東方十能力   作:nite

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四百五話 真実を見る、とは

俺の一日のスケジュールというのはその日の朝に決めることが多い。具体的には、朝食を食べ終わって片付けも終わらせて、さて何をしようかと考える時間が、そのタイミングだ。

そんな時間に、珍しくユズが俺に声をかけてきた。

 

「お出かけしたいんですけど、ついてきてもらえますか?」

「いいぞ。どこに行くんだ?」

「能力の練習に…魔法の森まで」

 

ユズの能力は、【真実を見る程度の能力】。これは、普通の生活の中では嘘の情報に騙されない程度のものだが、幻想郷においては妖怪たちに致命的なまでの影響を与える能力である。もし戦闘の度にそれを使われようものなら、紫ですらも体調を悪くさせることができるかもしれない。

だが、まだユズの制御はお粗末なものだ。ルーミアと違ってユズは基本的には家にいるのだけど、たまに能力が暴発しているのを見る。家自体は普通なものなので、それでユズが変なものを見るということはないのだけど、誰であれ能力というのは多少疲れるものなので、ユズ自身には負担になっているだろう。

そういうわけで、たまに能力の練習をするために外に出るのだ。家の中じゃ見れるものはないので、そこらへんの野良妖怪の真実を見たりするのである。

 

「いつもはルーミアが一緒だよな」

「何やら、今日はチルノさんと遊ぶらしいので…」

 

一時期チルノたち子供集団と距離をとっていたルーミアだったが、最近はまた一緒に遊ぶようになったみたいだ。ルーミア曰く、チルノが大人になったからというらしいが…確かに、最近チルノは以前の騒がしさを潜め、精神的に少し大人になったような印象を受ける。

大妖精も落ち着ける…と思いきや、今も色々と心配事はあるらしい。中々の苦労人である。

閑話休題。

 

「じゃあ行くか」

「はいっ」

 

俺の家から魔法の森まではそう遠くはない。道中襲われることもなく、瘴気だらけの森に辿り着く。

魔法の森とは言うものの、その実態は怪しげな植物やよくわからない生物で埋め尽くされた異様な森である。普通の人間であれば数分もしないうちに体調を崩し、妖怪であっても長く生活するのには向いていない。魔力は豊富だが、それ以上に奇妙なものが多い森だ。

だからこそ、幻覚や幻想というのが多いこの森はユズの能力の練習にはもってこいなのである。

 

「奥に行くのか?」

「はい。入口の植物は見てしまったので」

 

例え幻覚を見せてくるようなものであっても、一度真実を見てしまうとそれを意識してしまい、あまり幻覚を見なくなるのだそう。それでは練習にならないので、常に新しいものを探して魔法の森の奥に行くのだそうだ。

まるで常日頃魔法の森で研究をしている魔理沙のようなことをしているが…

 

「妖怪が出てきたら抑えてほしいんです」

「任せろ」

 

能力の用途的にも、妖怪の正体を暴いていくのが最も効率がいい。しかし、知り合いを暴いていくのはあれなので、こうして野良妖怪を暴いている。

野良妖怪には悪いものの…人型になるような力もなく、理性を持ち合わせるほどの賢さもないやつらなので、暴かれたとしても誰も困らないので問題ない。

たまにキノコや木の実にユズが能力を使いつつ進むと、蜘蛛のような妖怪が現れた。茶色の体に大型犬ほどの大きさ。その目は俺たちを見ていて、食料を見定めるように敵意をこちらに向けていた。

 

「結界!」

 

俺は箱状に結界を出して蜘蛛を捕らえる。そのいくつもある足を使って結界を何度も叩くが、その程度では俺の結界は破れはしない。

 

「これでどうだ?」

「うーん……能力を使う瞬間に一面だけ解除していただけますか?間に何かあると見づらくて…」

「なるほど、そういう感じか。了解」

「すみません、お願いします」

 

どうやら、ユズの目は何か障害があると効果が薄れてしまうようだ。透視する能力ではないので、当然といえば当然であろう。多分、この状態で能力を使っても結界の真実が見えるはずだ。結界の真実って何が見えるんだろ。

ユズの要望通り、ユズが能力を使って目の色が変わったのを確認したのちに結界の一面を解除した。

箱に唯一空いた穴に向かって蜘蛛が突進をするが、それよりも先にユズが蜘蛛を捉える。

 

「っ!」

 

ユズが目を合わせると、蜘蛛の動きが止まる。それと同時に蜘蛛の体から少しずつ妖力が抜けていく。

妖怪は精神生命体であり、正体不明だからこその強さを持っている。だからこそ、正体を暴かれるとそれだけで弱体化してしまう。正体不明を売りにしている鵺だけではなく、妖怪すべてが正体不明なものから生まれたものだからだ。

闇夜で見たただの犬を妖怪と思ってしまうように、遠くに見えた提灯を火の玉と思ってしまうように、古の日本で生まれた妖怪というのは、そのほとんどが人間の思い込みによるものなのだ。

 

「っ!!!」

 

ユズがじーっと蜘蛛を見つめる。その表情は苦し気なものだったが、その間も蜘蛛はどんどんとその体を小さくしていき…最終的に普通の大きさの蜘蛛となり、森の中へと逃げていった。まだ妖力は残っていたのでいつかは元の大きさに戻るだろうが…数十年は普通の蜘蛛として生きることになるだろう。

 

「ふぅ…」

「お疲れ様」

「ありがとうございます。でも、だめですね。もっと早く正体が暴けないと…」

 

ユズが今の能力行使に対して反省をする。俺から、見るだけであそこまで弱体化させてしまうだけでとんでもない能力であると思うけれど…

 

「無機物や植物に対してはすぐに使えるんですけど…妖怪に対して使うと、なんというか、ピントが合わなくて能力が通るのに時間がかかっちゃうんですよね」

「そこはもう練習だろうなぁ」

 

ユズは先日半強制的に能力を開花させたのだ。慣れていなくてもいたしかない。

さて次の練習をしようかと歩き出そうとしたとき、頭上から声がした。

 

「お、定晴じゃんか。こんなところで迷子かー?」

「魔理沙か。随分とキノコを持ってるな」

「ここらへんは美味しいキノコが採れるんだぜ!」

 

箒に腰かけ、箒の先端にキノコが沢山入ったかごをぶらさげた魔理沙がこちらを見下ろしていた。突然現れた魔理沙に驚き、ユズは俺の後ろに隠れてしまう。

とはいえ、見下ろされている以上完全に隠れることはできないので、当然の如く魔理沙はユズに気が付いた。

 

「そいつは確か式神だったっけ」

「そうだ。今脳力の練習中だ」

「ほー?」

 

俺がそう言うと、ニヤリとして魔理沙が降りてきた。キノコを落とさないように丁寧にかごを手に持ち地面に降り立つ。

 

「私にも見せてくれよ」

「いや、キノコ持ち帰るんじゃなかったのか」

「見せてくれたら美味しいキノコを分けてやる」

 

そう言って魔理沙が取り出したのは赤く細長いキノコ。それはもしや…

 

「タマゴタケだ。中々見つからないんだぞー?」

「ちょっと待て、なんでこの森でタマゴタケが生える」

「ここはなんでもありな森だぜ」

 

タマゴタケとはいうなれば美味しいキノコである。似たキノコに毒キノコが存在するが、キノコ博士たる魔理沙が間違えるはずもない。

ユズがタマゴタケを見つめている。食べたいのだろうか。

 

「食べるか?」

「え?えっと…」

「能力を見たいだけだからな。それだけでこれが手に入るなんて破格だぞー?」

 

随分と悪徳商売のような言い回しをする魔理沙。とはいえ、タマゴタケなんてそう簡単に手に入るようなものではなく、確かに破格と言えば破格である。

タマゴタケは脆く傷みやすいため流通することがほとんどなく、養殖も安定していないためまず手に入らない。炒め物とかにすると美味しいと聞くが、俺もまだ食べたことはない。

 

「えっと、その、食べ、たいです」

「よし。魔理沙、約束は守れよ」

「もちろんだぜ。未知を求めるのは魔法使いの宿命ってことだ」

 

俺は魔理沙からタマゴタケを何本か受け取って幻空に入れる。幻空の中は環境が変化しないので、タマゴタケが崩壊してしまうようなことはない。

というわけで、ここからは魔理沙も同伴で森の奥に進む。魔理沙はこの森のことを知り尽くしていて、野良妖怪が多いところも教えてくれた。

 

「っ!」

 

大きな狼のような妖怪をユズが視界に捉える。群れで行動していたので、残りは追い払っておいた。

ユズが能力を使っているのを見て魔理沙が感嘆する。

 

「ほー、こりゃまた規格外だな」

「ああ。少なくとも、幻想郷じゃ脅威というほかない」

 

俺がそう言うと、魔理沙は首を横に振った。

 

「違うそうじゃない。定晴分からないのか?」

「何がだ」

「能力が暴走してる。いや、過剰っていうのかもしれんが…私には、あれが能力だとは思いたくないな」

 

ユズの目の前の狼がどんどん小さくなって、柴犬くらいの大きさになっていくのを見ながら、魔理沙はなおも言う。

 

「私は過去に幻想郷の住人たちのスペカをまとめてみたこともあったんだが、その時に色んな能力を見てきた。だがな、その中にあんな苦しそうに能力を発動する人なんていなかったんだ」

 

柴犬程度の狼になった妖怪は森の奥へと逃げていった。対するユズはとても疲れ切っている表情を見せている。

 

「まあ能力なんて自己申告だし人それぞれだと思うけどな」

「…」

 

能力を使う時、代償なしの無制限っていうのはあまりないが…しかし、やはり能力と称することもあって自由が効くしそれなりに好きに使える。紫のスキマはほんのわずかの能力で規格外な効果を発揮するし、俺の無効化も代償こそあれどあそこまで苦悶の表情を浮かべるものではない。

それを考えれば、一度使う度にあそこまで疲れ切ったような表情を浮かべるユズは異端と言えるかもしれない。

 

「はぁ…はぁ…」

「ほら水」

「あり、がとう…ござい、ます…」

 

幻空から取り出した水を渡しつつ、ここまでの消耗は確かに変かもしれないと考える。

だが、ユズはこれを能力だと言っているし、種族的にも真実を見るという解釈は間違っていないように思える。しかし、魔理沙の言う通り能力と言うにしては随分と疲れるようだし…

 

「興味深いものが見れたし私は帰るぜ!」

「ん?ああ、じゃあな」

 

箒に跨り飛んでいく魔理沙を見送る。

やはり、ユズにはまだ何かあるのかもしれない。俺は一抹の不安を胸に抱えながら、ユズの修行に付き合った。

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