東方十能力   作:nite

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四百十話 冬の定期健診

息も白くなるような季節になった今日この頃、俺はなぜか複数の因幡たちによって運ばれていた。てゐではなく、竹林に住む少女の兎である。同じような見た目をしているが、別に姉妹だとかそういうわけではなくそれが種族的特徴なのだとか。

一匹一匹はそこまで強い子ではないのだけど、複数人も集まれば俺を担ぎ上げて移動することもできるみたいだ。そんな俺の後ろで、これまた因幡たちによって運ばれているのがルーミアとユズ。なぜか二人も因幡たちが担ぎ上げて移動させられているのである。

ルーミアは最初こそ抵抗しようとしたが、何かしようとするたびに因幡たちが上目遣いで見つめてくるのに耐えられず、今やされるがままに運ばれている。ユズは知らない人に囲まれ持ち上げられている状況が精神的に苦しいらしく目を瞑っている。ユズの手をルーミアが握っているがあまり効果はなさそうだ。

 

「なんか…ピクミ…いや、まずいか」

「どうしたの?」

「なんでもない」

 

そうして因幡たちは山を越え谷を越え、そして竹林を超えた先に俺たちは連れてこられた。言わずもがな、迷いの竹林の中にある永遠亭のことである。

まるで因幡たちが来るのを待っていたかのように…いや、実際のところ待っていたのだろう…永遠亭の前に永琳が立っていた。因幡たちは永琳の前に俺たちのことを下ろすと、竹林の中へと走って行った。なんともすばしっこい子たちである。

 

「来たわね」

「来たというか、連れてこられたというか…」

 

因幡たちが無理やり連れてきたことなど気にしないで、永琳はその手に持っていたカルテをこちらに見せてきた。そこには堀内定晴の文字。

 

「定期健診の時期よ」

「…はい?」

 

よく見ると、俺のカルテの後ろにはルーミアとユズのものもある。そういえば確かに永遠亭で健診を受けたことはあったが…なぜそれが今になって出てくるのだろう。

 

「まあ、ひとまずここは寒いから中に入りましょ」

 

………

 

通されたのは診察室…ではなく、応接間であった。鈴仙が淹れてくれた温かいお茶を飲みながら、永琳の話を聞く。

 

「それなりに前に、全員のことを診断したことがあったじゃない?」

「あったな」

 

まとめて全員が受けたわけではなかったが、それぞれが一度永琳に検診されたことがある。永琳は俺たち一人一人のものをきちんと保管し、管理しておいたようだ。

とはいえ、定期診断をするにしてはまだ早いような気がするし、ここまで無理やりに連行された意味は分からない。ルーミアやユズも理解できていないようで疑問顔…ルーミアに至っては不満そうだ。

俺たちの反応を見て永琳はため息をつきながら答えた。

 

「私も無理やりだとは思うわ。でも、これは上からの指示なのよ」

「上?」

 

永遠亭は外の世界の病院のように組織化しているわけではなく、また出資者などがいるわけではない。俺たちの疑問を解決するかのように、応接間の扉が開く。

 

「私よ」

「輝夜?」

 

優雅に応接間の中に入ってきたのは輝夜…に加えて、その後ろには依姫の姿もある。どうやら地上に降りてくる日であったらしい。依姫にしては珍しく、妙に緊張しているように見える。

輝夜は永琳の隣に座ると、饒舌に語りだした。

 

「まあまああまり気にしないで欲しいんだけど、私とこの子があなたたちに興味があるってわけ。それぞれ色々と普通からは逸しているじゃない?だからまあ、定期的に身体情報とか見たいのよね」

「ということなのよ。私も定期健診をするほどのものじゃないって説明したんだけど、勝手に因幡たちを送っちゃって…まあ、その、諦めてちょうだいな」

 

輝夜は胸を張るものの、永琳は頭の痛そうにしている。依姫が恥ずかしがっているのは…自分の我儘のようなものを通してしまったからだろう。因幡たちを勝手に送ったのは輝夜なのだろうから、依姫は悪くないはずだ。少なくとも、俺の印象ではこういうときに依姫は他者の迷惑を考えることができる人のはずである。

尚、意見を無理に通そうとする節があることは理解しているので、もしかしたら依姫も我儘を言ったのかもしれないけどな。

 

「というわけで、全員分検診するわ。まあ、この季節だし悪い話ではないと思うわよ」

「しょうがない。どのみち、ここまで連れてこられて帰るのも面倒だしな」

 

雪が積もるほどではないとはいえ、外はそれなりに寒い。わざわざ永遠亭まで来るようなことはない生活をしているので、検診を受けられるというのであれば受けておいた方がお得だろう。輝夜の我儘代ってことで診察料はとらないと言ってもらえたしな。

俺とユズは別の部屋に移動。俺の検診を永琳が、ユズとルーミアの診察を鈴仙がするらしい。暖房がしっかりと効いた部屋で服を脱ぎ、永琳の触診が始まる。

それが終われば視覚、聴覚の診断をし、それだけに留まらずいくつかの匂いをかぎ分ける嗅覚、触った感覚を比べる触覚、粉を舐めてそれが何かを当てる味覚の診断も行った。五感すべての診断をすることになったのは初めてだな。

 

「五感はすべて問題なし…普通の人よりもそれぞれ鋭いのは、やっぱり戦闘に慣れているからかしら?」

「幻想郷に来てからも弾幕じゃない、殺し合いを何度もさせられたからな。衰えさせる暇なんてなかったよ」

「私の知らない間に、幻想郷はどれだけ物騒になったのかしら」

 

俺も聞きたい。どうして異変解決をしようとすると、ほとんどの場合で弾幕ごっこではなく殺し合いをすることになるのだろうか。命の危機を感じたのも一度だけではないし、何度か平行時空観測すらも発生している。

俺もすべてを覚えているわけではないけれど、多分死にそうになった経験だけなら既に両手では足りないどころか十人に数えてもらっても足りないだろう。

 

「…」

「どうした?」

 

カルテを見ながら黙った永琳。こういう時の永琳は何かしら気になったことがあるときなので、ちょっと不安になってしまうのだが…

 

「いえ…これらの情報はきちんとこっちで管理するから安心してちょうだいね」

「まあ別に流出しても困るようなものじゃないが、頼んだ」

 

永琳は何事もなかったかのように俺のカルテを片付けた。永琳が何かを隠そうとしていたように見えたが、それが何かは俺にはわからなかった。

 

………

 

「ユズ、ちょっと成長した?」

「あううぅ…」

「緊張しないで大丈夫ですよー」

 

下着を脱いだユズの姿を見て、前との違いを思い返す。白い髪はきれいに整えられその毛並みはツヤツヤし、肌もしっかり、そして何より…なんというか、ちょっとだけ胸がふっくらしたような気がする。

全体的に見ても、前よりも女性らしさというのが出ているユズである。封印状態の私はユズよりも背が低いけど、並んでみると私のほうが年下のようにも見える。ユズの実際の年齢は知らないけどね。

 

「私、雲外鏡を見るのは初めてなんですけど、他の皆さんと同じで平常時は普通に女の子ですね」

「うぅ…」

「鈴仙、あまり触らないであげて。慣れていない人以外から触られるのは怖いのよ」

「あっ、ごめんなさい」

「いえ…」

 

前よりは人慣れしてきているけれど、未だに知らない人の前では言葉は詰まるし接触を嫌うユズ。私たちはもうユズにべったりくっついても特に問題はないけれど、やはり鈴仙のようなほとんど会わない人は無理らしい。

一応健康に関することだから受け入れてと伝えたけれど、やはり緊張してしまう様子。

 

「んーと、確かに身体測定の結果からして成長しているみたいですね。身長が数ミリ、バストとヒップも少しずつ、髪の健康状態もよく問題はありません」

「成長ねぇ…」

「数千年を生きる妖怪という種族からすると珍しい話ですね。紫さんとかは何千年前からずっとあの姿といいますし、人間の成長と同じような変遷をすることは極めて稀です」

 

ユズの場合、元々が不動によって色々と縛られていた状態だったようだし、その時は若干の失調も見られた。それに比べれば今の環境は、早寝早起きの三食栄養をとっている。

成長したというよりかは、減っていた分が戻ってきたと言ってもいいのかもしれない。封印状態だと、既に私よりも胸が大きいユズに少しばかりの視線を飛ばす。ご主人様はやっぱり胸は大きい方が…?

 

「ルーミアさん?」

「なんでもないわ」

 

一応封印解除状態の診断もしてもらったけれど、どちらも全く成長していないグラフを見て少しテンションが下がる。

私、大人の魅力とかないのかしら…

 

………

 

少しテンションの下がったルーミアと、緊張しているユズが応接間に戻ってきた。なぜルーミアのテンションが低いのか聞いても、ユズは分からず本人ははぐらかした。

 

「全員健康ね。定期健診はばっちりよ」

「そりゃどうも」

「これらの情報は私たちがしっかり管理するから」

 

まるで念を押すようにそう言う永琳。別に疑わなくても永琳が変なことに個人情報を使うとは思っていないが…

俺たちは鈴仙の案内のもと永遠亭を離れた。病気とかもなかったし、ひとまず安心して冬を過ごすことができるだろう。

 

………

 

「ほら、これがお望みなんでしょ?」

「~~~、別に欲しいとかそういうわけでは!」

「あら、じゃあこれはちゃんと隔離して保管しなくちゃ」

「あ、えと、その…」

「わざわざ因幡たちを遣わせたんだから感謝しなさい?」

「ありがとうございます…お二方」

 

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