泣く子も黙る、偉大な閻魔・四季映姫がそこに立っていた。疑うような視線を向けつつも、紫を慮るような雰囲気を感じる。
彼女はこちらに近づき、紫を一瞥した後に俺に向かって話し始めた。
「説明を求めます」
「そうだな…幻想郷に起こっている異変はご存じで?」
「そこから話しなさい」
どうやら映姫は、現在の幻想郷の異変を把握していないようで、俺が異変のことを話すと露骨に表情を変えた。
幻想郷が極暑の地獄と化していること、そしてその原因が狂気であったこと、その狂気をどうにかするために地獄に入ったことを伝えた。
すべてを説明し終わると、映姫はその手の笏を振り上げ…
「なぜもっと早く連絡しないんですか!」
紫の頭を強く叩いた。カッコーンと小気味のよい音が響き、衝撃で紫は倒れる。
俺が咄嗟に支えると、映姫はマシンガンの如くその口を動かし始める。
「地獄に原因があると分かったのなら、その時点でこちらに連絡をするべきです。八雲紫、あなたにはこちらと連絡を取る方法がいくらでもあるはず。それを怠ったのはあなたの怠慢であると言えます。彼岸の諸事については大方こちらの管轄なのですから、あなたたち幻想郷の民が勝手にやってきて処理してしまうとそれだけで大変なのです。動物霊の異変のときは魂魄妖夢が予め地獄に入る前に連絡をしてくれたので黙認しましたが、今回はそのような連絡は一切なく、明らかに不法な侵入であり、それは規定に反するのです。幻想郷の管理者を自負している者が、彼岸の規則を知らないなんてことはあり得ませんし、仮にそうであったとしたら認めません。あなたには管理者としての態度が足りず、客観的に言っても怠慢だと言わざるを得ない。それに…」
よくもまあ、そんな長々と説教ができるなと感心する。矢継ぎ早に出てくる言葉は、本来であれば紫に対して多少なりとも反省を促す効果もあろうが…
俺はフラフラしている紫に再生をかけながら横抱きする。どうやら、映姫の一撃がとどめとなってしまったらしく自分で立つこともままならないほどの身体状態になってしまったようだ。頭だったのもクリティカルの要因だったかもしれない。
「映姫、説教はありがたいが、紫がこの状態なんでな。後にしてくれ」
「管理者の立場も……はぁ、分かりました。では続きは回復してからにしましょう」
一応シチュエーション的にはお姫様抱っこなので、紫が目を覚ましていれば喜びそうなものなのだが…如何せん目を回していて抱きかかえられているということすら認識していなさそうだ。
まあ、紫を慮る必要はないので急ぐとしよう。幻想郷に戻ろうと風を生み出すと、妖夢がそこに追随する。しかし、映姫から待ったの声がかかった。
「向こうに戻るなら死神に送らせましょう。小町であればすぐです」
映姫が何か特殊な道具を取り出して小町の名を呼ぶ。式神通信をするものにも似ているので、閻魔と死神を繋ぐ連絡用の道具なのだろう。
映姫が声をかけて数秒、いつの間にか小町が映姫の後ろに立っていた。まるで咲夜のように瞬間的に現れたように感じるが、よくよく認識を思い出してみると確かに小町は歩いてきていたと思い出す。どういう原理かは知らないが、まあ死神の凄い力だと思えばいいだろう。
「お呼びですか」
「この三人を幻想郷まで送りなさい」
「はーい」
バシ
「なんで叩くんですかー!」
「小学生に言うようなことを私に言えと?」
「…はい、了解しました」
「よろしい」
死神も大変だな…小町のずぼらともいえるような性格と、映姫の突き詰めた正しさの相性が悪いというのもあるだろうけども。
小町は川辺に近づき、船を呼び寄せた。それは、いつもなら霊魂たちが彼岸に渡るために使われる渡し船であり、生者は乗ることのない特別な船だ。どうやら、これで俺たちを彼岸まで送ってくれるらしい。
「はいじゃあ乗ってー」
俺たちは小町の船に乗った。小町が船を漕ぎ出し、ゆっくりと動き始める。
「どれくらいかかるんだ?」
「すぐだよ」
船が動き出して、およそ数秒。霧によって彼岸が見えなくなった直後、もう対岸が見えてきた。これにはさすがに俺も驚いてしまう。
「私は距離を操れるんだ。こうやって三途の川を短くするくらいどうってことないってこと」
「なんとも便利な能力だな」
船が岸に着くと、俺たちは降りる。周囲には霊魂たちが集まっており、彼岸に渡るのを待っているようだった。
半分幽霊な妖夢は同族と思われているのか、霊魂たちに群がられていた。助けを求めるような視線を感じたので、輝剣でいい感じに払っておく。
「んじゃ私はこのまま仕事だから。ばいばーい」
随分とやる気のない声と顔で、霊魂たちを乗せて船を漕ぐ小町。
そういえば、三途の川はその者の罪の重さによって幅が変わるという話を聞いたことがあるような気がする。どうやらその話は、小町たち死神の能力によるものだったようだ。小町以外の死神も距離を操る能力をもっているのだろうか。
「定晴さん、私は冥界に戻ります。幽々子様が心配なので」
「ああ、そうしてくれ。幽々子は得に問題なさそうだったが、妖夢がいなければ白玉楼の食料備蓄が消えるかもしれない」
俺がそう言うと、妖夢はビクッとしたあとに急いで冥界まで飛んで行った。冗談のつもりだったのだが…思いのほか、冗談でもない事柄なのかもしれない。なんなら過去に例があったかのような反応だった。
「さて、ひとまず紫を家に連れていくか」
紫がダウンしているのでスキマは開けない。ここらへんは落ち着けるような場所もないので、紫を安静にさせるために家まで連れていくことにした。
そういえば、俺は紫に回復してもらったから分からないけれど、現在の幻想郷は暑いのだろうか。あとで確認するとしよう。