東方十能力   作:nite

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四百九話 最近の妖精事情

スポーツや読書にちょうどいい季節などとうになく、幻想郷は既にしっかりと冬になっていた。虫や動物たちはほとんどが姿を消し、幻想郷の森には珍しい静寂が訪れる。

だが、冬になると騒がしくなる妖怪というのもまた存在している。その代表格といえば…

 

「雪よー、冬よー、永遠に続けー」

「ちょっと!まだ雪が降るには早いのよ!帰りなさい!」

 

博麗神社の上空をふわふわと飛び回るレティ・ホワイトロックである。

冬の名物ともいえる彼女は、冬の終わりには冬が終わらないように軽い異変紛いのことすらもしてしまうらしい。毎年のことなので異変扱いにはならず、霊夢は適当にいなして終わる。

 

「毎年毎年飽きないねぇ」

「酒に飽きることはないのか?」

「ないねぇ」

「つまり、そういうことだ」

「…あぁ」

 

俺は博麗神社の境内で、霊夢とレティの弾幕ごっこを眺めていた。横にはいつも通り顔を少し赤くし酒を飲む萃香。そして、博麗神社の床下に住んでいるというクラウンピースもいる。

レティは冬が来たことの興奮で、まだ初冬だというのに真冬かのような天候を作ろうとしている。それを霊夢が祓おうとしているのが事の顛末だ。レティ自身、冬の間は多少強くなるとはいえ普通の妖怪なので、九割がた霊夢が勝って終わるとのこと。なので俺たちも特に焦ることもなく、ぼーっと眺めながら雑談をしている。

 

「あの妖怪をもっと狂わせたら面白そう」

「するんだったら俺がお前を結界に閉じ込めるぞ」

「なんかあたいに対してあたり強くない?」

 

さもありなん。先日の異変で随分と面倒なことをさせられたわけだし、妖精の根はいたずら好きなのできっとすぐに同じことをするだろうと警戒している。

レティが墜落していくのを横目に見つつ、俺は座っている縁側が微妙に暖かくなっていることに気が付いた。

 

「縁側が少し温かい?」

「それはあたいのおかげだね!」

 

立ち上がり、胸を張るピース。手に持った松明を一振りし、まるで博士かのように説明をし始めた。

 

「あたいは常に火を出す。火を出せば暖かくなる。博麗神社の下で火を使えば、当然博麗神社も温かくなるってわけ!」

 

ピースは松明の火を一層強く光らせながら言った。浄化は発動していないから、ただの火なんだろうけど、松明に警戒してしまうなぁ…

レティを退治した霊夢が地面に降りると、ピースの腕をペシッと叩き、松明を地面にたたき落とした。ピースが慌てて松明を拾う。

 

「何するのさ!」

「先日それで火事になりかけたの、忘れたわけじゃないでしょうね。温かいのはいいけど、神社燃やしたら大変なことになるわよ」

「霊夢なんか怖くないよーだ」

「紫が来るわよ」

「うぐっ」

 

博麗神社は紫にとって大切な場所だ。もし神社に害する何かがあれば、きっと冬眠すらも抜け出してその対処にあたることだろう。

聞いた話によると、かつて天子が一度壊して紫の逆鱗に触れたらしいのだが…今も天子が生きて幻想郷で生活しているところを見ると、命までは奪われなかったらしい。

博麗神社に手を出すということは、その命を紫から狙われるということなのだ。それは、まったく過言なことではなく現実として存在している可能性である。

 

「一回休みになるだけだかんね!スキマなんて怖くないよ!」

「紫ならそこらへん自由にできそうだけどねぇ、それに、スキマに永遠に閉じ込められたら一回休みどころじゃないよ」

 

萃香が妙に間延びした声で言う。顔は赤いままだが、どこか恐怖心に駆られているようにも見えるので、もしかしたら過去にそういった処罰を受けたことがあるのかもしれない。萃香と紫は随分と長い付き合いらしいしな。

 

「変なことをしないってのが一番じゃないのか?」

「そういうのはね、つまんないって言うんだよ!」

「これだから妖精は…」

 

ピースの元気いっぱいな返事にため息をつく霊夢。

だが、弾かれたように森の方を向くと、一枚のお札を高速で打ち出した。

 

「どうした?」

 

俺が声をかけても霊夢は返事をしない。萃香の方を見ても、特に何とも思っていないみたいだし、ピースは松明を振って遊んでいる。

そうして霊夢が何枚かお札を投げると、二桁にいかない枚数を投げたところで、森の方から「ひにゃあ!」と気の抜けた声が聞こえた。ガサガサと音がすると、森の中から出てきたのはこれまた妖精。

 

「いったーい!」

「暴力反対!」

「お札厳禁!」

「こっそりと忍び寄ろうとするのがいけないのよ」

 

光の三妖精と呼ばれている(らしい)ルナ、サニー、スターの三人だった。どうやら博麗神社…というより、霊夢にいたずらをしようとしていたらしく、サニーの手には何かしらの赤い液体が袋に入ったまま握られていた。あれを霊夢に投げるつもりだったのだろう。

反省しているかのような素振りを見せる三人…だが、霊夢に近づいたサニーはその袋を振りかぶった。

 

「と見せかけて隙あり!」

「ふんっ」

「ぎゃあっ!?」

 

しかし、霊夢はすぐさま結界を展開。袋は結界に当たって弾けてしまう。

壁としての効果もあるのか、霊夢には一滴も当たっていない。その液体の大半は三妖精、特に投げた本人であるサニーにかかってしまった。白い服は赤く染まり、まるで猟奇殺人…

 

「くさーい!」

 

サニーはそのまま森の中へと逃げていく。わずかに香るその匂いは、汚れた血の匂い…どうやら、サニーたちは動物の血液をまとめて袋に詰めたらしい。未処理の血液は中々に刺激臭がするし、何より動物の肉などが混ざりとても生臭い。

森の中へと逃げていったサニーを見て、ルナとスターは平然と縁側に座った。まるで自分は何も関係していないと言わんばかりである。

 

「あんな汚い悪戯をする方が悪いと思うんだよね」

「そうそう」

 

いや、本当に関係ないと主張している。実際、森から出てきたタイミングで二人は何も持っていなかったし、実際に霊夢を攻撃したのはサニーだけだ。実害だけを見れば、二人は何も関係ないと言える。

それはどうなんだと俺は思うのだけど、霊夢が何も言わずに縁側で茶を飲み始めたので、そういうものかと納得しておく。当人が何も言わないのであれば、俺も何も言うまい。

 

「しばらくは隠れ家から出てこなさそうだね」

 

なんとも他人事のようにサニーの逃げていった方を見て呟くルナ。

反射したわけではないとはいえ、相当な量を被っていたようだった。あれをきれいに落とすのは中々に重労働である。

縁側で駄弁る二人は、いつしか次の悪戯の話をしていた。

 

「悪戯のレパートリーが難しいね」

「最近チルノの付き合いが悪いんだよ」

「妖精たち大人しくない?」

 

聞き耳をたてずとも聞こえてくるが、最近チルノや大妖精が悪戯に参加してくれなくなったという。ピースも異変で反省したのかしばらく大きな悪戯というのは控えているようだ。

あれと同じく話を聞いていた萃香が、二人の会話に口をはさむ。

 

「あのチルノが悪戯をしないって?ないない」

「本当なんだよ!私が何か提案しても、はぐらかして逃げちゃうし」

「どうやら悪戯自体を最近してないみたいなんです」

「うっそだー」

 

萃香が大げさにリアクションをし、その勢いで酒を飲む。

確かに、チルノが悪戯をあまりしないというのも変な話だ。チルノに限った話ではなく、妖精というのは悪戯をして日々を楽しむ生き物だ。日々楽しさをなくしてしまうと弱る妖怪と同じで、何もしない妖精というのはいつしか自然に消えてしまうという。

流石に問題があると思い、俺も口を出す。

 

「それって妖精的に大丈夫なのか?」

「うーん、私たちからすると大丈夫じゃないんだけど…」

「最近、悪戯をしてないのに妙に生き生きしてるんです。なんというか、毎日楽しそうというか」

「しかもちょっと身だしなみとか気にしだしてるの!チルノなのに!」

「確かに、チルノなのに!」

 

身だしなみを気にするだけで色々言われるチルノ。まあ俺もそう思うが。

そういえば先日もチルノは色々と気にしているように見えたな。大妖精が何かを言っていたけれど、チルノの最近の行動は大妖精の入れ知恵だろうか。

まあ、特に問題は起きていないし、気にするほどでもないので俺はそのまま縁側に倒れこんだ。寒い季節のはずだけど、ピースの松明が温かく眠くなる。俺は程なくして眠ってしまうのだった。

 

目が覚めたらお燐がお腹の上で寝ていた。どこから来たし。

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