東方十能力   作:nite

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四十話 月の物語③

木の上で悩む。はてさてどうしたものか。

彼女を気絶させることは出来た。格好がさっきの奴等に似ているのでここの住民であることは確かだろう。つまりこいつにとって俺は敵である。起きたら直ぐに捕まってしまうだろう。だからこそ俺は今すぐにでもここを離れなければいけないのだが…

 

「う、う~ん…」

 

気絶したまま呻き声を出す女性が、俺の良心を縛っていた。気絶させたのは俺だし罪悪感を覚えている暇はないのだが、どうしても罪なき人を叩いたというのが俺に躊躇いを生んでいたのだ。

そんな葛藤をしていたため俺は油断していた。だからだろう、俺の後ろに知らぬ間に誰かいたことに気付かなかったのは。

 

「お前、何者だ?」

「ん?」

 

肩に手を置かれて俺は一瞬思考が停止する。そして肩に手を置かれている状況を理解した俺は…思考を全て置き去りにして、ついでに罪悪感も捨てて逃走を試みた!

 

「さらば!」

「貴様、待てーい!」

 

勿論肩を掴まれた状態で逃げることができるはずもなく。もう俺の人生も終わりか…今からきっとさっきのレーザーに撃たれるんだろうな~ははは…

 


 

って思ってた時期が俺にもありました。その後連行されて連れていかれた所はとある一室。都の中にある牢獄じみた場所だ。とはいえ中は清潔だし、というか監禁用の部屋であるだけでベッドやらシェルフやらはしっかりと手入れされている。

目の前にはこのさっきまで捕まえていた女性と、森で気絶させた女性。前者は依姫後者は豊姫というらしい。なんとこの都の姫だというのだから驚きだ。つかそんな身分の高い人が堂々と前線やら森やらを歩いているのはどうなのだろう。

 

「そんなに緊張しなくても良いわよ?」

「いや〜その〜…」

 

こんな場所にいきなり連れ込まれた挙げ句尋問か。そして目の前には姫がいる。展開が早すぎて俺の脳が追い付いていないためコミュ症のような話し方になってしまう。 別にコミュ障ではない。俺の仕事に仲間はいないので依頼人と直接話すのは俺だというのにコミュ障ではやっていけない。

 

「貴方の名前を聞かせて頂戴?」

「ほ、堀内定晴だ。地球から来た」

 

そもそもこいつらの喋り方に少し威圧感を感じているのだ。もしかしたら本当に牽制目的なのかもしれないな。俺は質問にきちんと答えて、ついでに地球から来たことも伝えておく。

 

「ねぇ、どうやってここまで来たの?」

 

豊姫が至極普通な質問をする。依姫も同じこと言っていたからもしかしたら、ここに来ることは簡単では無いのかもしれない。俺としては気がついたらとしか言えないので簡単だったかどうかは分からない。

別に秘密にしておく理由もないため事の顛末を話す。話終えたら豊姫は苦虫を擂り潰したような顔をしていた。

 

「そ、それは本当?」

「ああ、依姫にも同じ事を言ったんだが…撃たれた」

「ん?どういうこと?」

 

俺が依姫からレーザーを放たれたことを話すと豊姫は更に驚いた顔になった。あれ、意外と侵入者にレーザーをすぐさま撃つって不当行為なのか?

俺が不思議そうにしていたら依姫は少し気まずそうに言った。

 

「そ、それは…ほ、本当の事を話すとあれは当たったらここの記憶が何もかも無くなって元いた場所に戻るレーザーなのよ」

「え!?」

 

何だそれ!じゃあ俺はあれに当たっとけば良かったってことか?いや、あれに当たるとか勇気いるだろ。無茶すぎる。だって地面抉れてたし。あの抉れた地面も地球に飛んでいったのだろうか…

そもそも他の方法は無かったのだろうか。

 

「何でそんな手荒な真似しか出来ないんだ?」

 

少々きつい言い方になったが伝えたい事を簡潔に言うとこうなる。

 

「あまりここの事を知られたくなかったからよ。それに貴方素直についてきてくれなさそうだったから」

「理由言ってくれればついていくのに」

 

結局のところ全てが徒労に終わったわけか。それを知ったら妙に疲れてきた。行動が無駄なことだと知ると途端に疲れてくるこの現象に名前はあるのだろうか。

 

「なあ、俺の知りたいことを訊いていいか?」

「まあ、良いけど。どのみち帰る頃には記憶なくなるわよ?」

「別にそれでいい」

 

そして俺は二人に多くの質問をした。それで分かったのがここが月の都でウサギ達は玉兎と呼ばれる元からいた先住民。そして目の前にいるのは都でも名の通った有名な姫であるということ。他にもエトセトラエトセトラ。

 

「これで満足した?」

「ああ充分だありがとう」

 

少し長い時間付き合わせてしまったので感謝の意を込めて微笑む。一応悪いのは俺なわけだしな。

 

「あ、え、えっと、こっちからの質問なんだけど良いかしら?」

「おう、良いぞ」

「さっきも言った通り私達は地球人達の穢れから逃げてここまで来たの。なのに貴方から全く穢れを感じないのよ。どうしてかしら?」

 

先程の質問の中で俺はなぜ月人は月に来たのかという質問をした。その中に穢れという概念があったのだ。俺にはよく分からなかったが地球にはそれが溢れていて、人間は誰しもが穢れを持っているらしい。しかし俺からその気配がないのだと言う。

 

「ああそれか。それは俺の能力が関係しているんだが…」

「能力!?」

「あ、ああ、そう言えばそのまま言っても分からないよな。え、えーと…」

 

月の国に異能力持ちが居るのかは定かではないが、俺の能力を説明するのは少々面倒なものである。しかし、俺の予想に反して依姫が口を開いた。

 

「もしかして空飛べたりも出来るの?」

「まあそれなりに」

 

あくまで応用だが。

 

「それって[○○程度の]って付く?」

「そう言えばそんな事を聞かされたような…」

 

確か聞かせてきたのは八雲紫…

 

「なら私達と似ているのね」

「え?」

 

似ているとはどういうことか。それはこいつらも能力を持っているということ。

 

「まじで?」

「ええ、詳しい事は話せないけど」

 

俺も能力に関しては詳しく話せないし理解できる。そもそも他人の能力について根掘り葉掘り聞くのは禁忌に近い。

 

「にしても地球にそんな力を持っている人間なんてあまりいないと思っていたわ」

 

なにやら分析顔で思案する依姫。考え込んでしまったので俺は豊姫にそもそもの質問をした。

 

「なあ、俺って帰してもらえるんだよな?」

「あ、そうそう。その事なんだけどね、ついてきて?」

 

豊姫が席を立って部屋の入り口で手招きをしている。この際全部言われた通りにしてやろうではないか。俺はそう思って依姫と共に部屋を出た。

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