東方十能力   作:nite

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四百四話 紅葉の告白

急速な異変の温度上昇により体調不良が続出していた夏も終わり、その反動かのように幻想郷には寒すぎると言える秋がやってきていた。妖怪の山の秋姉妹が寒い寒いと言いながら芋掘りをしているのは文々。新聞の一面を飾っていた。

これは意識するまでもなく冬になってしまうなと思いつつ、俺は妖怪の山で紅葉を眺めていた。秋の神がいることもあってか、妖怪の山はそれは見事な紅葉が毎年見れるのだ。

そんな俺のことを案内してくれているのは、秋の神…ではなく、四季の神とも言えるような、四季を網羅したフラワーマスター。

 

「あれが金木犀ね。例年よりもちょっと咲くのが遅いけど、その分いい匂いがまだするはずよ。あっちがリンドウ、綺麗に青くなるのよ。紅葉だけじゃなくて、こういう足元も見ていかなくちゃ損ね」

「幽香、ちゃんと見てるから腕を引っ張るな」

 

俺は現在、幽香と二人っきりで妖怪の山を散策していた。

 

事の顛末は今朝に遡る。

朝食を食べ終わり、さて何をしようかと考えていた時に、突如インターホンが鳴った。ちょうどリビングには俺しかいなかったので、俺が出るとそこにはやけに上機嫌な幽香が立っていた。

そんな彼女は俺のことを見るや否や

 

『紅葉狩りの季節よ!』

 

と、半ば強引に俺を家の外に引っ張り出したのだ。なんとか式神通信でルーミアたちに連絡をとり、いつ帰れるかわからないということを伝えた後、こうして二人で妖怪の山を散策することになったのである。

幽香は、植物のことになるとやたらと饒舌・ハイテンションとなり、いつものクールな雰囲気を吹き飛ばし暴走列車化のように突き進むのだ。こうなった幽香を止めるのは、少なくとも言葉だけでは足りないだろう。

 

「ごめんなさい、ちょっとあがりすぎちゃった」

「こういうときにテンションが高いのは見慣れてるよ」

「っ…恥ずかしいわ」

 

顔を赤くしながらも、その目は周囲をキョロキョロと見渡している。

俺が面識があるのは秋の神だけだが、探せば幻想郷にそれぞれの季節を司る神がいるだろう。しかし、そんな神々を差し置いて幻想郷で最も植物に詳しい者といえば、誰もが風見幽香の名前を出す。それだけ、彼女は植物と自然を愛しているのだ。

だからこそ、こういった季節に気分が高まっている幽香というのは存外珍しいものではない。大妖怪として多くの者に恐れられ、実際に恐怖体験をしたという話も聞く幽香ではあるものの、ふとしたときに相応の少女らしい一面が見れるのもまた、彼女の魅力の一つである。

 

「その、定晴は私の話を嫌な顔せず聞いてくれるから好きなの」

「折角あのフラワーマスターが案内してくれてるってのに聞かないわけないだろ」

「もうっ、あまり喜ばせないで。……私、こうしたとき周囲が見えなくなっちゃうから、あの紫も途中でギブアップしちゃって…」

「まあ、勢いがあるってのは賛同するがな」

 

正直、植物に興味がない者であれば三秒でギブアップしてしまうような情報量なのだ。俺は幽香の影響もあるし、外の世界である程度そういった知識を身に着ける時があったから多少はついていけるものの、それでも幽香の情報をかみ砕くのには時間がかかる。

 

「でも、それも幽香の一面だろ?嫌がる理由にはならないさ」

「……まったく、私がどれだけ日ごろ悩んでるかも知らないで。でも、ありがと」

 

日傘で顔を隠しつつ、少し速足で山道を進む。俺はその後ろを、何を言うでもなくついていく。

周囲に紅葉が増えてきて、足元も頭上も見事なまでに紅く染まりきったあたりで、幽香はふと俺の方を振り返った。

 

「ねえ、これって、その、デートだと思う?」

 

日傘によって顔のほとんどを隠したままに、その目は確実にこちらを向いていた。先ほどまでのテンションもどこへやら、周囲の植物に視線を向けず俺のことをじっと見つめている。

幽香の真意はよくわからない。それはふと思ったことなのか、それともずっと考えていたことなのか。幽香の気迫を見るに後者のように思うが、俺は他人の気持ちを慮る能力を著しく欠如しているのでやはりわからない。

魂の中にいる愛が全力で何かを叫んでいるものの、狂気が抑えているのか内容はよくわからない。

分からないことだらけの今、俺が返すべき言葉は…

 

「幽香がそう思うならそうなんじゃないか?」

「それだと私だけが意識してるみたいじゃない」

「え、ああ、すまん…」

「ふふ、いいのよ。あなたがそういったことに疎いのはもうわかってることだから」

 

日傘をもとの位置に戻し、顔がはっきりと見えるようになった幽香は、顔は赤くしつつも、清々しいと言わんばかりの表情をしていた。

 

「先日の異変、紫があなたと一緒に行動して異変解決したらしいじゃない?」

「そうだな。成り行きだったが、地獄まで一緒に行ってきたぞ」

「その前には早苗ちゃんと外でデートしたって聞いたし、フランやこいしもあなたとよく会ってるって聞いたわ」

 

一拍。

 

「私もあなたに会いたかっただけなの。今日こうして強引に連れ出したのも、他の誰にも邪魔されたくなかったから」

「言ってくれれば都合なんていくらでも…」

「直接私が話に行く以外に連絡手段なんてないでしょー。そうなったら、その日のうちにお出かけした方が効率的だし私も満たされるから…当然でしょ?」

 

合理的だと言わんばかりに微笑む幽香。

俺は式神による連絡ができるから忘れがちだが、幻想郷には遠く離れた人と即座に連絡をとれる手段など存在しないのだ。メールや電話なんてものはもちろん、人里から離れてしまえば手紙だってまともに届くかどうかといったレベルなのである。俺の家は博麗神社の近くにあるので、太陽の花畑とはそれなりに距離がある。

 

「好きな人といつでも会える距離じゃない苦しさ、少しだけでも理解してくれると嬉しいのだけど」

「ぐ…」

「やっぱり、こういう話は苦手なのね」

「悪い…」

「謝らないでよ。そんなあなたに惚れてる私たちが惨めみたいじゃない」

 

既に何人からか告白を受けている身ではあるが、そんな中で一番最初に俺に告白してきたのは幽香であった。宴会の最中、まるで俺を困らせることを目的とするかのようなタイミングで告白されたあの頃が随分と懐かしく思える。

あれから結構な時間が経っているというのに、俺は何の返事もできていない。それでも幽香は変わらず俺のことを好きだと言い続けてくれている。

 

「最近定晴がやけに頑張っているのは知ってるわ。幻想郷の結界に影響を与えちゃったこと、気にしてるんでしょ」

「…俺が未熟なばっかりに紫と幻想郷に迷惑をかけたからな。俺は、もっと強くならないといけないんだ」

 

それは俺が魔界に行ったあの頃からずっと思っていること。

紫は俺のことをさも凄い人かのように言ってくれるが、その実ただの人間だ。そんな人間が紫たちから行為を寄せられ、だが俺は迷惑をかけている。

幻想郷に住む者として、大妖怪から見られている立場の人間として、俺はもっと強くならなければ…

俺が拳を握ると、ふと、俺の顔に影が差す。それと同時に俺は優しく幽香に抱き留められていた。

 

「ここに定晴を招いたのは紫だって聞いてるわよ。なら、あなたが気負う必要はないわ」

 

まるで母親かのように優しい声色で言う幽香に

 

「迷惑なんてかけてなんぼよ。人間のあなたが、私たち大妖怪にそんな大きな影響を与えられると思ってるの?」

 

なんだか妙に落ち着かなくなり

 

「ま、現在進行形で心を奪われてる私が言えたことじゃないけど」

 

俺はちょっと強引に幽香を引きはがした。大の大人が、見た目だけは年端も行かぬ少女に抱きしめられている図は、なんとも落ち着かない。

 

「恥ずかしいって」

「私だって恥ずかしいんだから。紅葉で天狗たちに見られないようにしたのはそのためよ?」

「はぁ、なんだか俺がちっちゃい子供になった気分だ」

「あら。私たちからすれば全然子供なのに」

「妖怪目線で年齢を語らないでくれ」

 

そうして俺たちは歩きだす。

紅葉に通された日差しが落ちる俺たちの顔は、どちらも赤く染まっていた。

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