東方十能力   作:nite

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四百一話 添い寝

家で紫を空き部屋に眠らせた。俺の家は無駄に広いので、住人が二人増えた今でもまだ空き部屋は残っている。幻空があるおかげで物置はほとんど必要ないのである。

 

「ルーミア、ちょっと外に出てみてくれ」

「えぇ…いいけど」

「一応異変の元凶っぽいやつは倒したから、その確認だ」

 

俺の言葉を聞いて、ルーミアが恐る恐る外に出た。ほどなくして、中に戻ってくる。

 

「まだとても暑いけど、死ぬほどって感じはしないわね」

「一応薄れてるってことでいいのかな」

 

ひとまず今回の異変は解決ってことでいいのだろうか。どうにも色々と引っかかるところはあるのだけど…

例えば、なぜ妖夢が無間地獄にいたのか。例えば、なぜヘカーティアが把握していなかったのか。例えば、なぜ映姫が知らなかったのか。例えば、なぜ俺が気が付けなかったのか。

パチュリーの魔法で紅魔館が涼しくなっていた理由もよく分からないし、紫があそこまで後手に回った理由も分からない。何も分からないままに、異変の元凶らしき肉塊とクラウンピースを倒して収束した。

 

「お疲れ、ご主人様」

「本当に、今回は疲れたよ」

 

ルーミアとユズから妖力が送られてくる。

今回の異変の調査中はずっと身体強化と魔術を使用し続けていた。俺の霊力は人にしては多い方だが、それでも一日中能力を使っていればその残りも少なくなる。特に、最後のピースとの戦闘は堪えた。今もう一度戦えと言われても勝てないだろう。

俺がソファで倒れていると、扉を叩く音がした。

 

『定晴さん、紫様の様子を見に来ました』

 

ユズが扉を開けると、そこにいるのは藍と橙。どうやら、橙は無事に回収してもらえたようだ。

 

「定晴さん、紫様は無事ですか?」

「こっちに戻ってきたから多分大丈夫だと思うが…」

 

最後見た時には既に顔色は戻っていて、魘されているが呼吸は安定していた。

俺は藍と橙を連れて、紫を眠らせている部屋に向かう。家具らしい家具もおいていない部屋で、紫のために設置した布団だけが置かれている質素な部屋だ。

部屋に入ると、紫を体を起こしてぼーっとしていた。どうやら目は覚めていたらしい。

 

「紫様、体調はいかがですか?」

「…」

「紫様?」

 

藍が呼びかけても紫は何の反応も示さない。

俺たちが近づくと、まるで今気が付いたかのようにゆっくりと首を動かしてこちらを向いた。まるで現在も夢の中にいるような、そんな表情だ。

 

「ゆかりさまー」

 

橙が声をかけても反応はない。まだ体調が優れないのだろうか。

しょんぼりとした橙を後目に俺が紫に声をかける。

 

「紫ー、まだ休んでても…うわっ」

 

その瞬間、紫は俺に対して飛びついてきた。紫は瞬時に結界を展開しており、俺は逃げることができないし藍たちも止めることができない。

そうして紫に飛びつかれた俺は…最終的に、紫の添い寝をさせられていた。

 

「えっと…定晴さん、お疲れでしょうから、そのままお眠りください。家事は私たちがやっておきますから」

「任せてください!」

「助けるという選択肢は?」

「では、おやすみなさい」

 

無視かい。

俺に飛び掛かった紫は、その妖怪らしい腕力で俺を布団に引きずり込んだ。何とか俺も抵抗しようとするが、紫が随分と本気で引っ張っていたので、途中で諦めて引きずり込まれることにした。

紫は何も言わない。俺のことを掴んだままに、布団でまたもや眠りについている。多分狂気の後遺症のようなものだと思うので、俺も諦めたのだ。藍たちがまったく俺のことを助ける気がないのが気になるけれども。

 

「まあ、今だけはいいか」

「むにぃ…」

 

いつもの賢者の怪しさを吹き飛ばす、見た目相応の少女のような寝顔を見て、俺は小さくため息をついた。

 


 

ご主人様が紫と添い寝していると聞いて、一瞬私は紫に弾幕をくらわそうかと思ったけれど、妖力が見るからに少なくなっていると聞いて、今回は許すことにした。

私もあまり詳しいことは知らないけれど、紫とご主人様は地獄で一生分の狂気を受けてきたらしい。妖怪というのは精神生命体であり、自分自身の精神状態でいくらでも変わりうる存在だ。紫は、その多大な狂気を浴びた影響で一時的に精神が弱っているのだろう。

 

「何かやることはあるか」

「いえ、私たちだって式神としてしっかり仕事してるもの」

 

藍たちは二人を部屋に置いたまま、紫が起きるまでここに滞在すると言った。家事は私たちが日ごろからしてるからすることはないわよ。

現在時刻は深夜の三時。私たち妖怪からすると一番の活動時間ではあるけれど、ご主人様は流石に眠たいだろうし、ユズもうつらうつらとしている。私たちも眠った方がいいだろう。

 

「布団なら戸棚の中にまだあったはずだから、それ使って。私たちは寝るわ」

「そうか…では明日の朝食くらいは作らせてもらおう」

 

そう言うと藍たちは布団を引っ張り出し、空き部屋へと向かっていった。藍の料理は紅魔館の咲夜に負けず劣らずの腕だと聞いているので、明日の朝食が楽しみである。

勿論、ご主人様の料理はそんな二人よりも上手なので美味しいけど。

 

「ほら、ユズ、眠るわよ」

「んー…」

 

若干フラフラしているユズ。それは、この深夜という時間以外にも理由がある。

実は、今日一日ユズは能力を使い続けていたのだ。例の、真実を見るというあれである。能力の練習をするという意味もあるけれど、異変の調査に少しでも役に立てないかと張り切っていたのだ。

外に出られないため、窓の外を眺めるしかなかったわけだが、結局特に成果は得られなかったみたい。

 

「異変が解決したら、宴会が待ってるんだから。ちゃんと休んでおくわよ」

 

私はユズを部屋まで連れていく。少しずつ自主性が出てきて、いい傾向ね。

 


 

朝起きると、紫はまだ俺の服をがっしり掴んでいた。これでは起きることはできない。

幻空の中に入れている時計を見ると、現在は朝の七時。いつもならもう起きている時間だし、あまり二度寝をする質ではないので体を起こしたいのだけど。

 

「紫、起きろ」

 

俺は紫の体をゆする。昨日の様子を見ると、すぐには起きてこないかと思ったが、意外にも返事は早かった。

 

「らーんー、あと十分…」

「藍じゃないぞ。ほら、起きろ」

 

昨日の精神的な弱さはもうなさそうなので、少々強引に揺らす。なぜかその手は俺の服を絶対に離さないとばかり掴んでいるので、無理に立ち上がれない。

そうして何度か揺らしていれば、数分してからやっと紫は目を開ける。

 

「なによ、今日の藍は強…引…定晴?」

 

目を開けて、やっと俺の姿を認識する。やっとこれで立ち上がれる、と思ったら紫は俺の方に体重をかけてきた。

 

「えへへー、目の前に定晴がいるー。ぎゅー」

「ちょ、紫、まだ寝てるんじゃない!」

「夢の中なら何でもし放題ー」

 

紫が俺に抱き着いてくる。どうやらまだ夢見心地らしい。

特にもう問題もなさそうだし、いい加減面倒なので俺は紫に一瞬だけ浄化の力を使う。強力な浄化の力は、妖怪の眠気覚ましにはぴったりだ。

 

「ふぎゃああ!ひりひりするー」

「目は覚めたか」

「え?……っ~~~!」

 

見てわかるほどに顔を真っ赤に染め上げて、布団の中に潜り込んでしまった。

 

「なんで定晴が家にいるのよ!」

「色々説明するから顔出せ」

 

布団から頭だけ出す紫。顔を真っ赤にしており、その姿はまさに幼い子供のよう。

 

「昨日紫が狂気にやられてたから俺の家まで連れてきたんだ。そしたら紫が俺を離さなかったんだろうが」

「……そういえば、昨日あなたが欲しかったからなんとなく抱き着いて気が…っ~~~その、定晴、その…本心だけど、恥ずかしいから忘れてちょうだい」

「藍たちにも見られてるぞ」

「藍んんんんん!!!!」

 

布団を蹴飛ばし部屋を出ていく紫。

少なくともいつも通りのテンションに戻ったらしいので、俺は一安心。さて、朝ごはんの準備をしますか。




藍「もう朝ごはんの準備は終わっていますよ」
紫「私もうお嫁にいけない!」
橙「紫様、かわいかったですよ」
ル「大妖怪なんだから自制しなさい」
定「ありがとな藍。紫、スキマから出てこい」
ユ「定晴さん、もっと、優しくして、あげてください…」
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