東方十能力   作:nite

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四百六話 秋の収穫祭

幻想郷の秋というのは、外の世界に比べるとしっかりと秋だと分かるくらいの期間続く。どういうわけか知らないが、最近の外の世界は夏と冬の間が僅かな時間しかなく、秋の味覚だとかそんなものを楽しむ前に冬がやってきてしまう。

もし幻想郷でそんなことになれば、我らが秋の神々が黙ってはいないだろう。

 

「柿の干物はここだよー」

「野菜スープ作ったよー!」

 

人里では、秋の収穫を記念するかのような催し事が開催されていた。わざわざ秋姉妹が山から下りてきて、人里で収穫祭をするのである。

収穫祭は、今季の収穫を祝うものであり、また来年の豊作を祈願するものでもある。実際に豊作の神様がご神体としている関係か、人里の収穫で飢饉が起きたことは一度もないらしい。

今日は、この収穫祭にてスタッフとして俺は参加していた。日頃から農業をしているわけではないので、こうして料理をしたり加工をしたりすることで人里の人たちに感謝するのである。

 

「定晴さん、野菜の追加です!」

「ああ…静葉、そんなに働く必要はないんじゃないか?」

「私は穣子についてきてるだけだから…求められてるのは穣子なんです」

 

静葉が指さす方向を見れば、そこには台座の上で焼き芋を焼いている穣子の姿。なんか、見るたびに焼き芋を焼いている気がするな。

秋姉妹とは言うものの、豊穣の神なのは穣子の方。静葉は紅葉の神であり、静葉の力では秋の収穫が増えるわけではないらしい。

ただ、聞いた話だと穣子の力が働くのは収穫の前であり、収穫時期に祭りとして穣子を呼んでも特に意味はないらしい。まあ、誰も突っ込まないし俺が言う必要はないだろう。

 

「でも負けてられないから!」

 

そう言って静葉は人ごみの中へと走って行った。妹に負けぬように、その後ろ姿には凛々しさがあった。

さて、俺は静葉が持ってきた野菜を切り、鍋やらフライパンへと放り込んでいく。

俺は今日、収穫祭の手伝いということで料理をしていた。一応給金も出るようだし、何より収穫祭の野菜の一部を持ち帰っていいということなので、俺は単純に料理をし続けている。次から次へと野菜が流れてきて、休む暇すらもない。

 

「ルーミア、次これ」

「ん」

 

式神二人も仕事の手伝いだ。ルーミアは完成した料理を運び、ユズは俺の後ろでひたすら野菜を切っている。俺はたまに休憩していいと伝えているのだが、二人とも未だに休むことなく働き続けている。

幻想郷の人間というのは、基本的にほぼ全員が人里に住んでいる。その関係で、人里の畑や田んぼはそれなりに広大だし、豊作だということもあって収穫量は多い。備蓄用もあるとはいえ、結構な量を料理しなければいけないのは中々に大変だ。

俺が野菜スープをお玉でかき回していると、人混みの中から慧音が現れた。

 

「定晴、大丈夫か?」

「なに、これも仕事だからな。料理していればいいだけだから楽だ。献立も簡単なものばかりだし」

 

今日は野菜炒めだとか野菜スープだとか、そういった簡単に作れるものばかりが献立にあがっている。なので、俺もそこまで気を張り詰めずに作業できているのだが…慧音は未だに俺のことを心配しているのか、さらに続ける。

 

「昼食を食べてないんじゃないのか?」

「みんなが昼食を食べないといけないから俺たちが作るんだろ?あとで食べるか…昼食くらいなら食べなくてもいいさ」

 

外の世界で仕事をしているときはよくあることだったし…と俺が思っていたら、慧音が驚くほどの大声で俺に強く言った。

 

「それはだめだ!私が見ている前でそんな不摂生なことは許さないぞ!」

「待て待て、俺がやらないと仕事が」

「私がやる!」

 

勢いのままに慧音が袖をまくり、俺の代わりにフライパンを動かし始めた。その気迫は凄まじいものがあるが…そう言われたからって、じゃああとよろしくと簡単に代わるわけにはいかないのだ。

 

「慧音、これは俺が与えられた仕事だぞ。仕事人として、ちゃんと最後までしないといけない」

「この仕事の依頼主は人里だ。そして、人里の代表者は私だ。なら、私の要望には応えてもらおう」

「暴論だな…」

 

慧音は聞く耳を持たず、俺からお玉を奪い去り、鍋をかき回し始めた。突然の来訪と勢いで、野菜を切っていたユズもこっちを見て動きを止めてしまっている。

俺たちが困惑していると、またもや野菜の追加を持ってきた静葉が戻ってきた。

 

「野菜追加ー!…あれ、慧音さん?」

「ああ。定晴たちにはしばらく休んでもらうから、その間は私が料理をする」

「……まあいいか。じゃあ慧音さんよろしく!」

 

静葉は特に思うこともなかったのか、そのまま人混みへと入っていった。何も言わないのか…

慧音がどうだと言わんばかりの表情でこちらを見ていて、とうとう俺も折れた。ここで何を言っても慧音は代わってくれないだろうと確信できる笑みであったのだ。

 

「君たちが食事をしている間だけだ。休憩時間程度とっても問題ないだろう」

「はいはい、分かったよ」

 

俺はユズとルーミアに声をかけて食事をすることにした。早めに戻らなければと思うものの、数分で戻っても慧音は代わってくれないだろうから、しばらくの間どこかで休憩をするとしよう。

昼食として自分たちようの野菜スープと白米を注ぎ、端っこの段差に腰かけた。ここからは、収穫祭で盛り上がっている祭りの中心部もよく見える。

 

「慧音さんの、気持ちも、分かりますよ」

「定晴は無駄に仕事をやり遂げようとするから仕方ないわね」

「無駄ってなんだ。俺はちゃんと責任を果たそうとしているだけだぞ」

「幻想郷じゃ、そこまで張り詰めなくていいってことよ」

 

雑談をしながら野菜スープを飲む。ああ、温かい。

祭りの中心では、穣子がよく分からない踊りを披露していた。豊穣の踊りとかあるのだろうか…こういうのって、普通は踊りは奉納するものであり、神様自身がするものではないと思うのだけど。

幻想郷の人々は気ままであり、その時その時を生きている。例え穣子をこの時期に祀ることにあまり意味がなくても、踊りに意味がなくても気にしない。ただ、その時楽しく生きることができればそれでいい。

俺もまだまだ幻想郷に馴染めていないなと思いながら、新米を口へと放り込んだ。

 

 

食事を終えて戻ったら、慧音は野菜スープを焦がしていた。慧音ぇ…

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