが…基本的に変化という変化を受け付けないという。

 

「でも、夏は暑くなって冬は寒くなるだろう?」

「それはそうよ。でもこの暑さは異常なものでしょ?異常なものを受け入れるほど永遠亭は甘くないわよ」

 

とても強い自信…どうやら、永遠亭の神秘性に関しては強い自負があるらしい。

なるほど。永遠亭に暑さがない理由は…いや、ちょっと待て。

 

「俺はここも暑いんだが」

「…それは知らないわ」

 

輝夜も妹紅も特に暑さを気にせず戦っていたらしい。二人は不老不死だけど、だからと言って熱を感じないというわけではないだろう。

謎がまた増えてしまった。幻想郷全体で熱を感じるが、しかし、そもそも熱を感じない人もいるとは…一体どう調査すればいいのだろうか。

 

「やっぱりスキマ妖怪に聞きに行くのがいいんじゃないの?」

「呼んでも来ないんだよな…」

 

紫の家は結界と結界の狭間に存在しており、生身で到達することはできない。そこは最強の隠れ場所とも言え、具体的な物理的距離を示すことはできないのだ。だからこそ、紫は呼ぶしかないのだけど…

 

「なら式神に伝えたらいいじゃない」

 

そこまで言って、輝夜は妹紅を持って永遠亭の方に歩いて行った。

式神か…藍も紫と同じく狭間にいる可能性が高いが、だとすると幻想郷にいる可能性があるのは…橙。彼女は確か幻想郷の中の家で猫たちと過ごしていると昔藍に教えてもらった気がする。

 

「ひとまず目的地も決まったし、鈴仙、案内を頼む」

 

そうして俺は竹林を後にした。すんなり連絡を取ることができればいいが…

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