東方十能力   作:nite

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三百九十九話 地獄からの脱出

妖夢は見るからに辛そうに横たわっていた。体に触れてみると非常に暑くなっており、熱中症で倒れていることがうかがえる。

なぜ妖夢がここにいるのかは不明だが、見つけたのなら助けなければなるまい。紫を離さないように抱えながら、永琳から貰った熱中症に対する特効薬を手持ちの水と一緒に飲ませる。すると、数秒で荒い息が落ち着き体の温度が下がっていく。

なんだこの薬。外の世界で売られたらそれだけで死者が激減するぞ。

 

「んん…」

「妖夢、大丈夫か?」

「あれ、ここは…定晴さん?」

 

ぼんやりとしてはいるものの、無事目が覚めた。そこで何があったか聞いてみると、地上で熱中症になり倒れたあと気が付いたらここにいたとのこと。誰が運んだかは不明のようだ。

妖夢の刀は丁寧に横に置かれており、妖夢が元々持っていた手荷物もすべてそこに並べておかれていた。一体誰が…ピースが連れてきたのだろうか。なんのために?

 

「あれ、紫さん!?」

「こっちは熱中症とは別の症状だ。さっさと地上に戻りたいんだが…」

 

スキマがないので帰れない。妖夢はもう歩き回れるほどに回復したものの、無間地獄から出る手助けはできそうにない。

 

「では地獄の神を呼べばいいのでは?」

「呼んでくるようなものなのか?」

「彼女は全界を知覚するみたいなので、しっかり名前を呼べばいい…と幽々子様は言ってました」

 

脱出の手段などそうない。ここは幽々子を信じて呼んでみるか。

俺は窓を開けて、そこから大声でヘカーティアの名前を呼んだ。それは無間地獄に響き、またその声のせいで亡者たちが地面を這いずりながらこちらへと近づいてくる。

まだ怪我をしているうえ紫を抱えている俺を守るために、妖夢が近寄ってくる亡者を斬っていると、突如背後に気配を感じた。

 

「なんであなたたちこんなところにいるわけ?」

「色々あってな」

 

瞬間移動…なのだろうか。家の扉は一つしかないはずなのに、いつの間にやら家の中にヘカーティアが立っていた。変な色の惑星を頭に乗せているヘカーティアは周囲をきょろきょろ見渡したあとに、大きくため息をついた。

 

「ここ、管理不足ね。やっぱり誰か配置した方がいいのかしら」

「狂気に耐えられるやつをお勧めするぞ」

 

ヘカーティアはその力で亡者を蹴散らしてくれたので、妖夢を家の中に呼び寄せる。流石妖夢、寝起きでの戦闘だったのにも関わらず怪我一つ負っていない。

妖夢はいつの間にか家の中にいたヘカーティアに一瞬びっくりしたが、すぐに頭を下げる。

 

「こんなところまで来ていただいてありがとうございます、ヘカーティア様」

「いいのいいの。なんか紫ったらぐったりしてるし」

 

紫は度重なる精神的負荷のせいか、いつの間にやら眠っていた。狂気的になって暴れられるよりもよっぽどましだ。紫が狂気で暴れたら、いったい誰が止められると言うのだろうか。

 

「んじゃあ地上に戻るってことでいい?と言っても、地上側の地獄までだけど」

「それでいい。ここからだと死ぬまでかかるって紫に言われたから」

「ちょっと特別なルートもあるのよ。取り合えず、三名を…ぽーん」

 

スキマよりも奇妙な感覚。いつの間にやら周囲の景色が変わり、地上側の地獄へと戻ってきていた。

思考の中断すらもなく、まるで夢のような変化の仕方だ。ミキの時空移動と同じような気配を感じる…いや、ヘカーティアは神様だったな。

 

「紫はさっさと地上まで戻った方がいいわね」

「言われなくとも」

 

俺はヘカーティアにお礼を言って、妖夢と共に地上へと向かう。ここにも亡者や地獄妖精など襲ってくるやつらがいたが、それらはすべて妖夢は切り捨ててしまった。

 

「いい太刀筋だ」

「あ、ありがとうございます!」

 

妖夢の剣術指南を始めてから随分と時間が経った。最初から妖夢は素晴らしい太刀筋をしていたが、最近は戦闘という方向で目覚ましい実力を発揮しているように思える。

俺が教えている剣術が実践向きというのもあるのだろうけど、妖夢のポテンシャルが十分に引き出されている状態と言ってもいいのかもしれない。

そうして妖夢に守ってもらいながら地獄を抜けようとすると、見覚えのある門が現れた。これは、久侘歌が門番をしていたはずの関所だ。

門の上に座ったまま、地上の方を向きつつ足をブラブラさせている。鼻歌まで歌っているので、相当な暇であり気を抜いているという証だろう。

そこを俺たちは全速力で駆け抜ける。

 

「ふんふーん…あれ!?なんで後ろから!?」

「急いでるんで!」

「失礼します!」

 

久侘歌は門を通った俺たちに気づいたが、背後から来たということもあってか攻撃を受ける前に通り過ぎることに成功。

そのままぐんぐんと門との距離を開きつつ、やっとの思いで俺たちは地上へと逃げてきたのであった。

そうして地上に逃げ込むと、抱えていた紫からか細い声が聞こえた。

 

「あぇ…定晴…?」

「紫、起きたか」

 

俺は紫をそっと地面に立たせてあげる。少々ふらついたものの、大妖怪の意地か倒れることなく立ち上がった。

その顔色は未だに悪いが、ひとまず苦しそうな表情はない。

 

「運んでくれたのね…」

「ああ、気分は大丈夫か?」

「うぅ…妖怪の本能が変に刺激されてて気持ち悪いわ…」

 

紫ほどの大妖怪ともなれば妖怪の本能…即ち、人を襲い喰らう衝動にも容易に耐えられる。幻想郷の管理者ともなれば、人を日頃から襲うわけにもいかないので衝動は常に抑えているはずだ。

しかし、本能とは言わば無意識のもの。狂気によって理性を失ってしまえば、抑えられなかった衝動がそのまま表れることとなる。紫に人間が襲われれば…言わずもがな悲惨なことになるだろう。

 

「不動のときも感じたけど、これ本当に気持ち悪い…」

「無理やり解き放つようなものだからな」

 

俺がそうやって紫を支えつつ宥めていると、ふと声が聞こえた。高く幼い声ながらも、凛としており聞くだけで背筋が伸びるその声の主は…

 

「何をしているのですか。妖怪と人間と半妖が」

 

その手に持つ笏を真っ直ぐにしながら、こちらを疑うように見ていた。

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