動物異変とも呼ばれるあの異変調査のときは、霊夢とともに彼岸にきて、関所にいた久侘歌と戦って地獄へと入った。霊夢は特に苦戦した様子もなかったが、それでも戦闘は覚悟をしていた。
だが、実際のところはスキマで関所を無視して入っている。分かりやすく言えば、不法侵入である。
「これっていいのか?」
「バレなきゃいいのよ。それに、異変調査なんだからきっと閻魔様も許してくださるわ」
映姫の性格からして、怒られるとは思うけれど…今戻って所でどうしようもないし、異変調査のために仕方のないことなので反論はしなかった。もし紫が怒られるときは俺も一緒に怒られるとしよう。
昔ここに来たときは人間の霊は少なく、動物霊ばかりが飛んでいた。しかし、今はいろんな霊が浮かんでおり、どれもどこか煤けて見える。
「ここの霊はどれも裁かれるべくしてここに来た奴らよ。あまり関わらない方がいいわ」
「そうだな」
近づいてくる幽霊たちは全部紫がスキマで追い返してしまう。そもそも、俺と紫を囲うように結界が展開されているのでそもそも容易に近づくこともできない。
俺必要ないんじゃないか?
「なあこれ俺なしで探索した方が…」
「なんてこと言うのよ!あなたがいるだけで私のモチベーションになるのよ!」
まるで俺が世界の常識に反したかのように怒る紫。
告白された身で紫のことを放置するのも悪いか。俺の力が必要になることなどほとんどないだろうけど、後ろからもしもの時のために待機しておくか。
「それに、私は狂気の方向なんて分からないもの。先導してもらわなくちゃ」
「境界いじってどうにかならないのか?」
「狂気の境界を弄るって…聞くだけでまともなことにならないのがわかるわね」
そりゃそうだ。
魂の狂気に従うままに地獄を飛んでいると、いつの間にやら地獄の本場みたいなところへたどり着いた。
血の池地獄や針山地獄などが分かりやすく存在し、他の地獄も並んでいる。そこに幽霊たちが投げ込まれたり自ら入って行ったり…これが地獄かぁ。
「妖怪も死んだら地獄に?」
「来るやつもいるわよ。でも、妖怪って基本的に受動的な存在だから、そもそも裁かれずに消滅することが多いわ」
紫曰く、世界に対して明らかに看過できないレベルの悪影響を与えた妖怪は地獄へと来るし、英雄的なことがあれば天国に行けるのだという。
妖怪に天国って大丈夫なのかと思うけど、英雄的な妖怪ならば浄化くらいどうてことないらしい。
「それで、目的地はどっち?」
「いや、ここみたいだ。ここに入ったら具体的な方向が分からなくて…」
正確に言うならば、全方向から狂気を感じる。この空間のどこかに狂気の元があるのは間違いないだろう。
「地獄から幻想郷に影響を及ぼすってできるのか?」
「できない…って言いたいところだけど、状況によってはできるわ。ただ、そんなことは起きないけど」
どういうことだろう、と思っていたら、代わって紫は先導をし始めた。どうやら、何かを知っているだろう人物に会いに行くらしい。
そうして飛ぶこと数分。まるで無限にも続くかと思われた地獄の中に、誰かが浮いているのが見えた。
「あら、幻想郷の賢者様が直々に来るだなんて、どうしたのかしら」
「私が動かないといけなくなったというわけよ、ヘカーティア」
地球、月、よくわからない惑星の三つの周囲に浮かせた赤い髪の女性。そこから神奈子や諏訪子、ミキと同じように神力を感じる。
そして何より…なんだそのシャツ。Welcome Hellって文法的におかしくないか?
「そっちは?」
「俺は堀内定晴。異変調査中だ」
「あら、また何か異変が起きたの?」
赤い惑星を頭の上に乗せながら、ふわふわと浮かんでいる神。きっと、地獄の神なのだろう。
おどけたような雰囲気を出しつつも、その気配というか強さというのは隠れることなく俺の体を貫いている。少なくとも、手を出せば無事では済まないだろう。
「おっと、私はヘカーティア・ラピスラズリ。全地獄の神よ」
「恐ろしい気配をひしひしと感じるよ」
ヘカーティアは、この地獄だけでなくすべての地獄を司る神らしい。地球だけでなく異世界の地獄も彼女の場所らしい。意味が分からない。
多次元同位体らしく、それらすべての地獄に一つずつ体を持っているらしいのだけど…やはり意味が分からない。神様ってたまにデタラメなんだよなぁ…
「それで、ここに何しに来たの?」
「ここに異変の元凶がいそうだから来たのよ」
ヘカーティアと紫が情報交換をする。ヘカーティアは地獄で異変が起きているとは認知していなかったようだけど、調査をしていいか尋ねると素直に頷いてくれた。
地獄で起きていることは大抵知覚することはできるけど、特に意識していなかったらしい。流石に地獄の神に狂気は効かないと思うけれど、俺には分からない。どのみち、地獄で調査はしないといけないらしい。
「でもまあ、地獄で狂気って言われたらあの子しかいないわね」
「あの子?」
「クラウンピースよ。うちの部下で、今は幻想郷に住まわせてるんだけど…」
…ああ、あの妖精か。かつてチルノと共に戦った、松明を持ってる妖精。
確かにあれは光を見ると狂気に触れるという能力であった。しかし、あのレベルの狂気なら俺の浄化でどうにでもなるはずだし、松明を見た覚えもない。
「まあ、私も何か見つけたら教えてあげるわー」
そう言ってヘカーティアはどっかに飛んで行った。気ままな人なのだろうか。
紫はむむむとしているが、しばらくするとため息をつく。
「人探しは苦手なのよ。地道に探すしかないわね」
「こう、見つける境界を弄ってとか…」
「妖精相手にそれすると増殖するわよ」
増えるクラウンピース…うむ、面倒だな。
地獄のどこにいるのかは分からないけれど、狂気がここにいると言っているので地獄を探すとしよう。紫と行く地獄ツアーの開始である。