東方十能力   作:nite

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三百九十三話 マヨイガ

竹林から飛び立ち、空を飛ぶ。月がもう高いところまで昇っているが、まだまだ死ねるような暑さが幻想郷を包み込んでいる。

すっかり月が高くなっており、夜風は若干の涼しさを感じさせる。しかし、空間自体が死ねる暑さをしているので、この重装甲を脱ぐことはできなさそうだ。

 

「橙がいるはずの猫屋敷…妖怪の山の奥の方って言ってたな」

 

俺は橙たち猫が隠れ住んでいる場所であるマヨイガの場所を知らない。そこで、今家にいるであろうルーミアとユズに通信で連絡を取ったところ、意外にもユズから返答が来た。

どうやら前に博麗神社で橙と遊んだらしく、その時に場所を教えてもらったらしい。行ったことがないので具体的な場所は分からないものの、正面(いわゆる霧の湖側)からは見えない位置にあるとのこと。

俺は今日一日で何度も幻想郷中を行ったり来たりしており、活動時間の半分ほどを移動時間に費やしている。幻想郷はそこまで広いところではないとはいえ、やはりそう何度も移動を繰り返すと無駄に時間を使うことになってしまう。

次異変調査をするときはもっと効率的に移動しないとな…

 

「さて、流石に流されてはいないだろうから…」

 

河童たちによって滝と川が量産されている現在の妖怪の山は、一部の地形がいつもと変わっている。地形の変動に関しては、諏訪子がいくらでも後から戻せるだろうからいいのだけど、いつもと景観が変わって位置が分かりにくくなったのはよくない。

とはいえ、夜にもなったし妖怪の山も近くなったので、重装甲は脱げそうだ。重装甲を幻空に入れると、水のひんやりとした風が流れてくる。俺の家の周りも魔術で水浸しにした方がいいだろうか。

 

「定晴さん、何してるんですか?」

「おっと、椛か」

 

妖怪の山に入ると、すぐに声をかけられた。白狼天狗の椛が、いつもよりも幾分か薄着の恰好で飛んでいた。

 

「紫と連絡が取りたくて、橙がいそうなところを探してるんだ」

「なるほど…探しましょうか?」

「いや、わざわざ手間をかけてもらうほどじゃない」

「手間にもなりませんよ」

 

そう言うと、椛は遠くの方を眺めた。そして数秒後にはこちらを向きなおして結論を言う。

 

「橙さんは小屋にいるみたいですね」

「……ああ、能力か」

「はい。ここからでも見えますので」

 

ニコっと笑う椛。やってることはとてつもない。

椛は確か千里眼の能力をもっていたはずだ。どこまで見えるのかは俺も知らないけれど、ここからでも妖怪の山のどこかにある小屋の様子がわかるのだろう。侵入者を探す役目として、うってつけの能力である。

 

「案内しましょうか?」

「それこそ手間になるだろ。場所さえ教えてもらえば一人で行く」

「分かりました。小屋は山の裏の…」

 

椛に小屋の場所を教えてもらってから別れる。こんな夜中にも哨戒任務に就いているのだろうか。勤勉なことだ。

とはいえ、椛のおかげで無駄足になることはなさそうだ。行くまでいるかどうか分からなかったので、答えが前もって知れたのは大きい。

椛が教えてくれた場所に行くと、森の中にひっそりと建っている小屋を見つけた。多分今回の地殻変動で増えたのであろう川がすぐそばを流れていて、小屋の周囲はひんやりとしている。

 

「橙ー、いるかー」

 

俺が小屋の扉をノックすると、中から数匹の猫の鳴き声が聞こえたあと、扉が開いて橙が出てきた。なぜか随分と顔に引っかき傷がある。

 

「あれ、どうしたんですか?」

「紫か藍に連絡が取りたい。できるか?」

 

橙の足元から猫が何匹か顔を出している。妖怪でもなんでもない、普通の猫だ。その猫が橙の足をじりじりと引っかている。本気ではなさそうだけど痛そう。

 

「今は式神憑きなのでできます!ちょっと待ってくださいねー」

 

橙がそう言うとムムム…と何かを念じている。きっと式神通信を使っているのだろう。

俺たちが式神通信をするときはそんな強く念じる必要はないのだけど…使い慣れていないのだろうか。

 

「えっと、しばらくしたら来るらしいので、守矢神社で待っていてほしいとのことです」

「ありがとう。えっと…お礼に再生しとくな」

 

傷が気になって仕方ないので、俺は再生で橙の顔と足の傷を癒す。ただ、足に関しては再生した傍から傷つけられてしまっているのでどうしようもないだろう。橙は猫に嫌がらせでもしているのだろうか。

 

「わあ、ありがとうござます!この子たち、マタタビがなくなったらすぐ攻撃してくるんだから…」

「というか橙はここで何してたんだ?藍たちの手伝いとかは」

「私は藍様のように頭がよくないので…ここで待機中です!」

 

うーむ、あまり聞かない方がよかったか。

俺は橙に別れを告げて空に飛び立つ。橙は一匹を抱き上げて顔を引っかかれながら小屋の中に戻っていった。そんな風に無理に抱き上げるから嫌われるのでは?

ともかく、守矢神社に向かえばいいらしいので、そのまま直行。もう夜なので、参拝客も早苗の姿もない。

 

「定晴さん、お待たせしました」

 

しばらく境内を眺めていると、スキマが開いて藍が出てきた。その顔には疲れが滲んでいる。きっと異変の対応のために色々としているのだろう。

 

「忙しいところすまない。異変対応がどうなってるか聞こうと思ってな」

「そうですね…ひとまず暑さの原因は分かりました。いえ、私と紫様は特になんともないのですが、幻想郷中で暑さが蔓延してる理由は分かりました」

「蔓延?」

 

そんなまるで病気のような…と思っていたら、藍から驚きの事実が飛び出た。

 

「蔓延です。この暑さは、いわゆる狂気的なもので生み出された、幻の暑さなんです」

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